自然豊かな山、高尾山
高尾山は、元来は修験道の霊場。744年に開かれた髙尾山薬王院の寺域で、あらゆる殺生を厳しく戒める教えなどもあり、古くから天然の森林が守られてきました。
中世~江戸時代にかけては山林保護政策がとられ、その後も帝室御料林を経て国有林となり、常に森林が保護されてきた経緯があります。
自然豊かな理由①暖温帯と冷温帯の植物が混在して生息
高尾山は、暖温帯系の照葉樹林帯(カシなどの常緑広葉樹)と冷温帯系の落葉広葉樹林(ブナ・イヌブナ・ナラ・ホオノキなど)・中間温帯林(モミ・ツガなどの針葉樹林)の境界に位置し、山域の南側(常緑広葉樹)と北側(落葉広葉樹)で植生が異なるため、豊かで多様な植生がみられることで知られています。
自然豊かな理由②明治の森高尾国定公園に指定
高尾山とその周辺一帯は、明治100年記念事業のひとつとして、1967年(昭和42年)12月11日、「明治の森高尾国定公園」に指定されました。
面積は770ha。最も小さい国定公園なのですが、全域が第2種特別地域に指定されています。
また、「明治の森高尾国定公園」は、東海自然歩道および関東ふれあいの道の始点でもあります。
高尾山に生息する植物はなんと1600種類以上
高尾山とその周辺には、高等植物だけでも153 科1,300種、全部で1,600種類以上の植物が生育しています。
しかも、その中には、タカオスミレやタカオヒゴダイなど、高尾山特有の植物、高尾山で初めて発見された植物が65種もあるのです。
大都市東京の近郊で、こんなに豊かな自然林が残されていることには本当に驚かされてしまいます。
高尾山には自然研究路が6コース
東京近郊で最も人気のあるハイキングエリア、高尾山には、番号とテーマのついた自然研究路があります。
ふもとから山頂に至る6コースの自然研究路には、高尾山特有の動物・植物・昆虫・野鳥の解説板が取付けられていて、楽しみながら学ぶことのできる野外博物館となっています。
1号路
リフト乗り場の北側を、山頂駅、薬王院、高尾山山頂に至る標準的な登山ルート。東海自然歩道にもなっています。夕方、リフト、ケーブルカーの営業時間が終了した場合には、このルートを使って下山します。
ケーブルカー山頂駅までの傾斜はきついですが、薬王院などを観て歩くことができます。
2号路
ケーブルカーの山頂駅からサル山の南麓、神変堂、浄心門を経て山頂駅へ戻る、高尾山の中腹を一周できるルート。
南斜面を通るルートと北斜面を通るルートからなり、短い距離で、南斜面に広がるカシ類などの常緑樹、北斜面に広がるイヌブナやブナ、カエデ類などの落葉樹の両方の植生を観察することが可能です。
3号路
神変堂の南側から薬王院の南側斜面をたどり山頂へ至るルート。薬王院そのものは経由しません。
終盤、尾根を直登する厳しい箇所があります。南斜面になりますので、ルートの周囲は暖温帯の照葉樹林が中心に広がっていますが、山頂近くではモミが密生する中間温帯林となります。
4号路
浄心門から左(北側)に分岐し、高尾山の北斜面を歩くルート。温帯林系の樹木が茂るルートで、イヌブナ、モミの林の中を歩きます。
高尾山唯一の吊り橋があるため、人気があって、登山者が比較的多いルートになっています。
5号路
高尾山山頂直下を周回するルート。短いルートなので散歩気分で気軽に楽しむことができ、1、3、4、6号路、稲荷山コース、奥高尾への道等、ほぼすべてのルートと交差し、各ルートへの接続にも使われています。
短いながら、十分に高尾山の自然を体験できるコース。また、冬には氷の華「シモバシラ」を観察できるスポットがあります。
6号路
小川に沿って歩く夏でも涼しさを感じられるルート。飛び石で沢の中を登っていく場所があり、水行道場である「びわ滝」や岩屋大師などを見ることができます。
セッコクなどの花の観察スポットがあるほか、鳥や昆虫を観察できる人気のルートですが、整備された1号路と違い、登山道で距離も長くなっています。
