予算復活はいいが不本意
迷走した国策スパコン事業の予算が復活した。率直な感想は。
現時点(12月18日)で文部科学省の見直し内容の詳細が公開されていないため、あくまでマスコミ発表の情報を基に議論せざるを得ない。そのため、どの点を見直すべきかコメントしづらい状況ではあるのだが、率直な感想としては「予算が復活したことはいいが、不本意である」ということだ。
スパコン事業が凍結となれば、日本の技術力が途絶える可能性もある。一部で日本の技術力が海外に劣るとの指摘もあるが、必ずしもそうとは言えない。この技術力を伝承させていくためにも、本来は立ち止まるべきではない。
しかし、現状のままでスパコン事業を継続させていくには、問題点が多数存在する。本心ではその分野の研究者として国策スパコン自体には期待しているのだが、現状のスパコン事業のやり方には到底賛成しかねるので、国策スパコンには11月13日の事業仕分けの場も含めてこれまで、一貫して批判の立場を貫いている。
確かに、事業仕分けの一事案における1時間という時間は短い。しかし、それでも私を含めた仕分け人たちから多くの問題点が指摘された。少なくともそこで挙げられた問題点を精査し、明確な改善策が定まらない中で事業を継続してしまうことは、非常に問題であると言わざるを得ない。
スパコンが必要な4つの意味
スパコン事業における最大の問題点は何か。
そもそものやり方が最大の問題である。スパコン事業は当初、私の認識では2004年まで参議院議員だった元東京大学総長の有馬朗人氏が地球シミュレータ(2002~2004年にかけて米国に多大な影響を与えたかつての世界最速の国策スパコン)に続く次世代スパコンの必要性を訴え出したことが大きなきっかけの一つだった。有馬氏が訴えたスパコンには、4項目の必要条件があった。
1つめはスパコン技術の伝承である。プロセッサやネットワークなどの主要技術から運用に至るまで、スパコンに必要なすべての技術およびノウハウを途切れることなく伝承させる必要があるためだ。2つめは競争環境を用意することである。健全かつ透明性のある競争環境が技術や利用者を育てるため、2つ以上のスパコンセンターに開発から運用までを同時に行わせる必要があると考えたのだろう。3つめに、それらスパコンセンターを大学に設置しそこに利用者や技術者が集まることも必要だ。ハードウエアとソフトウエアの両面で技術者が専門的にスパコンにかかわり、互いに切磋琢磨できる環境を用意しなければ、人は育たない。最後に、技術、競争環境、利用にかかわる人材育成を継続して行っていくことである。
にもかかわらず、気がつくと世界一の速度をベクトル型とスカラー型のハイブリッドシステムでやることが最大の目玉となっていた。当初求められていた国策スパコン像が十分に反映されず、それが見直しもされずにここまで来てしまった。これでは、予算を獲得するために世界一という目標、言うならばスローガンが定められ、獲得された予算に関係各社が群がった結果、おかしな方向に向かってしまったと見られてしまっても仕方がないだろう。
利用への認識が大変に甘い
「何をするためのスパコンなのか分からない」という批判は多い。これを受けて、文部科学省はスパコンの活用で発展が期待される研究分野の重点5分野(生命科学、新物質、気象、次世代ものづくり、宇宙=発表資料)を発表した。
そもそも、今後の発展が期待できる研究分野が的確に分かるはずがない。本来、意欲がある研究者であれば誰でもスパコンが使える環境を整え、その結果、国としても有望な研究分野が誕生するというものだ。だから先ほどの有馬氏が訴えたスパコン事業の必須4項目には、意欲のある研究者なら誰でもスパコンを活用できるようにするという第5項目を加えてもいいかもしれない。
大切なことは、それぞれの用途に応じたある程度の計算能力を持ったスパコンを複数台用意することだ。現状、国内のスパコンは速くても100テラFLOPS程度だが、欧米と同等の計算機利用環境を提供するためにも500テラFLOPSから1ペタFLOPS程度のスパコンがすぐにでも必要となっている。仮に、現状からいきなり100倍の京速計算機が用意されても、国内では進んでいる気象関連の計算などの一部の用途を除き、使いこなせると考えるのは大変に甘い。極端に国費をつぎ込んでそれを使いこなせなければ、実にもったいない話だ。