コマクサってどんな植物?
コマクサはケシ科コマクサ属に分類される植物で、高山帯の砂礫に生息します。コマクサ属は世界におよそ20種が知られていますが、日本で自生するコマクサは1種のみ。厳しい環境下で美しい花を咲かせるコマクサは「高山植物の女王」ともよばれ、多くの登山者の憧れでもあります。
コマクサの草丈は5cm~10cmほど。地面にこんもりとかたまり状になって葉を広げています。葉は細かく切れ込んでいてモサモサとしており、パセリのようなイメージが近いかもしれません。
コマクサの葉には水をはじく性質もあり、独特の形状をした葉の部分で空気中の水分を集めて水滴をつくり、根元を潤すようになっています。
漢字で「駒草」と書くコマクサ。これは、コマクサの花が馬(駒)の顔に形がよく似ていることに由来します。地域によって違いがありますが、コマクサの花期はおおむね7月~8月ごろ。葉っぱのかたまりからすっとのびた花茎は最大で15cmほどになり、その先端に長さ2cmほどの花が1個~数個咲きます。
花弁は4枚、色は赤色~ピンク色で先端部分が白色。4枚の花弁のうち外側の2枚は先の方が反り返り、内側の2枚は中央に長くのびています。
地上に出ている部分は5cm~10cmほどのコマクサですが、風雪の影響を受けて常に不安定、かつ栄養分も乏しい砂礫地に生育するため、地中にはった根は2m~3mにもなるそうです。
コマクサが生育する高山帯の砂礫地は、他の高山植物にとっても生育が困難な環境。コマクサがこのような場所を自らの生育地に選んでいるのは、他の植物との競争を避けるためといわれています。
言い換えると、コマクサはそういった“競争”にとても弱い存在である、ということでもあります。
一部の地域では絶滅したコマクサ
ケシ科の植物であることから気がついた方もいるかもしれませんが、コマクサは実は有毒植物でもあります。成分としてプロトピンなどのアルカノイド(窒素を含んだ天然の有機塩基類)を含んでいて、多量に摂取すると呼吸不全などに陥ることも。
上手に使えば麻酔や鎮痛などに効果があるため、かつては薬草としても利用されてきました。しかし、「薬草」として明治~大正にかけて乱獲され、中央アルプスや南アルプスにおいては昭和初期にコマクサが絶滅。これらの地域で現在みられるコマクサは、絶滅後に人の手によって他地域から持ち込まれたものです。
薬草として乱獲されることはなくなったコマクサですが、コマクサを取り巻く環境は残念ながら今も安心できるものではありません。
美しい花を咲かせる孤高の高山植物として人気の高いコマクサ。コマクサが自生するエリアには保護のために柵が設けられていたりロープが張られていたりすることも多いですが、柵やロープを越えて侵入し、踏みつけてダメージを与えてしまう“踏み荒らし”などが度々問題となっています。
コマクサが暮らすのは、気温が低く栄養分も非常に乏しい高山の砂礫。そのためコマクサの生育スピードは非常に遅く、芽が出てから花が咲くまでに数年かかるといわれています。
ただでさえ厳しい環境下で暮らしているわけですから、踏みつけなどによるダメージは極めて大きく、回復できない場合もあります。