生理中の登山、もう大丈夫。女性スポーツ研究センターに聞いた「生理との正しい付き合い方」
毎月やってくる生理と趣味の登山の両立に悩んでいる女性も多いはず。生理日に登山をしていいの?生理痛やPMSとの上手な付き合い方ってある?多くの山ガールが疑問に思っていることを、スポーツと女性について研究する順天堂大学「女性スポーツ研究センター」に聞いてきました。正しい知識を持って、しっかりと準備をすれば月経日の登山も大丈夫。生理を憂鬱に感じるすべての女性におくる記事です。
2022/12/27 更新
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監修者
女性スポーツ研究センター 研究員
奈良岡佑南
2014年に順天堂大学に設立された「女性スポーツ研究センター」。研究という視点から女性アスリートを支援することを目的とした機関です。女性アスリートのコンディショニングや女性の体力・健康づくりなど、女性とスポーツ全般の研究を行っています。女性のコンディショニングを中心に研究や講演。
奈良岡佑南のプロフィール
編集者
YAMA HACK編集部
月間350万人が訪れる日本最大級の登山メディア『YAMA HACK』の運営&記事編集担当。山や登山に関する幅広い情報(登山用品、山の情報、山ごはん、登山知識、最新ニュースなど)を専門家や読者の皆さんと協力しながら日々発信しています。
登山者が「安全に」「自分らしく」山や自然を楽しむサポートをするため、登山、トレイルランニング、ボルダリングなどさまざまなアクティビティに挑戦しています。
YAMA HACK編集部のプロフィール
制作者
全天候型野外アウトドアライター
大城 実結
全天候型野外ライター。登山をはじめ自転車やトレイルランニングなど幅広く楽しむ。比較的どこでも寝られる体質を持つ。
大城 実結のプロフィール
アイキャッチ画像出典:PIXTA
生理中の登山、やはり何かと不安です

出典:PIXTA
仕事であろうが登山日であろうが、生理は関係なしにやってきます。女性特有ということに加え、一人ひとり症状も違えば周期も違うため、大きな声で話しづらいセンシティブな話題です。
以前、YAMA HACKでも生理にまつわるアンケートを実施し、多くの女性登山者が悩みを抱えていることが明らかとなりました。
しかし不安を抱えたまま登山へ行くのはいかがなものでしょうか。正しい知識を身に付けて安全な登山を楽しむことこそ、女性の登山のたしなみ方かもしれません。
今回は女性とスポーツについて研究する順天堂大学「女性スポーツ研究センター」に取材をし、生理と登山にまつわる疑問を解き明かしてきました。
順天堂大学「女性スポーツ研究センター」って?

2014年に順天堂大学に設立された「女性スポーツ研究センター」は、研究という視点から女性アスリートを支援することを目的とした機関です。女性アスリートのコンディショニングや女性の体力・健康づくりなど、女性とスポーツ全般の研究を行っています。
順天堂大学「女性スポーツ研究センター」
教えてくれたのは、奈良岡佑南先生

撮影:編集部
今回お話を伺ったのは、女性スポーツ研究センターの研究員・奈良岡佑南先生。女性のコンディショニングを中心に研究や講演をされています。
生理中の登山はOK。ただし必要なのは「管理すること」です
──まず多くの女性登山者が抱く根本的な疑問「生理中に体を動かすことは大丈夫?」については、実際どうなのでしょうか。
生理中のスポーツは
体にも問題はありません。当研究センターでも普段と生理中でのパフォーマンス変化を調査しまして、生理が筋力発揮に影響することはないという結果を得られました。生理は病気ではないので運動することは問題ないんですね。
一方で生理の症状として腹痛や腰痛などがある方は、そんなに無理をしなくてもいいとは思います。

