山での快眠を奪う「いびき」という存在
山小屋やテント場での貴重な休息時間「夜の睡眠」。しかし……
「ズゴー……ズゴー……ズガッ!(しばし静寂)……ズゴー……ズゴー」
誰かのいびきが気になって寝られないこと、ありませんか?
今回は「いびき」についてフォーカスします。「私、いびきをしてしまうんだよね。どうにかならないかな?」とお悩みの方や「いつも一緒に登山する人のいびきが、少々気になるんだよね」という仲間をお持ちの方はぜひご参考に。いびきのメカニズムやいびきに潜むリスクを紐解き、自分でできる「いびき解消メソッド」をご紹介します。
すべての登山者に、穏やかな山の夜がやってきますように。
監修は睡眠の専門医!
白濱龍太郎 医師
睡眠・呼吸器内科の専門クリニック『RESM新横浜』の院長。睡眠の質や無呼吸症候群などの睡眠にまつわる病気を適切に診断するために、最新の医療機器をクリニックに導入。日本睡眠学会認定施設として専門医療を提供している。
RESM新横浜
睡眠専門医いわく「いびきは周囲を不幸にします」

……と唱えるのは、RESM新横浜院長・白濱龍太郎医師です。
指摘の通り、寝ている本人は自身の轟音を耳にすることはありません。「ガーガー、グーグー」という騒音に苦しむのは周囲の人々なのです。仮に毎日いびきを聞かされると、パートナーにこのようなリスクがあると白濱医師は指摘します。

仮に山での夜を考えてみましょう。たかが一夜とはいえど、いびきをすることで周囲の人が不眠に陥ると、体力が十分に回復しなかったり、翌日の集中力を欠いてしまったりと、チーム全体が危険にさらされてしまうかもしれません。
そう考えると、「山小屋でのいびきはマナー違反」といっても過言ではありません。
いびきのメカニズムとは?原因は?
山といびきの関係性について知りたいところですが、まずはその前にいびきの基本的なメカニズムを知りましょう。
いびきは鼻やのどなどの気道が狭くなったところを、呼吸時に空気が無理やり通り抜けようとする際に音が鳴る現象です。
- ・骨格的に小さいあご
- ・大きなのどちんこ
- ・扁桃腺の腫れ
- ・肥満
- ・加齢による舌の筋肉の衰え(舌根沈下)
主にこのような要因が考えられますが、現代の医学を持ってしても解明されていない部分が多く残されていると言われています。
いびきの放置はダメ! 睡眠時無呼吸症候群の危険性
十分な気道が確保されなくなることによって起こるいびきは、「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」の兆候を示す重要なサインです。
睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に一定時間呼吸が止まったり、止まりかけたりする状態が、起床するまでに何度も繰り返され、眠気などの症状を伴う病気です。いびきが悪化すると睡眠時無呼吸症候群を引き起こす可能性が高くなると考えられています。
睡眠時無呼吸症候群は深い睡眠(ノンレム睡眠)を妨げるため、脳がまったく休まらずに疲労が蓄積されるほか、血圧の上昇や不整脈を起こすリスクが高くなるのです。
思い当たるフシあり?いびきを誘う悪習慣
気道が狭くなる状況を生み出すのは、実は身近な生活習慣にありました。代表的な例を見ていきましょう。
筋肉をリラックスさせすぎる「飲酒」
山の夜はお酒と決めている方は要注意。少量のお酒は程よいリラックス作用がありますが、飲み過ぎはいびきの大敵です。お酒を大量に摂取することで、リラックスを通り越し首回りの筋肉が緩み、のどの気道が狭まります。
また睡眠中にお酒が体内で分解されることによって、交感神経が刺激され、脳と体が休息しづらい状態になるため、睡眠の質も低下してしまうのです。
なかなか直らない「口呼吸」のクセ
口を開いて呼吸をすると舌が落ち込み気道を狭め、いびきを誘発させてしまいます。季節によっては花粉症を含むアレルギー性鼻炎で鼻が詰まってしまうという人も多いはずです。
また幼少期に鼻炎を患っていた人も注意です。一度身についたクセはなかなか直りづらいものですので、気付いたら寝ているときに口呼吸しているかもしれません。
ついついダラダラ。寝る前の「スマホ」
いびきの発生率と深く関係しているのが、睡眠の質です。いびき軽減は良質な睡眠があってこそとされています。
寝る前にスマートフォンを長時間眺めることは、体内時計に影響を与え、睡眠のリズムを崩す原因となります。山の夜でスマートフォンを眺める時間は短いかもしれませんが、日常生活ではいかがでしょう?常に質の高い睡眠を取るために、普段から寝る前のスマホやテレビ、PCはほどほどにしましょう。
あなたは大丈夫? 6項目で簡単セルフチェック
「私はいびきを絶対にしていない!」と思い込んではいませんか?
