なんだこの県境は! 間違ってないよね!?
突然ですが、日本の国土の何割くらいが山地だと思いますか? なんと、“火山地や丘陵地を含む山地の面積は国土の約4分の3を占め”ているそうです。
全国にはたくさんの山がありますが、1つの都道府県に属している山もあれば、2つの都道府県にまたがっている山もあり、その位置は様々です。なかには山頂に3つの都道府県境を持つ山も。そして先日、登ろうと計画をしていた山の地図を見ていたところ、県境がとても不思議な山があることを知りました。みなさんはご存知でしょうか?
それは……、この山!
日本百名山の1つ、標高2,105mの飯豊山(いいでさん)です。飯豊連峰の主峰であり飯豊本山とも呼ばれているこの山。この山頂を目指す時、なんとも不思議な登山道を通るんです。
紫のラインが登山ルートですが、何か気づきましたか?
そう、注目すべきは県境です。ピンクで色付けした部分は福島県、その北側が山形県、南側が新潟県。福島県が細く長~く、なんとも不思議なことになっているではありませんか! もうちょっと上手いこと分けられたのではないかと思ってしまいますが、そう簡単にはいかないのが県境。なんでこんなことになっているのか、気になったので調べてみました。
事の発端は明治時代に遡る……
福島県で問題発生!
飯豊山の不思議な県境の謎を解くには、明治時代まで歴史を遡ります。事の始まりの舞台は福島県。ここでクイズです。福島県の県庁所在地は何市でしょうか?
正解は福島市。★印をつけたあたりに県庁は位置しています。福島県の面積はなんと、北海道、岩手県に次いで第3位の大きさ。県庁が北部にあるため、県南部の地域からは県庁が非常に遠いわけです。そのため明治時代に、とある問題が発生してしまいます。
「県庁を郡山へ移転しよう!」
明治15年、南部の地域からも交通の便が良い、郡山へ県庁を移転しようという運動が起こります。
そして、県議会が県庁移転案を可決。県庁が郡山に移されることになったのですが……
北部が県庁移転を阻止
今度は、県庁移転により立場が弱くなることを恐れた県北部の有力者らが、移転阻止の運動を始めたのです。かつての福島城主・板倉勝達(最後の福島藩主)も反対派を支援。ついに、政府は「県庁移転」は廃案に。結局、県庁は福島市のままとなりました。
しかし、それには条件が……
福島県の中で福島市から最も遠い場所に位置していた「東蒲原郡」が、なんと新潟県に編入されることになりました。これにて福島県の『県庁移転問題』は一応の収束を見せたものの、新たな問題が発生してしまうのです。これが不思議な県境へと繋がっていきます。
村の一大事! 県庁移転問題の余波がスゴイ……
「東蒲原郡」が福島県から新潟県になったことで発生したのが、飯豊山の帰属をめぐる問題です。
もともと飯豊山は福島県と山形県の県境付近に位置していました。しかし、「東蒲原郡」が新潟県に編入したことに伴い、飯豊山も福島県側から新潟県側へ。すると……
「飯豊山はうちの山だ!」
飯豊山の帰属をめぐり、福島県と新潟県による県境紛争が勃発! というのも、飯豊山は普通の山とはちょっと異なるからなんです。「山容飯を豊かに盛るが如き」と称される飯豊山は、古くから神体として崇拝され、五穀豊穣を願う信仰登山も盛んに行われていた山。人々にとって特別な存在です。もちろん、福島県側、新潟県側それぞれに言い分があります。
飯豊山の山頂には「飯豊山神社奥の院」が鎮座しているのですが、麓宮は一ノ木村(現在の福島県喜多方市)に位置。そのため、奥の院がある飯豊山も一ノ木村の土地であるというのが福島側の主張です。
飯豊連峰は越後山脈の北部に連なった山塊であり、古来から越後の山だというのが新潟県側の主張。東蒲原郡が新潟県に編入されたことで、飯豊山神社は実川村(現在の新潟県東蒲原郡阿賀町)の土地に鎮座しており、税金も実川村で納めているというのです。
いったい飯豊山はどちらのもの!?
各県は互いに一歩も引かず、どちらに帰属するのかを国に判定してもらうことに。しかし判定が下されぬまま、なんと20年近くも経過してしまうのです。このままでは、経済の発展も停滞してしまうのではないかという恐れから、明治40年8月、やっと県境問題解決に向けて動き出します。
福島県の一ノ木村村長、新潟県の実川村村長、査定官、技師で飯豊山へ登って現地調査を行いました。様々な調査の結果、ついに国の裁定が下ります。
飯豊山は……
こうして飯豊山の帰属をめぐる県境問題は集結。飯豊山を含め三国岳から御西岳の先までが福島県となり、その結果、新潟県・山形県との不思議な県境が誕生しました。
三国岳から御西岳までは約7.5km。飯豊山付近では県境の幅がやや広くなっているものの、およそ三尺(約90cm)となんとも狭いこと。新潟県と山形県を両サイドに望みながら福島県を歩くことができる、ユーモラスな登山を楽しむことができますよ。ぜひ飯豊山へ足を運んでみてはいかがでしょう。
歴史を知ると、登山がもっと奥深いものになる!
登山計画を立てる際に、その山や地域の歴史を知るところまでに至らないことも多いですが、調べてみると思わぬ発見があったり、興味深いストーリーに出会えたりするかもしれません。例えば、映画「ハリー・ポッター」を見てからユニバーサル・スタジオへ行き、アトラクションに乗った方がより楽しめるのと同じ。登る山の歴史を知った上で登頂した方が、数倍おもしろみが増すのではないでしょうか。
▼飯豊山を詳しく見てみよう!
▼東北の山に登ろう!