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山で必要な水分量

ただ飲むだけはNG!?山で必要な水分量と、それを効率よく身体に取り込む方法とは

飲めば飲むほどいいと思っていた水分。不足すると熱中症などの要因にもなりますが、実は飲み過ぎも害があるんです。登山では、自分の必要な水分量を知って、回数を重ねるごとに細かい調整を重ねながら自分にぴったりの量を把握していくことが大切。そこで今回は、「自分に必要な水分量」と「効率の良い水分の摂り方」について紹介していきます。ぜひ参考にしてみてくださいね。

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目次

脱水が心配と、水を飲めるだけ飲んでいたら……

水を飲む人 イラスト

編集:YAMA HACK編集部、出典:いらすとや

以前登山で水不足におちいってしまった経験があるA男さん。気温も暑いし、脱水になったら大変!と山に登る前からたくさんの水を摂取して、登山に臨むようです。

登山者 水 イメージ

編集:YAMA HACK編集部、出典:いらすとや

さらに山小屋についてからも、売店で水を購入してどかどかと飲んでいきます。

すると……なぜか下山中フラフラに。

水不足の人

編集:YAMA HACK編集部、出典:いらすとや

意識がはっきりしなくなったり、筋が痙攣してきてしまったりと歩けなくなってしまいました!

脱水にならないようにとたくさん水を飲んだはず。なぜA男さんはこのような状態になってしまったのでしょう?

運動生理学に詳しい教授へ「登山で必要な水分量」について伺いました!

山本正嘉さん

提供:山本正嘉教授

山本正嘉(やまもと・まさよし)
1957年生まれ。東京大学大学院修了。博士(教育学)。現在、鹿屋体育大学教授および同大学スポーツトレーニング教育研究センター長。さまざまな登山家やアスリートに対して科学的なトレーニングサポートを行ってきた。2001年に秩父宮記念山岳賞、2021年には日本山岳・スポーツクライミング協会から日本山岳グランプリを受賞。

2016年にこれらの成果をまとめた『登山の運動生理学とトレーニング学』(東京新聞出版局)、
2021年2月に『アスリート・コーチ・トレーナーのためのトレーニング科学〜トレーニングに普遍的な正解はない〜』(市村出版)を出版。

教授にお話を伺ったところ、どうやらA男さんは「自分に必要な水分量以上を摂取してしまった」ことが問題のようです。

山本教授
運動によって多量の水と塩分が失われた身体に、水だけを多量に飲むと体液が薄まってしまい、ケイレンや意識障害が起きてしまうことがあります。これは飲み過ぎの害、「水中毒」というんです。

つまり、登山中の水分は取りすぎも取らなさすぎもNG!
そこで今回は、「自分に必要な水分量」「効率の良い水分の摂り方」について紹介していきます。ぜひ参考にしてみてくださいね。

ズバリどれだけ持っていけばいいの?自分に必要な水分量をチェック

自分に必要な水分量を知るためには、まず自分がどのくらい脱水しているのかを計算式で出してみましょう!

行動中の脱水量 計算式

出典:登山の運動生理学とトレーニング学、編集:YAMA HACK編集部、出典:いらすとや

登山中の脱水量は、【行動中の脱水量(ml)=体重(kg)×行動時間(h)×5(脱水係数)】で求められます。脱水係数とは、さまざまな登山における脱水量の統計から、1時間・体重1kgあたりに相当する値を表したもの。

体重60kgの人が標準的なタイム(※)で8時間歩くとすると、60×8×5=2,400なので2,400ml。この7〜8割の水分を摂取することが目安となるので、1,680〜1,920mlの水分が必要とわかります。
※標準タイムとは、コースタイム通りに歩くイメージ。目安としては、累積1,000mの標高差を登下降する時間が平均約6時間であること。出典:登山医学

荷物が10kg以上の場合は、その重さを含めた式もあります。ただその日の気温や自身の発汗量などに応じて、紹介した式の脱水係数を調整する方が汎用性が高いのでオススメ。調整の仕方をみていきましょう。

歩くペースや気温に応じて、脱水係数を調整

下の3つのポイントをもとに、脱水係数を調整。

・運動負荷
・気温
・発汗量

よりその日の状態に合った脱水量を求められます。

脱水係数を微調整するための目安

出典:登山の運動生理学とトレーニング学、編集:YAMA HACK編集部、出典:いらすとや

先ほどの例に加えて、体重60kgの人が標準的なタイムで8時間歩く+気温が25度以上の場合は、脱水係数を6〜8で計算します。つまり、計算すると60×8×6〜8=2,880ml〜3,840mlに。

歩くペースや発汗量は個人によって違うので、回数を重ねながら自分の身体の状態や登山中の運動負荷を把握することが大切です。

ただ必要な水分量だけわかっても、バランスよく摂取していかなければ意味がありません。効率良く、水分を身体に取り込むための摂取方法をみていきましょう。

一気に飲んでも意味がない!効果的な水分摂取方法って?

