2011年3月11日午後2時47分、東日本大震災が発生したとき、私はJR東日本の代々木駅にほど近いセミナー会場にいた。セミナーは日経NETWORKが主催したもの。講義は朝から続いており、受講者が3分後に始まる最終講義の前に、最後の休憩時間を過ごしているときだった。

 震災の発生直後、会場は激しく揺れて、受講者はあわてて立ち上がったり、部屋から飛び出したり、机の下にもぐったりした。私は別のスタッフと出入り口の扉を開放し、本震が収まった後、建物の外に避難するよう受講者を誘導した。

 誘導後、私は別のスタッフと手分けして弊社のオフィスにいる上司と連絡を取ろうとした。状況説明と今後の対応を相談するためだ。ところが、携帯電話や会場で借りた固定電話からオフィスの固定電話や上司の携帯電話に数度かけたがつながらない。仕方なく右手と左手に携帯電話と固定電話の受話器を持ち、交互に掛け直すことおよそ10分が経過したころ、やっと通話ができた。

 このような通信パニックが、首都圏をはじめ被災地から離れた地域でも発生した。ところが、このパニックの最中に、目的の相手といとも簡単に通信できた人がいたようだ。私が10分かけてオフィスの編集長と通話を始めたころ、別の上司との通話を終えていたスタッフがその一人だ。どうしてこんな差が出るのだろうか。その理由を明らかにし、震災に強い通信手段を紹介しよう。

混み合うと輻輳が発生

 まずは、どうしてつながりにくくなるのか、その理由から始めたい。理由がわかれば、つながりやすい通信手段が見えてくるからだ。

 固定電話や携帯電話は、複数の交換機が連携して通信相手との通信経路を確保してから、通話が開始できるようになっている。この経路は、交換機同士が各通話ごとに占有する回線を確保することで実現する。交換機は、通話が完了まで回線を手放さない。

 回線は物理的なケーブルで結ばれているため、その数に限りがある。NTTドコモによれば、「通常時の2倍の通話量になっても問題がないように通信網を構築している」という。ところが震災の直後には、安否確認などのために通話量が通常時の数十倍にまでふくれあがる。そして、回線容量を超える。こうなると、発信者には「ツーツーツー」という話中音や混み合っているというメッセージが流れるようになる。

 この状態を「輻輳(ふくそう)」と呼ぶ。一言で言えば「混み合い過ぎている」ということだ。

つながりにくい最大の要因は通信規制

 輻輳が発生しても、何度か掛け直していれば運よくつながることもある。ところが、通信事業者は輻輳が発生すると、発信に制限をかける通信規制を行う。

 通信規制は、消防や警察などへの緊急通報や、電力やガスといったライフラインにかかわる機関への通話などを優先するために、そのほかの通話を制限することだ。電気通信事業法では、このような重要な通話を優先するように定めており、通信事業者は輻輳が発生すれば通信規制を実施する。

 通信規制の方法は、各事業者によって異なるが、多くは交換機が重要な通話以外の通話量を絞る。重要な通話を行うために回線の空きを作るのだ。つまり、通信規制によってつながりにくさが増長されることになる。