撮影:編集部
──生理だからといってお休みする必要はないのですね。けれど、先生が仰ったように、生理前〜生理中の諸症状に悩んでいる方も多いと思います。アスリートのみなさんはどうされているんですか?
近年、日本でも女性アスリートのコンディショニングに関する研究が進み、生理中でもストレスなくスポーツを楽しむ方法が確立されつつあります。そこで欠かせないのがこの3つのポイントです。
日本の女性アスリートの多くは試合で最高のパフォーマンスを発揮することを目標に、自身のコンディション管理を行っています。これはアスリートだから、アマチュアだから、と分けるのではなく、スポーツを楽しむ女性誰もが実践できる方法なんですよ!
──おお〜! 「生理とぶつかりませんように……」と神頼みするのは時代遅れなんですね。
「登山中に突然生理が来たんです」は偶然です

出典:PIXTA
──そういえば読者アンケートに「予定外に生理が突然やってきた」「登山中に急に始まって驚いた」という意見が集まったんです。これって何かカラクリがあるんですか?気圧とか、緊張とか……。
いえ、単なる偶然でしょう(笑)
登山のときに生理が来たから印象的に覚えているのだと思います。実際はあまり関係ないのではないでしょうか。
予定よりも早く来たのであれば、基本的には排卵自体がいつもより早かったということです。基礎体温を測るなどで自分の生理周期を知っていれば、このような事態は防げたかもしれませんね。
──これが大切なポイントの1つ目「自分の体を知ること」なんですね。
生理周期と体調の関係
自分の体を知る前に、生理(月経)を正しく理解するところから始まります。
月経とは一定期間内で妊娠をしなかった場合に、要らなくなった子宮内膜が剥がれ落ちる現象で、その際に剥がれ落ちた内膜が月経時の出血となります。出血した日から次の出血の前日までを月経周期と呼び、25〜38日が正常月経周期と言われています。
基礎体温を測ることは「自分の体を知ること」

出典:PIXTA
月経周期を正しく知る最大の手がかりが「基礎体温」です。基礎体温は、朝目覚めてすぐの体温のことで、月経から排卵まで(卵胞期)は体温が低く、排卵を境に高くなるのが一般的と言われています。
排卵から月経までの期間を黄体期と呼び、卵胞期との体温差は0.3℃以上あることが理想と言われています。

出典:PIXTA
黄体期はおよそ7〜10日続き、その後、月経がやってきます。つまり
基礎体温を知ることは、自身の月経周期を知ることなのです。
仮に排卵日を知っていれば、おおよその生理開始日が計算できるので、「準備していないのに、突然やってきちゃった!」という事態を防げます。
──自分を知ることの第一歩は基礎体温の把握なんですね。……と分かっておりながらも、なかなか長続きしないんです。計測途中に二度寝してしまったことも何度もありまして。長続きする方法ってあるんですか?
大丈夫ですよ。今はかなり高性能な婦人体温計が発売されており、計測も10秒で完了し、データをBluetoothでスマホへ転送することもできるんです。体温グラフもアプリ内で管理ができるため、とても便利ですよ。

撮影:筆者(取材後、筆者も婦人体温計を購入。素早い計測で二度寝する隙を与えてくれない体温計です!かな〜りおすすめ)
また年間を通じて
総合的にコンディション管理をしたい方は、私たちの研究センターが作った「女性アスリートダイアリー」を活用してみてください。基礎体温の記入から詳細な諸症状まで記録でき、スポーツをする女性には欠かせない知識もたくさん載っています!

撮影:編集部
生理痛とPMSも日々のコンディショニングで軽減できます
──自分の生理周期を知ることができたら、次はコンディションの管理ということですが……。私も生理前〜生理中の症状がなかなか重いので、しっかり聞きたいお話です。
生理不調はかなり多くの女性を悩ませている症状で、「生理痛」と「PMS」の二つに分類されます。
生理痛を軽くしたいなら、湯船に毎晩浸かりましょう

出典:PIXTA
生理痛を軽くしたいなら、毎晩お風呂に入ることが有効とされています。シャワーだけじゃなくて、お風呂にも浸かってくださいね。
──なぜ入浴が効果的だと考えられているんですか?
お風呂に入ると血の巡りが良くなりますよね。生理痛は血を押し出すために子宮が収縮し発生する痛みなので、普段から血の流れを良くしておくことで軽減すると考えられています。
──言われてみれば納得です。
あと、平均体温が高い人ほど生理痛が軽いような傾向があるようにも思えます。そのためには入浴をはじめ適度な運動や睡眠も大事なことなんですよ。
PMSを軽減するならマグネシウム・たんぱく質や日光浴が効果的