効果的な水分摂取方法

編集:YAMA HACK編集部、出典:いらすとや

一気に飲んでしまったり、真水だけ飲んでいたりすると、体液が薄まり、先述した「水中毒」になってしまうことが。効果的に身体に水分を取り込むために、3つのポイントを意識するといいでしょう。では、それぞれ細かくみていきます。

《1》タイミング|こまめに水を摂取する

こまめに摂ることで、身体に吸収されやすくなります。

行動しながら15分おきくらいに飲むのが理想。ザックを下ろさずにチューブを通して水が飲める「ハイドレーションシステム」があると便利です。持っていない人は、最低でも1時間おきに摂取するようにしましょう。

体重60kgの人が軽装で8時間の日帰り登山をする場合

体重60kgの人が標準的なタイムで8時間歩くとした場合、先述の通り脱水量の7割の水を補給するとすれば1,680mlになります。

登山の運動生理学とトレーニング学 水分摂取の目安

出典:登山の運動生理学とトレーニング学、編集:YAMA HACK編集部、出典:いらすとや

朝食時に600ml摂取した(※)とすると、1時間おきに約150ml(コップ1杯分程度)を飲むことが目安に。

※朝ごはんと飲み物を摂取するとおおよそ400〜600mlほど摂取していることが多い

このように事前に計画を立てて実践することで、回数を重ねるごとに自分にとっての水分量の過不足を調整できるようになります。

《2》種類|水だけはNG!塩分も同時に摂取

長時間(目安として3時間以上の登山)歩く場合、汗をかくことによって体液中のナトリウムやカリウムなどの電解質が欠乏してしまいます。この状態で真水だけを飲むと体液のバランスが崩れ、痙攣や水中毒の原因に。電解質を補うためには、水分と一緒に塩分を摂る必要があります。

水を飲む登山者

出典:PIXTA

塩気のある行動食で塩分を摂取するのももちろんOKですが、電解質の入ったスポーツドリンクはより吸収されやすく、水分も同時に摂れるのでオススメ。最近では経口補水液というアイテムもあります。用途の違いを理解した上で、それぞれ少量ずつ持っているといざという時安心です。

スポーツドリンクや経口補水液を少量持っていく

スポーツドリンク 経口補水液 特徴

提供:大塚製薬(OS-1について詳しく知りたい人はこちらをチェック)、編集:YAMA HACK編集部、出典:いらすとや

それぞれ特徴が異なり、効果的な補給のタイミングも変わります。炭水化物(ブドウ糖)を多く含むスポーツドリンクは、行動中のエネルギーにもなるので積極的に摂るといいでしょう。

経口補水液の成分は体液の電解質(ナトリウム、カリウムなど)に近いため、スポーツドリンクよりも吸収速度がはやい。よってすぐに不足した分を補ってくれるので、ケイレンや脱水の症状が出た時に有効です。

ただすべて同じ種類だと、味に飽きて飲みづらくなってしまうことも。持っていく水分量の3分の1をスポーツドリンクにしたり、いざという時の飲み物として少量の経口補水液(350mlや500mlのペットボトル1本程度、またはゼリータイプ)を持っていったりと、2種類以上の飲み物を持っていくのがオススメです。

カフェインやアルコールはOK?

カフェイン アルコール 特徴

編集:YAMA HACK編集部、出典:いらすとや

基本的に飲み物の種類は、自分の飲みやすさで決めてOKですが、種類によっては向き不向きなものも。

カフェインは利尿作用もあるため、登山では避ける人も多いかもしれません。しかし実は集中力をアップさせたり、脂肪燃焼効果もあるので、朝食時や休憩中に少量摂取(コーヒー1杯程度)するといいでしょう。

アルコールは、脳や神経系の働きを低下させてしまったり、脱水を助長してしまったりと害があるため、登山中は不向きです。

山本教授
アルコールは、「精神的」なエネルギー補充のために、夕食時に適量飲むのがオススメですよ。

《3》温度|季節に応じて水温を調節

冷えた水 ペットボトル

出典:PIXTA

暑いときは、5〜15度ほどの冷水の方が吸収されやすいとされています。なぜなら、

・腸での吸収がはやい
・身体の最深部である胃で、身体を冷やせる

という2つの理由から。夏は、沢に水筒をつけて冷やしたり、保冷剤と一緒に持っていったりと冷たい水が飲めるように工夫するといいでしょう。

反対に寒いときは、冷水だとすぐに身体が冷えてしまいます。冬は、保温ボトルにお湯や常温の水を。
気温に応じて、摂取する水温を調整するのがオススメです。

適切な水分量と飲み方の工夫で、快適な登山を!

水分補給する登山者

撮影:YAMAHACK編集部

飲めば飲むほどいいと思っていた水分。取りすぎも取らなさすぎもNGということがわかりました。
自分の必要な水分量を知って、回数を重ねるごとに細かい調整を重ねながら自分にぴったりの量を把握していくことが大切です。

効率的な摂取の仕方も実践し、より快適で安全な登山を楽しみましょう!

▼もっと山での水分摂取について知りたい人は、山本正嘉教授の著書をチェック

    登山の運動生理学とトレーニング学


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