紅葉シーズンの死亡リスクは夏山シーズンの2倍以上!?
これは長野県内で発生した過去3年間(2019〜2021年)の山岳遭難における、夏山シーズン(7〜8月)と紅葉シーズン(9〜10月)の負傷程度の割合です。
注目してほしいのが、青の「死亡」の割合。夏山シーズンの全遭難者に占める死亡の割合は8%(21名)に対し、紅葉シーズンは17%(34名/うち8%の15名はキノコ採り)と実に2倍以上の比率に増加しているのです。
逆に軽傷の比率は20%から13%に減少。2022年の紅葉シーズン、あなたが死亡・行方不明・重傷など深刻な山岳遭難の当事者にならないために……その対策は、今からでも十分間に合います!
紅葉シーズン、特に注意したいポイントは?
今回は島崎三歩の「山岳通信」(※)をもとに、2019〜2021年の9〜10月に発生した山岳遭難の事例を様々な角度から分析・検証。三歩からのアドバイスも交えながら、安全に紅葉登山を楽しむために注意すべきポイントを紹介します。
気温が下がる紅葉シーズンは転滑落・低体温症に注意
標高が1,000m上がると気温は約6℃低下します。山麓では爽やかで過ごしやすい季節ですが、3,000m級の稜線では氷点下になることも。
積雪・凍結した岩場や鎖・ハシゴからの滑落・転落が死亡や重傷につながることも多く、危険箇所での行動は夏山シーズン以上に慎重さが求められます。
こうした難所を含む山へのチャレンジに関しては、夏山シーズンよりも難易度を落とした山のセレクトが重要。「夏に同じ山に登れたから」は通用しません。

そのため、準備不足や判断ミスは、そのまま自身や仲間の生命に直結します。「リスク」を軽視することなく、充分な下調べを行うとともに、慎重な判断と行動をお願いします。
〜島崎三歩の「山岳通信」第243号(令和3年11月5日)より〜
もちろんこうした状況では、アイゼンやピッケルなど雪山登山に必要な装備の携行と、それを使いこなす技術が求められることは言うまでもありません。
現地の気象状況などを事前にしっかりと調べて積雪や凍結の有無を確認し、自分に雪山登山の経験やスキルがなければ、入山を控えることが賢明です。

今後、これらの山域を登山する際は、積雪や凍結に対応した装備品の携行や防寒対策が必須です。
〜島崎三歩の「山岳通信」第242号(令和3年10月28日)より〜
一方で疲労・凍死傷や病気、原因不明の死亡者もそれ以上に発生しています。多くのケースは「何らかの原因により、行動不能」と記録されていますが、気温の低下による低体温症が原因であった場合も多いでしょう。
特に荒天時は風速1m/s毎に体感気温が1℃低下、低体温症になるリスクがさらに高まるため入山の中止も視野に入れたいもの。
いつ雪が降ってもおかしくない紅葉シーズンの高山。防寒をしっかり考えたレイヤリングはもちろん、万が一行動不能になった場合のビバーク装備などの携行も、安全登山には欠かせません。
山岳地帯では、救助を要請しても実際にヘリや救助隊が到着するまでには、相当の時間を要します。アクシデントに遭遇し、行動不能になった場合でも、その場で一晩を過ごせるだけの最低限の装備(シェルター、防寒具、コンロ、非常食など)を携行するようにしましょう。 〜島崎三歩の「山岳通信」第240号(令和3年10月15日)より〜
登山道のない山でのキノコ採りも事故が多発
この3年間でキノコ採りでの死亡者も15名に上ります。多くは県内や近隣県在住者ですが、もしこの秋、キノコ採りに出かける予定があれば十分に注意が必要です。
そもそも登山道がない山で行われるキノコ採り、道迷いや急斜面からの滑落も多発しています。秋ならではの味覚に気を取られることなく、慎重な行動と家族への登山計画の共有が重要です。
・入山場所と予定を家族に伝える 以上5点に注意して行動してください。 〜島崎三歩の「山岳通信」第165号(令和元年9月27日)より〜
・携帯電話やヘッドライトを携行する
・急な斜面に入り込まない
・単独入山、入山後の単独行動を避ける
・熊などの野生動物に注意する
日没が早い紅葉シーズン、夜間にアクシデントに遭遇したら……?
秋分の日を境に、昼間よりも夜の時間が長くなります。樹林帯では午後のかなり早い時刻から薄暗くなることもあり、遅くとも日没の1時間以上前には下山する登山計画を意識することが大切です。
それでも万が一アクシデントに遭遇してしまったら、そしてその場所が携帯電話の電波が届かない場所だったら……そんな「もしも」の事態への対処も、島崎三歩の「山岳通信」でアドバイスされていますよ。
①行動を打ち切り、ビバークをして体力の温存・回復に努め、翌日に行動を再開する ②回復が見込めなければその場にとどまり、救助を待つ(計画書の届出と家族や仲間との共有が前提です) ③通りがかりの登山者に救助を要請する 等の対処が考えられます。 登山中に予期せぬ体調不良やケガに見舞われることは誰にでも起こりえることです。「もしも」に備えた準備を万全にしてから入山をしましょう。 〜島崎三歩の「山岳通信」第163号(令和元年9月17日)より〜
山岳紅葉のメッカ・涸沢カールでの山岳遭難に学ぶこと