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──実は今回の取材前に、奈良岡先生が監修された書籍『
生理で知っておくべきこと』を読んできたんです。目から鱗の事実がたくさんあったのですが、特に驚いたのが
マグネシウムやたんぱく質の大切さと、
日光の重要性でした。
毎月の生理は生活習慣の通信簿

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──と、まだまだ実践すべき体のメンテナンスはたくさんありますが、詳しくは『生理で知っておくべきこと』にすべて書かれているので、気になる方は読んでいただくとして。やはりPMSや生理痛の軽減に大切なのは、適切な睡眠・3食しっかり食べる・適度な運動なんですね。
そうですね。正しい生活を送ることで生理不調の症状が緩和すると考えると、日々の生活習慣の結果が生理時に返ってくると捉えることもできます。
──ただ漫然と「規則正しい生活をしよう」と考えると億劫になりますが、生理が生活の通信簿、そして不調が緩和されると思うと……なんだか頑張れそうな気がします。
またPMSや生理痛で自分がどんな症状を感じるのか認識することも大切ですよ。例えば生理前で怒りっぽくなってしまうことを知っていれば、登山する前に「今日わたし怒りっぽいかもしれない。でも気をつけるね!」と注意喚起することもできますし。
──一人ひとり違う症状だからこそ、自分のことは自分で把握しておくことが大切なんですね。
生理中の登山にはこの2つの方法で

撮影:編集部
そして3つ目のポイント「生理当日の対策」です。実は日本の女性アスリートたちの多くが今まで頭を悩ませてきた問題で、この数年で大きく進化をした分野とも言われています。
タンポンの活用
日本は諸外国と比較して、女性アスリートのタンポン使用率が著しく低いということが、2017~2018年に実施したアンケートによって明らかになりました。
長時間快適に過ごすのに有効な手段なのですが、学校の保健体育で使用方法を取り上げないこともあり、なかなか普及していないのが事実でした。
──確かに学校では習わなかった気がします。そうなると家庭や友人の影響など、かなり個人差が出てしまいそうですね。

撮影:編集部
そこで、⼥性スポーツ研究センターがメーカーに委託し、タンポンを使ってもらえるようにパッケージを⼯夫した商品をアスリートたちへ提供しました。
またナプキン派の⽅も、快適にスポーツが実施できるよう、⼥性スポーツ研究センターの研究データも活⽤し、スポーツ⽤ナプキンを開発。2020年4⽉から商品化され、ドラッグストアでも購⼊できるようになりました。
──ここ数年でスポーツをする女性の生理対策の手段が増えたんですね。となると、
生理中の登山でもタンポンもしくはスポーツ用ナプキンを使用するのが良さそうですね。
現在、日本で発売されているタンポンは厳しい検査基準をクリアして製品化されたものなので、TSS(トキシックショック症候群)のリスクはかなり低くなっています。用法を守って使えば、生理中のアクティビティも安心しながら快適に楽しめると思いますよ。
※TSS(トキシックショック症候群)については
こちら月経調整という手段も
また事前に生理日と登山がかぶりそうなことが分かっているのなら、低用量ピルで月経周期を調整し、生理日をずらす「月経調整」も有効な手段です。
──そんな簡単に周期をずらすことができるんですか?

出典:PIXTA
はい、今ではかなりメジャーな手段だと思います。産婦人科(レディースクリニック)で、月経調整をしたいと言えば多くの病院で低用量ピルを処方してもらえると思います。費用もお薬は1シート2,500〜3,000円程度と比較的リーズナブルです。
──“ピル”と聞くと、ポジティブなイメージだけでなく、ネガティブなイメージを持った方も多くいらっしゃるような気がします。実際のところはどうなのですか?
上の世代にとってのピルは「高容量ピル」が一般的かもしれません。高容量は低容量と比べて副作用が強く出てしまうことが多く、今のイメージとは違った印象を抱いている可能性がありますね。また、“ピル=避妊”のイメージを強く持たれていたり。
なお、低容量ピルも合う合わないは個人差があるので、まずはお医者さんに相談してみるのも良いでしょう。
──産婦人科と聞くとちょっと緊張しちゃうんです。病気じゃないのに申し訳ないというか、なんと言いますか。
いえいえ、気軽に行っていただいて大丈夫ですよ。受付で「月経調整をしたくて」と伝えればOK。気構えることなく、気軽に相談してみてくださいね。
ライトな登山ならタンポンがいいですよ

