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山のグレーディングとは?

撮影:YAMA HACK編集部
増え続ける山岳遭難を受け、長野・新潟・山梨・静岡・岐阜・群馬・栃木・山形・秋田・富山の10県と、石鎚山系と祖母・傾・大崩山系の2つの山域では、主な登山ルート(無積雪期)を体力・技術別の難易度を分けてホームページ上で公開しています。
2024年7月現在、10県・2山系で合計1,052ルートのグレーディングの確認が可能。また、グレーディングを公表している10県2山域から、日本百名山のうち68山、210ルート抜粋した「日本百名山のグレーディング」も確認できます。
なぜグレーディング表が作成されたのか
「山のグレーディング(難易度)」設定の背景には、無理な登山や、体力・技術不足による遭難事故を防ぎたいという目的があります。登りたい山はあるけれど、どのくらいの技術や体力が必要なのか判断するのは難しいもの。このグレーディング表を見ると、山の難易度の目安がわかるのでとても参考になります。
では、具体的にグレーディング表の説明をしていきます。
グレーディングの解説

撮影:YAMA HACK編集部
山のグレーディングには2つの項目があります。ひとつめは、「体力度」。もうひとつは、「技術的難易度」です。
体力度は1~10までの段階があり、数字が大きくなるほど、より体力が必要に。技術的難易度はA~Eまであり、Eになるにつれて難易度が高い山(ルート)となります。
ただしグレーディング表は、あくまで無積雪期の天候が良好な条件のもと、ルート固有の地形的な特徴について、評価したものであることを考慮する必要があります。
実際の登山では、体力度、難易度以外に悪天候、残雪、体調、その他偶発的な要因によるさまざまなリスクを配慮した計画を立てることが重要です。
体力度
1~3 | 日帰りが可能 |
4~5 | 1泊以上が適当 |
6~7 | 1~2泊以上が適当 |
8~10 | 2~3泊以上が適当 |
技術的難易度
登山道 | 技術・能力 | |
A | ◇概ね整備済 ◇転んだ場合でも転落・滑落の可能性は低い ◇道迷いの心配は少ない | ◇登山の装備が必要 |
B | ◇沢、崖、場所により雪渓などを通過 ◇急な登下降がある ◇道が分かりにくい所がある ◇転んだ場合の転倒・滑落事故につながる場所がある | ◇登山経験が必要 ◇地図読み能力があることが望ましい |
C | ◇ハシゴ・くさり場、また、場所により雪渓や渡渉箇所がある ◇ミスをすると転倒・滑落などの事故になる場所がある ◇案内標識が不十分な箇所も含まれる | ◇地図読み能力、ハシゴ・くさり場などを通過できる身体能力が必要 |
D | ◇厳しい岩稜や不安定なガレ場、ハシゴ・くさり場、藪漕ぎを必要とする箇所、場所により雪渓や渡渉箇所がある ◇手を使う急な登下降がある ◇ハシゴ・くさり場や案内標識などの人工的な補助は限定的で、転落・滑落の危険箇所が多い | ◇地図読み能力、岩場、雪渓を安定して通過できるバランス能力や技術が必要 ◇ルートファインディングの技術が必要 |
E | ◇緊張を強いられる厳しい岩稜の登下降が続き、転落・滑落の危険箇所が連続する ◇深い藪漕ぎを必要とする箇所が連続する場合がある | ◇地図読み能力、岩場、雪渓を安定して通過できるバランス能力や技術が必要 ◇ルートファインディングの技術、高度な判断力が必要 ◇登山者によってはロープを使わないと危険な場所もある |
【用語解説】
■地図読み能力
地図を見て自分の位置を知ることができ、目的地へのルートを識別できる能力
■ルートファインディング
登山道のついていないところ、また分かりづらいところで、一番安全に通過できるルートを識別すること
■藪漕ぎ
笹や低木などが密生する藪を手でかき分けながら進むこと
長野県のグレーディング

長野県には、日本百名山が29座、3,000m峰が15座あり、日本を代表する山岳エリア。長野県にある、登山者に人気の123のルートのグレ―ディングが上の表です。
長野県にある山で、最も難しい一般ルートは、北穂高岳~槍ヶ岳の大キレットを通過するルートです。山単体ですと、北アルプスの北穂高岳、槍ヶ岳、奥穂高岳や南アルプスの塩見岳(島倉口から)が挙げられます。
初心者向きなのは、北八ヶ岳のロープウェイを使って登る北横岳です。自身のステップアップに、また、初心者を連れていくときの参考にもなります。
新潟県のグレーディング

新潟県にある113のルートのグレーディング表です。
新潟県で一番厳しい山は、寒江山(かんこうざん)で、難易度が低めの山は、刈羽黒姫山(磯之辺登山口)や弥彦山(弥彦神社登山口)などが挙げられます。
日本海に面している新潟県には、日本海とその先の佐渡島が見える山もあり魅力的です。
山梨県の山のグレーディング

山梨県内にある123ルートのグレーディング表です。
山梨県で最も厳しいルートは、南アルプスの鋸岳~甲斐駒ヶ岳で、山単体では200名山の笊ヶ岳(ざるがたけ)や鋸岳などが挙げられます。
やさしい山は、岩殿山や甘利山など。山梨県の山は、富士山の展望が素晴らしい山が多いのも特徴です。
静岡県のグレーディング

