「山のグレーディング」を知っていますか?
「山のグレーディング」とは、山岳遭難を防止するために登山ルートに難易度をつけ評価したものです。「体力」と「技術」の2軸で評価されており、行きたい山やルートの難易度を調べることができます。
設定の目的は「山岳事故を減らす」こと
近年の登山ブームによって、「体力の低下を意識していない中高年者」や「山の怖さを知らない初心者」が難易度の高い山に訪れ、遭難してしまうというケースが増えています。
2014年に開催された「中央四県サミット」において、長野県が「山のグレーディング」を提案し、新潟県、山梨県、静岡県も共同して作成することが決まりました。登山ルートの難易度をわかりやすく提示し、遭難事故の防止に役立てようという試みです。
現在では、長野県、秋田県、山形県、栃木県、群馬県、新潟県、山梨県、岐阜県、静岡県、富山県、石鎚山系の10県・1山系の合計989ルートでグレーディングが公開されています。
難易度は「体力度」「技術度」で設定!
山のグレーディングは登山ルートの地形的な特徴に基づいて、体力度と技術度の2軸において難易度が定められています。
【体力度の算出方法】
鹿屋体育大学山本正嘉教授の研究をもとに「ルート定数」を算出し、1~10の10段階で体力度を評価しています。
コースタイム(時間)×1.8+ルート全長(km)×0.3+累積登り標高差(km)×10.0+累積下り標高差(km)×0.6=ルート定数
※体力度レベルが大きいルートは、日程を長くして登ることで自分のレベルに合わせることができます。
【技術度の算出方法】
登山道の状況によって、登山者に求められる技術と能力をA~Eの5段階で評価しています。
難易度 | 登山道の状況 | 登山者に求められる技術・能力 |
---|---|---|
A | ・概ね整備済
| ・登山の装備が必要 |
B | ・沢、崖、場所により雪渓などを通過
| ・登山経験が必要
|
C | ・ハシゴ・くさり場、また、場所により雪渓や渡渉箇所がある。
| ・地図読み能力、ハシゴ・くさり場などを通過できる身体能力が必要 |
D | ・厳しい岩稜や不安定なガレ場、ハシゴ・くさり場、藪漕ぎを必要とする箇所、場所により雪渓や渡渉箇所がある。
| ・地図読み能力、岩場、雪渓を安定して通過できるバランス能力や技術が必要
|
E | ・緊張を強いられる厳しい岩稜の登下降が続き、転落・滑落の危険箇所が連続する。
| ・地図読み能力、岩場、雪渓を安定して通過できるバランス能力や技術が必要
|
各県の“最難関登山ルート”は、いったいどこ?
経験を積んでいくことで、より難しい山にチャレンジしてみたくなるのは登山者の心情。ここでは各県のグレーディングから、体力度・技術度ともに「最難関レベル」と評価されている登山ルートを紹介します。どのコースもレベルが高く、十分な技術、体力そして準備が必要となります。
群馬県の最難関(全93ルート)
谷川岳・白毛門(天神峠→土合)[難易度C/体力度6]
体力的にいちばんの難関とされているこのコースは「谷川岳馬蹄型縦走コース」と呼ばれています。谷川岳から一ノ倉岳、茂倉岳、武能岳、蓬峠、七ッ小屋山、清水峠、朝日岳、笠ヶ岳、白毛門と縦走していきます。
危険な場所はほとんどありませんが、長いコースなので体力が必要。岩場や稜線歩きなど変化に富んだ道中と気持ちの良い展望が楽しめます。
最高点の標高: 1955 m
最低点の標高: 669 m
累積標高(上り): 3278 m
累積標高(下り): -4087 m
- 【体力レベル】★★★★☆
- 1泊2日~
- コースタイム:14時間40分
- 【技術的難易度】★★★☆☆
- ・ハシゴ、くさり場を通過できる身体能力が必要
・地図読み能力が必要
裏妙義縦走(旧国民宿舎往復)[難易度D/体力度3]
最も技術的難易度が高いとされているのは「裏妙義縦走コース」です。鎖場の連続で、岩場での技術が求められます。岩壁に作られたトラバース道もスリル満載。最高地点の「丁須の頭」にはチェーンが取り付けられており、ほぼ垂直の岩を登ります。技術に自信のない場合はやめておきましょう。丁須の頭の上からは表妙義や浅間山まで見渡せます。
最高点の標高: 1025 m
最低点の標高: 439 m