実は今までいびきをしていなかった人も、体型変化や加齢によっていびきをかいてしまう可能性もあります。家族と住んでいる方は、家族にチェックしてもらうという方法がありますが、ひとり暮らしの方はなかなか難しいもの。そこで実践してほしいのが「いびきを自覚するためのセルフチェック」です。
(1)鏡を見てチェック
鏡の前で口を開け、舌を出して、奥までのぞき込みます。舌の太い人、舌が長い人、のどちんこの大きい人は要注意です。
(2)病歴を見てチェック
扁桃腺の腫れやすい人やアレルギー鼻炎を持っている人、口呼吸の癖がある人は注意です。
(3)睡眠時・起床時の体の状態でチェック
いびきがひどく無呼吸症候群になると、眠りが浅くなる傾向にあります。そのため夜中に何度も目が覚めたり、トイレへ行く頻度が増えたり、汗をかきやすくなったりします。
(4)日中の眠気や倦怠感をチェック
十分な睡眠時間を取っているはずなのに、日中に猛烈な睡魔が襲ってきたり、体がだるかったりするケースは要注意。無呼吸症候群を発症している可能性があります。
(5)アプリを使ってチェック
いびきチェック用や睡眠時無呼吸チェック用のスマホアプリを活用して、寝ている際の音声を録音するという方法です。医学的な診断には使えませんが、モニタリングするには十分です。
(6)大人数で泊まったときにチェックしてもらう
いちばんシンプルなのは第三者に確認してもらうという手。複数名で泊まりに行って、実際にいびきをしているのかチェックしてもらいましょう。事前に「いびきをしていたら言ってね」と注意喚起しておくとスムーズかもしれません。
超簡単「いびき解消メソッド」とは?
「いびき解消メソッド」は自分自身で実践できる有効な手段です。3ステップでいびきの軽減が期待できるというこの方法は、今日から実践できる簡単メソッド。いびきに悩む人、そして身近な人にいびきを治してもらいたい人は、ぜひチェックしてみてください!