静岡県内にある82のルートのグレーディング表です。静岡県は、富士山や南アルプス、伊豆の山など非常にバラエティに富んでいるのが特徴です。
静岡県側の富士山のルートの難易度は、登山道が開通している期間(7/10~9/10)のもの。また、富士山は標高日本の山のため、高山病といったほかの山とは少し異なるリスクにも注意が必要です。
静岡県の厳しい山は、南アルプスの蝙蝠岳から塩見岳 、塩見岳~間ノ岳~農鳥岳など。一方、難易度が低い山として、大札山や伊豆半島の発端丈山(ほったんじょうやま)などが挙げられます。
岐阜県のグレーディング

岐阜県内にある75ルートのグレーディング表です。
岐阜県の山には、北アルプスや中央アルプスが含まれているのと、白山や御嶽山など日本百名山もあり、多くの登山者が訪れる県でもあります。
最も難しいルートは、北アルプスの槍ヶ岳~西穂高岳。大キレットとジャンダルムを通過する、日本の一般ルートで最難関であり、とくに奥穂高岳~西穂高岳の間は、安易に行ってはいけない極めて危険な場所です。
群馬県のグレーディング

群馬県にある、主要な93ルートのグレーディング表です。
関東の北部に位置し、長野県・新潟県・栃木県との県境には山岳地帯が広がる、自然豊かな群馬県。日本百名山が11座と、長野県や山梨県についで多い県でもあります。
難しい山は裏妙義山の縦走ルートや谷川岳の白毛門に至るルート。比較的やさしいのは、毛無峠からの破風岳や、榛名神社からの榛名天狗山などです。
栃木県の山のグレーディング

栃木県にある102ルートのグレーディング表です。
関東地方最大の面積を誇る栃木県には山岳地帯があり、日光連山をはじめとする大小さまざまな山があります。
難しい山は、銀山平からの皇海山(すかいさん)で、行程が非常に長いうえ、岩稜ややせ尾根といった険しい登山路が続くルート。比較的やさしいのは、ロープウェイを利用して登る茶臼岳などです。
山形県のグレーディング

山形県では、「やまがた百名山」のうち主要な94ルートのグレーディングを公開しています。
ロープウェイやリフトが整備された初級者でも登りやすい山から、豊かな自然が残された山深い名峰まで、バラエティに富んだ山で登山が楽しめます。
最難関は、飯豊連峰の中ほどに位置する北股岳。天狗平から石転沢を経由して北股岳山頂を目指す長く険しいルートです。初心者にもやさしいルートとしてはは、リストを利用して登る姥ヶ岳(うばがたけ)などが挙げられます。
秋田県のグレーディング

世界遺産の白神山地を有するなど、高い自然度を保っている秋田県。数ある山の中から、「秋田駒ヶ岳」 「鳥海山」 「森吉山」などの人気の山をはじめとした31山(33ルート)のグレーディング表を公開しています。
最難関は、鉾立からの鳥海山や、神室山の周回ルート。初心者にもやさしいのは、二ツ森や八幡平など。
富山県のグレーティング

北アルプスから低山まで、富山県内の代表的な92ルートのグレーディング表です。区間毎の難易度を設定した「ピッチマップ」も作成されています。
立山連峰を有し、3,000m級の山々が連なる山岳地域である富山県。一説では「富める山の国」が県名の由来とされています。
最も難易度が高いのは、水晶小屋から白馬山荘までの長大な「後立山連峰縦走」ルート。比較的やさしいのは、立山町の尖山(とがりやま)や南砺市の袴腰山(はかまごしやま)などです。
石鎚山系のグレーディング

愛媛県と高知県の県境に沿って東西約50kmに渡って広がる石鎚山系。最高峰は標高1,982mの石鎚山で、日本百名山のひとつ。そんな石鎚山系の50のルートのグレーディング表です。
最も難しいルートは保井野登山口から堂ヶ森、天狗岳を経由して石鎚山山頂を目指すルート。初心者でも歩きやすいのは瓶ヶ森(かめがもり)や野地峰(のじみね)など。
祖母・傾・大崩山系のグレーディング

大分県と宮崎県にまたがる、祖母・傾・大崩山系エリアにある主要山岳30山63ルートのグレーディング表です。
景観美と原生的な自然を併せ持ち、希少動植物の宝庫としても知られていエリアであり、2017年6月には、地域の自然資源を活用した持続可能な経済活動を進めるモデル地域である「ユネスコパーク」に登録されています。
最も難易度が高いのは、祖母山・傾山<大障子→傾山(坊主尾根)>縦走ルート、最も難易度が低いのは、親父山・障子岳縦走路です。
日本百名山のグレーディング

グレーディングを公表している10県2山域から日本百名山のルートを抜粋した、68山、210ルートのグレーディング表です。百名山ハンターの方はとくに、どのような順で踏破していくか計画を立てる際の参考にしてみては。
山の難易度をチェックして、自分に体力・技術に見合った登山をしよう!

出典:PIXTA
自分のレベルに合った山を選ぶことは、遭難事故を防ぐためにもとても大切なことです。登山初心者や登山のブランクがあいてしまった人は、まず難易度が低い山から挑戦し、徐々にステップアップしていきましょう!