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登山ならではの不安として「衛生面」が挙げられます。登山道には決して衛生的とは言えないトイレばかり。道によってはトイレさえないルートもたくさんあります。その中での生理中の登山となると、においが気になるという方も大勢いらっしゃるようです。
──例えばドラッグストアでも購入できるデリケートゾーン用のシートで拭く、というのも有効な手段なんでしょうか?
それもひとつの手ですが、拭きすぎには注意です。というのも陰部には常在菌という“いい菌”もたくさんいるため、拭き取りすぎることで菌のバランスが崩れてしまう可能性もあります。
──気になるからといって、神経質になりすぎると裏目に出てしまうんですね。
環境や経血の量によってどれほどにおいが発生するかは変わってきますが、
においのもととなる菌の繁殖はナプキンよりもタンポンの方が抑えられると思います。
経血が外気に触れることで菌の繁殖が始まるため、体内にある限りにおうことはありません。その点、タンポンは体内に経血を留めておくことができることから、におい対策としても有効な手段と言えるかもしれませんね。
──タンポンはムレやモレ、ズレを防止するだけでなく、においの発生も抑えてくれるんですね。良いことを聞きました。
一方でタンポンは連続使用ができないなど、使用上の制限もありますので登山計画に合わせて確認してみてください。
──となると、きちんとトイレのある行程や、日帰りのトレッキングなど
比較的ライトな登山に向いているのかもしれませんね。
テント泊なら「月経調整」を検討してみてくださいね

出典:PIXTA
──テント泊を含む山行や数日がかりの登山となると、ナプキンやタンポンだけだと心許ない気もします。
そんな時にはやはり月経調整が一番安心できると思いますよ。
──そうですね。月経調整をするには産婦人科へ相談ということですが、その前に自分の生理周期を知り、日々コンディションを管理することも、快適な登山に繋がるんじゃないかと思いました。
アスリートにとっての本番は試合やレースですが、実は山登りが趣味の方も考え方は同じだと思うんです。登山日が本番とするならば、それに続く日々は練習やコンディショニングを欠かせません。
普段から登山本番を想定して生理周期を含めた体調管理をすることで、快適に安心して山へ出かけられるようになると思いますよ。
危険と隣り合わせの登山だからこそ

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取材中に印象的だった言葉があります。それは「登山での体調不良は、重大な事故に繋がる」というものでした。
例えば生理でお腹が痛かったり、眠かったり、体調が万全でなかったりすると、登山への集中力が途切れてしまいますよね。それが重大な事故に繋がる可能性も大いに考えられます。登山をする女性こそ、改めて生理について考えてほしいと思うんです。
女性もアクティブに登山を楽しめるいまだからこそ知っておきたい生理と体の関係。あなたの感じる不調や違和感は、体からの大切なメッセージなのかもしれません。
次の山行の前に、自分の体のこと、生理のこと、少しだけ振り返ってみませんか?
【参考文献】
女性スポーツ研究センター(https://www.juntendo.ac.jp/athletes)
細川 モモ(2021)『生理で知っておくべきこと』 日経BP
女性スポーツ研究センター(生理用品調査)
女性アスリートダイアリー 2022 [ 女性スポーツ研究センター ]
編集:女性スポーツ研究センター
発行所:大修館書店
発行年月:2021年10月
生理で知っておくべきこと 自分の体を守る正しいデータを持てなかった女性たちへ
著者:細川モモ(著) 佐藤雄一(監修) 奈良岡佑南(監修)
出版社:日経BP
発行年月:2021年05月
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