湯を雫のように注ぐことができる道具
山で食べるカップラーメンがなぜか格別に美味しく感じるように、コーヒーも山で飲むと至極の美味しさを感じます。凛とした空気のおかげか、途中で汲んだ清水で淹れたコーヒーだからか、それとも山をしばらく歩いたことで感覚が澄んだためか。
でも人は貪欲な性質があり、美味しい山コーヒーを、もっと美味しく味わいたいと思うもの。私もそんな性質が強くあるようで、山コーヒーが美味しくなる、上手にドリップできる道具をいろいろと手に入れ、試してきました。
2019年秋に発売された『楽歩京都/森乃雫』
2020年、新たに手に入れたのが『楽歩京都/森乃雫』です。楽歩京都と書いて「らっぽきょうと」と呼びます。『森乃雫』は、マグカップやクッカーの縁に装着し、慎重に傾けるだけで、ドリップの際に注ぐ湯が、細く、さらには雫のように垂らせる道具です。
これまで、山で細い湯を注いでコーヒーをドリップすることは不可能だと思っていましたが、この『森乃雫』を使ってみれば、驚くほど簡単に細い湯を注げるのです。
しかも淹れたコーヒーはスッキリとして、香りもよく、深みを感じられるものでした。
開発したのは楽歩京都・代表の山口 旭さん。定年退職を機に、体力維持のために登山を開始。間もなく山コーヒーにハマり、ドリップコーヒーを美味しく淹れるためのポットや道具を探し、試したところ、山に持っていけるようなものがなかったそうです。
そこで、マグカップやクッカーに装着する注ぎ口を自作。2年の試行錯誤の上で完成。2019年秋に発売したのが、この『森乃雫』だそうです。
表面張力、毛管力、サイフォン効果がポイント
当初は、割っていない割り箸の間に爪楊枝を差し込み、水路をつくって細い湯を注いでいたといいます。
商品化した『森乃雫』の基本的な仕組みも、その割り箸と同様。表面張力と毛管力、そしてサイフォン効果で湯を吸い上げ、底のない水路を湯が通ることでマグカップやクッカーに伝って湯が滴り落ちることを防いでいます。
細い湯を注げ、美味しいコーヒーを抽出できる理由は“内部構造”にあり
内部をよく見てみると、真っ直ぐに伸びた上部分と下方向に落ちる部分の3本の爪に分かれています。上部分を湯が伝うと1分間に120~150ml、下部分に水膜が張る状態だと1分間に60~90mlの湯を注げます。
この湯量の調節によって、コーヒー豆の種類や焙煎具合、豆の細挽き、中挽き、粗挽きに合わせて、好みの抽出時間を操ることがきるのです。
また注ぎ口の手前にも爪が備わっていて、一定の湯量を注げるガードになっています。少しくらい傾けすぎてしまっても、慎重に湯を注げば、一気に湯が流れ落ちてしまうこともありません。
『森乃雫』が備えている表面張力、毛管力、サイフォン効果によって、注いだ湯はカーブせず、直下に糸のように、湯量を少なくすれば雫のように垂れます。
しかも山で使っていたマグカップやクッカーをそのまま流用して、上質なドリップが可能。ただ細い湯を注げるだけでなく、一定の量の細い湯を、自在に、誰でもラクに注げるのです。美味しいコーヒーを抽出できるポイントは、ココにあります。
山コーヒーに試行錯誤してきたハイカーなら、この道具のスゴさに間違いなく感動するでしょう。
金属3Dプリンターで成型
さて、楽歩京都・代表の山口さんに聞くと、この『森乃雫』は実用性、機能性だけでなく、デザイン性にもこだわったといいます。
重量8.5g、サイズW46×H27×D16mmの小さな注ぎ口は、チタン製。人が見て美しいと感じる黄金比、黄金螺旋をデザインに引用。イキモノのような躍動感のある造形は、なんと金属3Dプリンターによる成型で生み出されたものです。
その分、8,000円~16,000円とちょっと高価ではありますが、チタン製のこの細かな造形を見れば納得の価格です。
また『森乃雫』を収納、持ち運びする際に使用できるポーチも別売で「onmo sotoasobi design」から用意されています。焚火に使う火口入れのようポーチの名前は『小籠包ーち』。そう、包んだ形が小籠包のようで、『森乃雫』の雰囲気と相性がぴったりです。
いろいろなマグカップやクッカーで試してみました!
『森乃雫』は、本体に備わった磁石でマグカップやクッカーの縁に装着、固定します。よってチタン製、アルミ製、ステンレス製のカップ、クッカーに装着して使用できます。
ブランドのホームページにある「装着可能マグ及びポット」のページを見ると、多くのマグ、クッカーで使用できるのですが、直径90mm以上だと、装着した両脇から湯が溢れやすいとも書かれていました。
そこで、手持ちのカップやクッカー、ポットを使って試してみました。