P&Gから新開発の洗濯洗剤が発売されたのに続き(関連記事「スポーツウエアを強力消臭 P&G新アリエールは高額商品で勝負」)、花王からも2019年4月1日、「アタックZERO」が登場。いずれも最高・最強の洗浄力を訴求するが、商品の位置付けやテレビCMなどマーケティング戦略は対照的だ。
花王は商品ラインを一本化
花王が「アタックZERO」を開発した背景は、洗濯環境の変化。とりわけ吸湿発熱などの機能性を売りにした化学繊維の増加だ。化学繊維を使ったスポーツウエアなどでは、皮脂はもちろんのこと化粧品などの油分が付着すると従来の洗濯洗剤では汚れ落ちが悪いという。くしくもこれは、P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)が「アリエールジェル プラチナスポーツ」を開発した背景とほぼ同じだ(関連記事「スポーツウエアを強力消臭 P&G新アリエールは高額商品で勝負」)。
開発の背景が同じにも関わらず、花王とP&Gのマーケティング戦略には大きな違いが見て取れる。一番の違いが新商品の位置づけだ。P&Gはアリエールジェル プラチナスポーツを商品名にある通り、「スポーツウエアに特化した洗濯洗剤」と位置づけ、従来商品と併売する。一方の花王は、30年以上洗濯洗剤でトップシェアを続けるアタックをアタックZEROで完全にリニューアル。従来商品を廃止し、アタックZEROに一本化する。
違いはまだある。面白いのが「汚れ落ち」以外の商品の付加価値の付け方だ。繰り返しになるがP&Gは「スポーツウエア向け」で付加価値を訴求するが、花王は「ドラム式洗濯機向け」で付加価値をアピールする。P&Gがライフスタイル、花王は洗濯機の種類で付加価値を付けたのが好対照だ。
花王によれば、ドラム式洗濯機は少ない水でたたき洗いするため、タテ型洗濯機に比べて洗濯水の汚れの濃度が約2倍になるという。そのため従来の洗濯洗剤では汚れ落ちが悪いだけでなく、衣類に汚れが再付着してしまうケースも多い。結果、洗濯物がくすみやすい。ドラム式向けの商品では「節水対応ポリマー」を配合し、汚れの再付着を防いでいる。
世界初の新基剤で売り上げ計画は300億円
花王がアタックをアタックZEROに完全リニューアルに踏み切れた理由は、世界初という新開発の洗浄基剤「バイオIOS」の存在だ。これまで花王は「アタックNeo」で洗浄力を、「アタックNeo抗菌EX Wパワー」で抗菌力を打ち出してきたが、「アタックZEROはこの2商品を合わせた(特徴を持つ)洗剤よりも素晴らしい洗剤になった」(花王のファブリックケア事業部ブランドマネジャーの野村由紀氏)ため、既存商品を廃止するという大きな決断を下した。
花王の澤田道隆社長は、「売り上げ計画は、2019年4~12月でアタック Neoの約1.5倍の300億円を目指す」と強い期待感を示す。基剤を化学品として販売することも視野に入れているという。
バイオIOSは、これまでの洗浄基剤に比べて、「油によくなじみ水にもよく溶ける」特性を持つ。この特性により、化学繊維の油汚れもしっかり落とせる。商品名の「ZERO」は汚れがまったく残らないことに由来する。消臭についてもバイオIOSが「ニオイをゼロにするため、香りの強度は極力下げた」(野村氏)。また、「冬の低い水温でも高い洗浄力を発揮する分子構造」(花王のハウスホールド研究所長の岡野哲也氏)という。
バイオIOSの洗浄力が強力だとしても、懸念されるのは、「汚れ落ちは今で十分」と考えている消費者が多いことだろう。この点については、花王は独自調査から、洗濯に満足している人は全体のわずか9%というデータを得ている。「洗濯をするほど衣類が汚くなるが常識になってしまっていた。(バイオIOSなら)蓄積された汚れすらきれいに落ちる」と野村氏も効果に胸を張る。
バイオIOSは環境に優しい点もメリット。原料にはこれまで使われていなかったヤシの実のしぼりかすを活用しており、サステナブル(持続性)という点でも目を引く。「世界的には人口増加が見込まれており、洗剤の使用量も爆発的に伸びることが予想される。現在、界面活性剤の主な原料はヤシの種で、実の10分の1しかなく資源は潤沢とは言えない」と、野村氏はサステナブルな原料を使用する意義を説明する。
キャップレスの新容器「ワンプッシュボトル」
アタックZEROの発売に合わせて容器も一新した。従来のキャップで計量する形状から、取っ手の上部を親指で押すと1回5グラムずつ洗剤が出る「ワンプッシュボトル」を用意。洗濯物の量によって洗剤の量を加減できる。キャップで軽量したいという人も根強いため、キャップ付きも販売する。
容器のデザインも、ブランドのリニューアルが伝わりやすいものにした。「白は清潔、赤はアタックの名前の由来でもある挑戦、シルバーは時代の先進性を表している」(野村氏)という。また「アタック」をカナではなく「Attack」にしたのは、グローバル展開も見据えてのことだ。
コミュニケーションで新しさをアピール
花王はプロモーションでも新しい方向性を打ち出した。もはや使い古された「汚れ落ち」という言葉だけでは、テレビCMなどで新製品のすごさが伝わらないからだ。
そのため、アタックZEROは若手俳優イケメン5人組というこれまでなかったプロモーション戦略を採用。花王のファブリックケア事業部長の中尾良雄氏は、「(アタックZEROは)洗濯に深い関心を持たないミレニアル層がコアターゲット。この層との距離を縮めるため、旬で認知度の高い5人に(アタックZEROの魅力を)伝えてもらうことにした」と狙いを話す。
87年に「スプーン1杯で驚きの白さに」のキャッチフレーズで初めてのコンパクト粉末洗剤という革命を起こし、09年には「アタックNeo」で世界で初めて液体洗剤の濃縮に成功した花王。花王史上最高の洗浄力を携えた3度目のイノベーションで、19年春の洗濯洗剤頂上決戦を制することができるか。
(写真/中村宏)