紅葉シーズンの長野県でもっとも賑わうのは、何と言っても涸沢カールです。穂高連峰の岩稜をバックに広がるカラフルな紅葉は、誰もが一度は見てみたい憧れの絶景です。
上高地から涸沢カールまでの登山道はよく整備されており危険箇所もないため、登山経験の浅い人でもチャレンジ可能。ただし本格的な登山であることに変わりはなく、しっかりと体調を整えての入山が必須と言えるでしょう。
登山は、ルートや行動時間によっては、非常にハードなスポーツで、身体にも大きな負荷が掛かります。体力や筋力の低下は、滑落や転倒の原因になるほか、疲労による行動不能や、心疾患などのリスクも大きくなります。そのため、日頃からトレーニングを行い、体力や筋力を維持し、遭難のリスクを減らしましょう。 また、計画の際には、経験の浅い方は少しづつステップアップをする計画を、ベテランの方は自身の力量を過信しない計画を立てましょう。 〜島崎三歩の「山岳通信」第238号(令和3年9月29日)より〜
また危険箇所はないとはいえ、涸沢カール周辺は浮石などもあるガレ場。転倒による山岳遭難の3名のうち、2名は重傷を負っているのです。
また雪が溶けた晩夏〜秋限定のルート、パノラマコースは切り立った絶壁を鎖を頼りにトラバースする難易度の高いコース。初心者が安易に足を踏み入れるのは危険です。
紅葉シーズンは登山道も混雑し、すれ違いの際に谷側へ滑落することも。一見すると平易な一般登山道上であっても、気を抜かず慎重に歩みを進めてください。
浮石によるバランス崩し、砂利でのスリップ、岩や木の根でのつまずきなどが直接的な要因となっていますので、下山するまで気を抜くことなく、慎重な行動をすることが大切です。 せっかくの登山もケガをしてしまえば台無しになってしまいます。慎重な行動は、ゆとりある日程が前提となります。自身の体力や技術に見合った計画を立てましょう。 〜島崎三歩の「山岳通信」第202号(令和2年10月9日)より〜
標高の低い里山でも油断は禁物!
標高が高い日本アルプスや八ヶ岳連峰に積雪が訪れるようになると、紅葉前線は低山や里山へと下りてきます。しかし低山だからと言って油断は禁物、道標や登山道が整備されていない山も多く紅葉シーズンには山岳遭難の比率が高まるのです。
もちろんこれらの山域での山岳遭難には前述のキノコ採りも含まれますが、標高の高い山と同様の登山計画と心構えを忘れないようにしたいものですね。
都市部では、まだ日中は暑さが続いていますが、県内の山域は既に秋を迎えており、稜線上で風雨に曝されると、簡単に低体温症になってしまいます。 「ちょっと紅葉を見に・・・」そんな気軽な観光気分の延長で入山することがないよう、事前準備と下調べを十分に行いましょう。 〜島崎三歩の「山岳通信」第200号(令和2年9月29日)より〜
活かしてこそのデータ。過去の事例を他人事にせず安全な登山を!
この他、3年間のデータを集計すると上記のように様々な傾向を見出すことができます。
そしてこれらのデータは単なる数字ではなく、数多くの登山者やその家族の痛みや悲しみ、救助にあたった人々の計り知れない苦労の積み重ねなのです。
制作協力:長野県山岳遭難防止対策協会