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春(3月~5月)に見られる植物
花の百名山である高尾山で、春にみられる代表的な植物の中から、いくつかをピックアップしてみました。
の訪れを告げてくれる繊細で美しい植物を見に行きましょう。
タカオスミレ
高尾山で最初に発見されたことから、その名が付けられました。
沢沿いの湿り気のある半日陰の林のふちなどを好んで咲く、ヒカゲスミレの変種。花が咲く時期、葉の表面がこげ茶色をしているところが特徴です。花の直径は約1.5~2cm、ほのかな香りがあり、色は白く、花びらには細かい紫色の筋が入っています。
ヤマザクラ
開花はソメイヨシノよりやや遅く、花と葉が同時にひらくのが特徴です。前年にのびた枝の葉のわきに2~5個の花をつけます。直径約2.5~3.5センチ、花びらは5枚、色は白色または淡い紅色です。
また長い楕円形の葉は、秋には黄色やオレンジ色に色づきます。
カタクリ
日当たりのよい落葉広葉樹林に生える多年草。木々が芽吹く前の林に生え、他の植物が茂る前に姿を消す植物のことを春植物(スプリング・エフェメラル)と呼びますが、その代表的な山野草のひとつです。
淡い紅色の花が1つ下向きにつきます。花びらは6枚で長さ約4~5cm、上方に大きくそり返って咲いています。
オドリコソウ
沢沿いの藪や林のふちなど、半日陰を好む多年草。平地の道端でも普通に見られます。
筒状の唇形の花が茎の上部につく葉の脇にびっしりとつきます。花の形が編み笠をかぶった踊り子のように見えるところから、この和名が付いたそうです。色は白や淡黄色、ピンクのものがありますが、高尾山では白いものが多いようです。
ギンリョウソウ
山地の暗く湿った、落ち葉が積もる落葉広葉樹林の中に咲く、緑の葉をもたない腐生植物。
銀色の竜に見立てて「銀竜草」と書き、ガラス細工のように繊細な美しい花ですが、梅雨時のうす暗い林の中で咲くことから「ユウレイタケ」の別名もあります。花は筒状、3~5枚の花びらがつき、雌しべの先は少し紫色をおびています。
夏(6月~8月)に見られる植物
高尾山で初夏~夏にみられる代表的な植物の中から、いくつかをピックアップしてみました。
梅雨時期から盛夏にかけて高尾山を彩る可憐な花や珍しい植物たち。ぜひ一度、図鑑片手に探してみてください!
ツリフネソウ
沢沿いの道端や水辺など、湿り気のあるところに生える一年草。葉の脇から花茎を出し、紅紫色の花を数個つけます。その和名は、花の姿が釣舟という花器に似ていることに由来します。
花は約3~4cmで、先が上下に大きく開きます。葉は約5~13㎝、幅約2~6cmのひし形状の楕円形で、先はとがり、ふちに細かい鋸歯があります。
キジョラン
林の中に生えるつる性の多年草。高尾山ではあちこちに見られます。
熟した実がはじけ、長い白い毛の生えた種が出てくる様子が、白毛を振り乱す鬼女のように見えることから「鬼女蘭(きじょらん)」の名が付けられたそうです。花は約4㎜のつりがね形、淡い黄色をおびた白色で、葉の脇に放射状にたくさんつきます。
ホタルブクロ
やや乾燥した草地や道端に生える多年草。花は約4~5cmのつりがね形。白、紫、淡い紅色のものがあります。
花びらの先は浅く5つに裂け、萼片の間に反り返った付属体があります。茎につく葉は約5~8㎝の長い卵形で、先がとがり、ふちにはふぞろいの鋸歯があります。根生葉はハート形で、花の時期には枯れてしまいます。
ヤマアジサイ
アジサイ科アジサイ属の1種で、山中の沢でよく見られることから、沢アジサイとも呼ばれます。花の色は多様で、紅色を帯びるものから白、紫色を帯びるもの、青いものなどがあります。
葉質は薄く光沢がなくて小さく、形は長楕円形・楕円形・円形などさまざまです。また、枝は細く、樹高は1メートル程度です。
秋(9月~11月)に見られる植物
