コマクサはさすがにわかる。……が、それ以外がざっくり「花」
みなさん、山に登ってかわいい花を見つけたとき、その名前を言えますか?
筆者ははっきりいって、コマクサ以外は「……黄色?んー、なんとかキンバイ??」くらいしか見分けが付きません。お花畑で「わーー!!」とテンションが上って、写真も撮りまくるのにも関わらず、です。
「いい加減覚えようよ」という花に対する申し訳なさと、自分の学ばなさにがっくりして、今回の記事では一念発起し、「山で花を見分けられる人」になりたいと思います。
なぜ見分けがつかない?問題点を自己考察
さすがに「見分けがつかない」とはいえ、自分の中でざっくりと分類分けはされています。こちらです。
・小さくて白くてかわいい
・小さくて黄色くてかわいい
・ほわほわしている
・上の方になんかいっぱい固まってる
・ツリガネっぽい花がわさわさ
……何となく「あぁ、そう言われればそうかも……」とわかっていただけますでしょうか? はっきりいって、花を認識する解像度が低すぎる、これに尽きます。
「チャームポイント=花の生き方」をまず知ろう!
とはいえ、ひとり図鑑をぼんやり眺めていても、やっぱり同じに見える。……というわけで、今回は植物写真家の髙橋 修さんに「見分け方」を教えてもらうことにしました。
髙橋 修さん
植物写真家。旅行会社に勤務後、フリー写真家となる。現在は、多摩川など身近な自然から、高山の植物まで撮影しつつ、植物観察ツアーの企画、講師などで日本各地、世界各国を飛び回っている。
先に紹介した筆者なりの「見分け方」を髙橋さんに伝えたところ、思いもかけない指摘が!!
……え??「虫の眼」って??
花はそもそも虫の力を借りて受粉をすることで、繁殖しています。すなわち、虫にとって見つけてもらいやすいことが生存に有利なのです。だから「虫の眼=虫の脳の認識能力」が見分けやすいように白色の花を咲かせるなど、虫にアピールできるような姿(花)になっているとのこと。それにしても、虫レベルの認識能力だったとは……(絶句)。
葉っぱは植物にとっては、光合成を行うための重要なツール。その花が生育している環境に適したかたちに進化していることが多いといいます。
ついつい「花」の部分だけに注目してしまいがちですが、「チャームポイント=生き方」を知ることで、似たような花でも違いがわかってくると髙橋さん。
とはいえ、手持ちの図鑑には数百種類もの高山植物が載っていて、全部覚えるのは無理な気がします……。
そこで髙橋さんが教えてくれたのが「日本各地の山で見られる花で、これだけ覚えておけばまずOK」という10種類の花。名付けて「高山植物・神10」!
これだけ覚えればまず大丈夫。高山植物の「神10フラワー」
10種類のなかには、難易度が高い「白くて小さくてかわいい」「黄色くて小さくてかわいい」も含まれています。「10種類?楽勝!!」と思っていましたが、若干弱気になってきました……黄色と白かあるんだ……。
コバイケイソウ(小梅蕙草)|とにかく背の高さで目立ちまくる
確かに「可憐で小さくて健気」という高山植物のイメージからしたら、パンチのあるルックスと大きさ。大きくて白いのはコバイケイソウ。これなら覚えられそうです!
ハクサンイチゲ(白山一花)|何もかもがウソな小悪魔女子
次は難易度が高めだと諦めていた「小さくて白くてかわいい」系です……。
ところで「白山一花」というからには、白山エリアで見られる固有種なのでしょうか?
嘘つきだけどかわいい小悪魔系の白い花。それがハクサンイチゲ。覚えられそう!
チングルマ(稚児車)|実は「木」という衝撃の事実!
こちらも「小さくて白くてかわいい」系。ハクサンイチゲとはどう違うんでしょうか?
そもそも、草花ではなかったという衝撃の事実……。木にも関わらず背丈が高くないのも、環境が厳しい山で繁殖し続けるためのチャームポイント=生き方ゆえなのですね。
シナノキンバイ(信濃金梅)|黄色で花が大きければこれ
白い花をクリアしたところで、次は「小さくて黄色くてかわいい」系です。しかもこの黄色系にはやたら「キンバイ」とつく花が多いのも難易度をぐっとアップさせている理由です。が、まずキンバイ系で覚えるのは2つ。
ミヤマキンバイ(深山金梅)|可憐な花はイチゴの黄色版
2つめの「キンバイ」ですが、先ほどの背が高くて花の大きなシナノキンバイとは違う種類です。
……イチゴ? そういえば、子どものときにイチゴ狩りに行ったときに、こういう葉っぱの小さな花がついていたのを覚えていませんか??