累積標高(上り): 1399 m
累積標高(下り): -1399 m
- 【体力レベル】★★★☆☆
- 日帰り
- コースタイム:6時間40分
- 【技術的難易度】★★★★☆
- ・岩場、雪渓を安定して通過できる技術が必要
- ・ルートファインディングの技術が必要
栃木県の最難関(全102ルート)
皇海山(銀山平往復)[難易度D/体力度7]
銀山平から皇海山(すかいさん)に登るコースは、『日本百名山』の著者である深田久弥が登ったクラシックルートです。
距離も長いうえに、崩れやすい岩質の岩場や、背丈ほどの笹が生い茂った道を進まねばならず、体力・技術ともに要します。上級者であっても余裕をもった計画を立てましょう。巨大な青銅の剣が見えたら、ようやく山頂です。
最高点の標高: 2105 m
最低点の標高: 812 m
累積標高(上り): 5661 m
累積標高(下り): -5661 m
- 【体力レベル】★★★★☆
- 1泊2日~
- コースタイム:14時間35分
- 【技術的難易度】★★★★☆
- ・岩場、雪渓を安定して通過できる技術が必要
・ルートファインディングの技術が必要
※2日目の庚申山荘〜山頂〜登山口までの行程が長いため、日没時間次第で庚申山荘でもう1泊しましょう。
新潟県の最難関(全113ルート)
寒江山(奥三面ダム往復)[難易度D/体力度10]
寒江山(かんこうさん)は新潟県と山形県の県境にある、朝日連峰の主峰です。山頂までの距離が長いのが難点。登山道中には1本橋の吊り橋があり要注意です。ロングコースのゴールには360度の大展望が待っています。高山植物も美しく、疲れた体をほっと癒してくれます。
最高点の標高: 1669 m
最低点の標高: 232 m
累積標高(上り): 4881 m
累積標高(下り): -4881 m
- 【体力レベル】★★★★★
- 1泊2日〜
- コースタイム:22時間45分
- 【技術的難易度】★★★★☆
- ・岩場、雪渓を安定して通過できる技術が必要
・ルートファインディングの技術が必要
※このルート上では、三面避難小屋と道陸神避難小屋がありますが、いずれも山頂からの往復は13時間以上となります。狐穴避難小屋小屋の宿泊も考慮しておきましょう。
静岡県の最難関(全82ルート)
★蝙蝠岳・塩見岳(二軒小屋ロッジ往復)[難易度E/体力度8]
二軒小屋ロッジからスタートし、蝙蝠岳(こうもりだけ)を目指すこのコースは、破線ルートとなっているため、ルートファインディングが必要とされます。傾斜は緩やかなものの、樹林帯の中を6時間近く歩かなければなりません。樹林帯を超えれば気持ちの良い稜線歩きが楽しめます。塩見岳の手前の北俣岳付近は幅の細い岩稜帯なので、注意が必要。
最高点の標高: 3000 m
最低点の標高: 1390 m
累積標高(上り): 3777 m
累積標高(下り): -3777 m
- 【体力レベル】★★★★☆
- 1泊2日〜
- コースタイム:18時間30分
- 【技術的難易度】★★★★★
- ・岩場、雪渓を長時間継続して通過できる技術が必要
・ルートファインディングの技術に加え、撤退などの判断能力ができる
※二軒小屋ロッジ~塩見岳間に宿泊できる山小屋はありません。宿泊の場合は塩見小屋となります。
★黒河内岳・広河内岳・農鳥岳(二軒小屋ロッジ→奈良田温泉)[難易度E/体力度8]
二軒小屋からスタートして農鳥岳を目指すこのコースも、歩行距離が長く体力が必要です。転付峠から先の林道は多数の崩落個所があるので慎重に進んでください。踏み跡やテープがわかりづらい個所も多数。農鳥岳山頂からは富士山も望めます。農鳥岳登頂後は大門沢下降点まで戻り、2000mを一気に下るので転倒や落石に気を付けてください。
最高点の標高: 2997 m
最低点の標高: 823 m
累積標高(上り): 4717 m
累積標高(下り): -5268 m
- 【体力レベル】★★★★★
- 1泊2日〜
- コースタイム:21時間40分
- 【技術的難易度】★★★★★
- ・岩場、雪渓を長時間継続して通過できる技術が必要
・ルートファインディングの技術に加え、撤退などの判断能力ができる
※二軒小屋ロッジ~農鳥岳間に宿泊できる山小屋はありません。宿泊の場合は農鳥小屋もしくは大門沢小屋となります。