民間だからこそできる”家族に寄り添った捜索”
「遭難」という言葉は知っていても、どこか自分には関係ないことのように感じていませんか?
「山で遭難が起きた時に辛いのは、実は遭難者の家族なんですよね」ーーそう話してくれたのは、山岳遭難捜索を行うLiSS代表の中村さん。今回は、山で行方不明になった人を探している中村さんにお話を伺い、なかなか知られることのない遭難捜索の現場をお伝えします。
編集部(以下、編):本日はよろしくお願いします。早速ですが、「遭難捜索」とは具体的にどのようなことをされているんですか?
中村さん:山岳救助とは別で、山で行方不明になった人を探しています。なので、救助隊の人と一緒に救助するのとは少し違います。
編:「救助」と「捜索」は別なんですね。なんとなく漫画や映画などで見たような岩稜帯などで人を運んだりしているようなものをイメージしていました。
遭難者を家族のもとに帰してあげたい
編:遭難捜索を始めたきっかけは、なんだったんですか?
中村さん:一緒に山に登っている人に「行方不明の人がいて、こんな山なんだけど、どこにいると思う?」と相談されたことがありました。登ったことがない山だったので、実際登ってみたら何人も迷っている場所があって。それを知り合いの人に伝えて後日一緒に行った時に、ご遺体を見つけたのが最初のきっかけです。その時に「山でいなくなっている人っているんだ、おうちに帰してあげないといけないな」と思ったんです。
編:”家族が家に帰ってくる”ということは大事ですもんね。
中村さん:警察の捜索が打ち切られてしまうと、誰も捜す人がいないのでその人はずっと家に帰れないまま。誰もやらないならやってみようと思ってボランティアで始めました。そのうち人に誘われて組織に属して3年間くらいやっていたんですが、この(2018年)1月から独立してやっています。
編:独立されたのはどうしてですか?
中村さん:やっていく上でいろんな疑問点や自分の理想を追求したくなったんです。
遭難者を知ることが、捜索のはじまり
編:遭難捜索ってどのようなことをしてるんですか?
中村さん:基本的にはご家族からの依頼で行っていて、2人1組で捜索を行うことが多いです。
編:山は広いので大変ですね。捜索する時に気をつけていることはありますか?
中村さん:遭難者だけでなく、全体像を見て行うことですね。
編:全体像?
中村さん:家族から提供してもらった情報が重要で、それを基に捜索方法や方針を決めていきます。例えば、登山を普段やらない人だったら登山道じゃないところ行く、まじめな人だと奥までは行かないのでどこかに滑落している、イケイケな性格の人はどんどん進んで奥まったところ、など意外と当たるんですよ。
編:そうなんですね。ということは、家族からの情報提供がとても大切になりますね。
中村さん:大切です!なので、家族とのコミュニケーションを大切にしています。本人がどんな性格の人なのか、普段どんな登山をするのかなどを聞きますね。
編:その他に大切にしていることはありますか?
中村さん:あとは公的機関との密な連携。自分達だけでやっていてもだめなので、警察だったり、地元の消防団だったりと密に連携をしています。地元の山を知っている人たちと密に連携をして、情報交換することにより色んなことが見えてくるんですね。そういうことを大事にしていますね。自分達だけでは絶対的にできないですね。
一番つらいのは遭難者だけじゃない
編:先ほどおっしゃられていた「理想の捜索」とはどのようなものですか?
中村さん:山で遭難をした時にその人は怪我をしたり、亡くなってしまうんですけど、その人の家族が本当は一番つらいんです。今まで家族をクローズアップした人はいないと感じていたんですね。本業が看護師なのでどうしてもそういったところに目がいってしまって。捜索を行う中で見つけられる人と見つけられない人がいるんですけど、家族にとって必要なことだと思うし、やれるのは自分しかいないと思って。
編:家族へのサポートはどのようなことをされているんですか?
中村さん:家族によって変わるんですけど、見つかったところへ家族を案内してあげたり、家族を連れて行けなさそうな場所であれば代わりに花を持って行ったりですかね。時には家族の話を1、2時間聞いてあげたり。そうすることで家族が捜索に参加しているという気持ちにもなってもらえるので、「何もできない」と自分を責めることもなくなります。これも一つの心のケアだと思っています。
ボロボロになった家族を休ませることも捜索の一部
編:メディアから非難を受けている家族の方って?
中村さん:一番追い込まれている家族のフォローも、時には遭難者と同じくらい大切なことなんですね。
一方で、遭難のニュースが広まることで、心無い非難を受けることもあるんです。
編:家族の方はどういう風にとらえているのでしょう?
中村さん:辛いですよね。きちんと準備をしても遭難してしまう方もいるので。色んな方がいるんですけど、40代で亡くなった人は無事に見つかって手続き上はよかったのかもしれないですけど、じゃあそれから家族はどう生きていくのかだったり、高齢の人の場合だと「好きな山なんだから」というような人もいました。一番つらいのは、家族が自分達で探そうとして山に入る時。実際にあったのは、登山をしない家族が遭難者を探すために道具を揃えて、連日山に入って、ボロボロになっているんです。そういう時は私達も現場に行かず、家族についたりします。
編:捜索せずに、家族と一緒にいるんですか?
中村さん:そういう時は臨機応変にメンバー構成を編成し、家族に付き添う隊員を設けて、その他の隊員で捜索に当たります。家族について話を聞かせてもらうことで、家族を休ませたりすることもできるんです。
編:探さないと!という気持ちで周りが見えにくくなっていると、自分の疲労や危険にも気づきにくくなっていますもんね。
中村さん:そうですね。そういう時は顔色などを見ながら臨機応変に対応をしています。そういう柔軟さも強みですね。