ミヤマキンポウゲ(深山金鳳花)|つやつやと太陽に輝く子
「キンバイ」かぶりを覚えたものの、次は「ミヤマ」かぶりです。こういうところが覚えにくいです……。
確かにバターをたっぷり塗られたようにつやつや。図鑑などでは「金属光沢」と紹介されていることも多いですが、「バター」と言われたほうがイメージしやすいですよね!
とはいえ、なんとかキンバイに、ミヤマほにゃらら。やっぱり頭がごっちゃになりそう……。
最難関の「白と黄色の花」を一旦整理しよう!
冒頭での髙橋さんの言葉に「植物の姿は生き方に大きく影響されています」とありましたが、生き方は「生きる場所」にも大きく関わりがあります。覚えづらい白色と黄色の花ですが、実は近しい場所に生える組み合わせがあり、整理すると上の図のようになります。
同じように見えていた花も、花の部分だけでなく、葉のかたちや背の高さ、生息している場所で見ていくと、随分と個性的に生きていると思いませんか??
難題をクリアしたところで、よく目にする「特徴がわりとはっきりした花」をあと4つ覚えておきましょう。
ウサギギク(兎菊)|子どもが描く花の絵そのまま
すっと伸びた茎に一輪の花、地面近くの葉っぱが対になって生えている……何というか、子どもがお花の絵を描くときってまさにこれですよね?
兎菊のウサギは、対になった葉っぱに毛が生えていて、ウサギの耳みたいだから。名前の由来もチャーミングです。
ハクサンフウロ(白山風露)|高原でそよそよなびいている
一輪ずつを見かけるというより、群生していることが多いのがハクサンフウロです。わーっと生えているピンクの花。
ハクサンフウロの風露とは「涼しい風と露」という意味。背が高くて風にそよいでいるさまが名前にも反映されています。
ヨツバシオガマ(四葉塩竈)|厳しい環境で楚々と咲いている
ちょっとコマクサにも似た雰囲気があるのが、ヨツバシオガマ。
背は10〜20cm程度とそれほど高くなく、比較的標高の高い砂礫地に生息しているのも、高山植物らしいです。
イワギキョウ(岩桔梗)|名前も見た目も覚えやすい!
高山でなくとも、花屋などでキキョウは見たことがある人も多いはずなので覚えやすいですよね。
ただし、よく似たものに「チシマギキョウ」がありますが、まずは「イワギキョウ」から覚えましょう。
植物カメラマンに訊く、花の覚え方ポイント
髙橋さんに紹介してもらった「神10フラワー」。本州ではどこでも使えるという汎用性の高さも、花音痴にはうれしい限り!
え……7月下旬?? 確かにお花畑のピークは短いですし、いつもこの状態の花が見られるとは限りませんよね。となると、またもや見分けられないという残念ループに戻りそうです。
植物カメラマン的、花の覚え方を伝授
「山に行く、写真を撮る、図鑑で確認する」……このルーチンワークが地道ですが、やはり花を覚える鉄板。後から振り返るためのコツというのはあるのでしょうか?
写真を整理する際にも、「山名>撮影月>花」のように、どの山にいつどの花が咲いていたかを自分が覚えやすいよう、フォルダ分けするなどもよさそうです。
また花をテーマにした登山というのもおすすめだそう。例えば「7月にウルップソウを見に白馬岳へ登る」など、時期/花/山を結びつけて覚えやすくなります。「一山一花」ではないですが、欲張らず覚えていくことも地道な手段。
花って想像以上に個性的。性格を知って仲良くなろう。
髙橋さん自身は、山の写真も撮っていましたが、花を撮影するようになって、そこから植物の生態へと興味が移っていったといいます。だから、今回の「神10」も、花の姿かたちだけではなく、「花の生き方」に紐付けて説明していました。
これから山に登るときには、「なんでそんなところに咲いているの?」という興味を持って、花を見るようにしようと思いました。脱・虫の眼を目指して!
『色で見わけ五感で楽しむ野草図鑑 』 高橋修
『日本の高山植物400 ポケット図鑑』新井和也