高尾山で秋にみられる代表的な植物の中から、いくつかをピックアップしてみました。
紅葉前後の木々の色づき、紅葉狩り、秋に咲くリンドウなどの美しい花。秋は高尾山が一年で最も美しく彩られる時期、と言えるのかもしれません。
イロハモミジ・オオモミジ
イロハモミジは、「イロハカエデ」、「タカオモミジ」とも呼ばれ、庭木や盆栽、公園樹にも使われています。また、オオモミジはイロハモミジより葉が大きく、ふちに細かくそろった鋸歯があります。
カエデ科の紅葉は赤、黄、オレンジなどバリエーションが豊富。森の中では、先端の日の当たるところは赤く、内側は黄色く紅葉します。
リンドウ
山地の林内や草原など、日当たりのよいところに生える多年草。漢字で「竜胆(りゅうたん)」と書き、名前はその音に由来します。
枝先や葉の脇に上向きにつく青紫色の花は、日が当たっているときにだけ開きます。花は約4~5cmのつりがね形をしており、先端が5つに裂け、その間に三角形の小さな突出部分があります。
冬(12月~2月)に見られる植物
高尾山で冬にみられる代表的な植物の中から、シモバシラをご紹介します。
花の時期は秋なのですが、花の時期が終わって、枯れた後、冬の寒い朝などにみられる神秘的な「氷の花」を一度探しに行ってみませんか?
シモバシラ
山地の木陰などに生えるシソ科の多年草。9月上旬~10月中旬、ピンクの花粉が美しい白い穂状の花を咲かせます。
ミュージアムや本で高尾山の植物について学ぼう
高尾山の魅力、珍しい植物や動物などをもっと知りたい、楽しく学びたいという方のために、「高尾599ミュージアム」と高尾山の植物を解説したガイドブックや絵本をご紹介します!京王高尾山口から徒歩4分の充実した施設「高尾599ミュージアム」、見ているだけで高尾山に行きたくなってしまうような絵本やガイドブックです。
高尾599ミュージアムで高尾山の植物について学ぼう!
アクリル樹脂に封入された美しい草花や、まさに飛ぼうとするリアルな昆虫標本などの展示室「NATURE COLLECTION」、プロジェクションマッピングの手法を用い、四季折々の生態を体感できる「NATURE WALL」、3つのテーマに沿って登る前の予習ができる3連モニターのコーナー「599 GUIDE」など、高尾山をもっとよく知り、楽しめる、素敵なミュージアムです。
高尾山の植物について学べる書籍
高尾山の花と木の図鑑
高尾山の植物約570種を掲載した、高尾山植物探訪に最適なガイドブックです。ハイキングコース別に見られる植物の一覧表もついています。また巻末には、高尾山が最初の発見地として発表された植物63種がまとめられています。
※1990年に出版された『高尾山花と木の図鑑』の内容を精査、科名もAPG分類体系を取り入れ、最新のものになっています。
高尾山の木にあいにいく
高尾山は、200種類以上の木を抱える自然の豊かな山。初夏の5月、観察を続けているおじいさんに教えてもらいながら高尾山を登っていく、というストーリー。高尾山にある、たくさんの木が出てくる素敵な絵本です。
高尾山の木にあいにいく
ポケット版 ネイチャーガイド 高尾山自然図鑑
ガイドブックと図鑑が1冊になった便利な一冊です。ムササビやホンドリスなどの動物、シモバシラ、タカオスミレなどの植物をはじめ、高尾山とその周辺で見られる動植物600種が掲載されています。
ポケット版 ネイチャーガイド 高尾山自然図鑑
高尾山の植物に会いに行こう!
都心から電車で一時間。ケーブルカーやリフトで気軽に登れ、年間登山者数世界一を誇る、高尾山。そんな身近な高尾山なのですが、大変豊かな自然林が残されていること、南側と北側で植生が異なる貴重な森であることなど、知れば知るほど、その魅力は私たちを惹きつけてやみません。そうだ、今週末、また高尾山、行こう!
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