(1)舌の筋トレをする
舌の筋肉を鍛えることによって、舌根沈下の抑制を目指します。現状よりも舌を強化できれば、寝ている時でも舌がのどの奥に落ちず、気道が確保できるようになります。筋トレは毎日コツコツ積み重ねるのがポイントです。
(2)横向きで寝る
シンプルな方法ですが、「横向きで寝る」ことがいびきを改善することにもつながります。
仰向けで頭が枕に沈み、あごが前に出ている状態は、舌が落ち込みやすくなります。一方、左右どちらかに横向きで寝ると、物理的に気道を狭めない働きをするのです。
無意識下でも横姿勢をキープするために、入眠時に横向きになるクセを付けることや、抱き枕やクッションを活用するのがおすすめです。
(3)毎朝、みそ汁を飲む
みそ汁を毎朝飲む習慣は、良質な睡眠をもたらすのに適した方法です。睡眠の質を上げることで、いびき軽減の効果が期待できます。

なお、毎朝のみそ汁は凝ったものでなくてOK。さらにトリプトファンは納豆や豆腐などの大豆製品、牛乳やヨーグルトなどの乳製品にも含まれています。いちばん食べやすく続けやすい方法で毎日食べるのが大切です。
「いびき解消メソッド」をもっと詳しく知りたい方は
今回紹介したメソッドは『睡眠専門医が考案した いびきを自分で治す方法』に掲載されていた方法を簡単にまとめたものです。書籍にはより詳しい「いびき解消メソッド」のやり方が図解付きで載っているほか、夜までぐっすり眠る方法掲載されています。もっと知りたい方は本書をチェックしてみてくださいね。
「睡眠専門医が考案した いびきを自分で治す方法」著:白濱龍太郎
実践しても改善されなかったら……
いびきが睡眠時無呼吸症候群の症状のひとつとして現れている可能性もあります。睡眠時無呼吸症候群は、心臓病や生活習慣病の危険度を増加させる重要な病気です。
いびきを軽減するための自身での取り組みをしても軽減しなかったり、日中に眠気等を伴っている方は、日本睡眠学会の専門医に相談をしてみることをおすすめします。
実は影響あり?登山といびきの意外な関係
日常生活と一線を画した環境である山の上。気温や寝具も違えば、酸素濃度も異なります。山での睡眠といびきの関係、気になるそこのところ、聞いてみました!
高地での睡眠(低酸素状態)といびき
山小屋や山でのテント泊は、多少なりとも普段より酸素濃度が薄いと考えられます。その環境はいびきに影響を与えるのでしょうか?
低酸素自体は、呼吸回数、心拍数の増加、しいては交感神経過緊張の原因となります。そのため、睡眠の質としては、浅い傾向が出てきてしまいます。そのためいびきが増加する可能性があります。また登山後に就寝する際に疲労に伴う上向き体位での睡眠の増加によっていびきが生じることも考えられます。
睡眠時間の前倒しがいびきの与える影響
早寝早起きが基本の登山では睡眠時間がほぼ前倒しとなります。睡眠やいびきへの影響はありますか?
睡眠時間が前倒しになることでのいびきの増減はあまりないと思われますが、体内時計が、通常の睡眠時間に合わせて働いているため、早く寝ようとしても寝付けない可能性があります。
睡眠時間の前倒しを想定して、事前に登山者ができるいびき対策はありますか?
登山数日前より早寝早起きに体を慣らすことが大切です。慣らすときもいきなり早寝はできないので、睡眠時間が短くなっても、早起きをして、その結果早寝する流れが必要です。
いびき対策に効果的なアイテム
万一山でいびきをしてしまったら……と思うと不安です。いびき防止用のおすすめアイテムはありますか?
いびきは他の登山者に対しても睡眠の妨害となるため配慮が必要です。手軽に持参できる、口テープ、ブリーズライト、マウスピース等がおすすめです。また医師からいびきが重症だと診断された人は、小型バッテリー駆動のCPAP*を持参することをすすめられるケースもあります。
アウトドア寝具といびき
寝袋で寝る場合は、フロア環境や枕の有無など普段と異なります。いびきをしてしまう人が寝る際に注意した方がいいことはありますか?
寝返りが打てる状態で、エアマットで横向きでの体位がキープできる程度肩が落ち込むのであれば、いびきはそれほど増悪しないと考えられます。枕などの使用で頭と体の高さが変わる場合では、頭が高い方が気道狭窄のリスクが高まり、頭が低い方が気道狭窄のリスクが減る=いびきが減ると考え考えられます。
登山者だからこそ、ちゃんと「いびき」を考えよう
日常的に起こりうる「いびき」は、自分にとっても周囲にとっても百害あって一利なしの症状です。なおかつそれが山行中に起こりうると考えるのならば、早急に解決しなければならない問題のひとつでしょう。
山での睡眠時間は誰にとっても重要な休息。誰かの睡眠時間を奪わぬように、「いびき」についてちょっと本気で考えてみませんか?