誰にでも起こりうる、登山中のケガ
長時間歩行での靴ずれやふらつきによるねんざ、岩場でのすり傷など、登山についてまとう「ケガ」のリスク。
もちろんケガをしないよう細心の注意を払っていますが、ケガ、しかも救助要請が必要となる重傷を負ってしまったら……。今回はそんな「ケガ」を負ったかたのビフォーアフターを本人の回想を交えつつ紹介します。
登山の基本となる「足」をケガしたWさん
今回取材させてもらったのは愛知県名古屋市在住のWさん。登山歴は20年以上、地元山岳会にも所属しフリークライミング・アイスクライミング・沢登りなども含めて年間山行日数は100日以上。
森林レクリエーション協会の森林インストラクター/森林活動ガイドと、日本山岳ガイド協会の登山ガイド資格も取得している生粋の登山愛好家です。
そんなWさんがケガを負ったのは、2019年2月。
アイスクライミング中にパートナーが約10m墜落し、巻き込まれて下敷きになった瞬間に右足首に衝撃が走りました。結果として、右足の脛骨・腓骨(すねの内側と外側の骨)の足首付近両方を骨折という重傷となりました。
【Wさんの証言】
「バキッ」という音が聞こえ、足首が折れたことが一発でわかりました。ただ、その焦りよりも「今からどうしよう?ここでどうやって下りるか?(事故現場は下部の氷瀑を登攀した後の2ピッチ目だった)」や「パートナーはケガしていないか?」という二次被害が真っ先に思い浮かびました。
登山経験も豊富で比較的冷静だったWさんは、事故現場での初動も的確に行うことができました。救助・搬送は以下の流れで行われました。山岳救助隊の到着は約3時間後。同じ立場なら不安や痛みに耐えられるかと考えてしまいます。
山岳遭難者のうち、約4割はケガをしています!
登山中のケガはWさんに限らず他人事ではありません。
警察庁が毎年発表している「山岳遭難の概況」によると、平成30年の山岳遭難者は全国で3,129人、そのうち342人が死者・行方不明者ということで帰らぬ人になっています。残りの2,787人のうち無事救助は1,586人、すなわち残りの1,201人は負傷しているのです。
平成21年の山岳遭難者は2,085人・負傷者は670名であり、約10年で山岳遭難者は約1.5倍・負傷者は何と1.8倍も増加しているのです。
帰宅した翌々日に初入院→初手術の怒涛の展開!
事故当日は搬送先の病院から自宅に戻ったWさん。
翌々日に近所の総合病院を受診しましたが、医師からは即日入院・翌日手術という診断が。骨がズレてくっ付いてしまうなどの後遺症を避けて骨自体の回復も早めるため、骨折箇所をボルトとプレートで固定する手術が必要だと判断されたそうです。
人生初の入院からいきなりの手術! 恐怖や落胆などの感情に見舞われたのではないでしょうか。
【Wさんの証言】
まずは「しっかり治さないと」いう思いが強く、恐怖はあまり感じませんでしたね。手術自体は麻酔が効いた状態で行われたので痛みはなく、モニターに映し出される自分の足にボルトが打ち込まれていく様子を眺めるほどリラックスした状態でした。
むしろ苦しかったのが合併症状。手術の翌日から強い頭痛と吐き気に見舞われました。
Wさんが苦しんだ合併症状は稀なケースらしいのですが、手術時の腰椎麻酔の注射によって髄液が針の穴から流れ出し脳圧が下がることで起こるそうです。頭痛と嘔吐の連続という症状が1週間ほど続き、食事もロクにとれない状態。体重も4kg落ちてしまったそうです。