本連載「日系自動車メーカーのアジア市場崩壊前夜」をまとめるに当たり、中国の電気自動車(EV)メーカーで技術領域を担当する役員に緊急インタビューした。
なぜ中国はEVの普及に成功したのか。
エンジンや変速機でのチャンスが全くなかったからだ。EV推進は、中国の自動車産業が生き残るために選ばざるを得ない道だった。中国政府のエネルギー政策とそれに伴う充電インフラ整備も功を奏したと思う。
今後、中国EVメーカーが採る戦略は。
欧米市場への進出は難しくなった。進出する海外市場はアジアが中心となるが、中国最安値のさらに3分の2程度の価格を狙わないとボリュームを取れない。電池を内製化する中国・比亜迪(BYD)のコスト競争力がうらやましい。
日系の部品メーカーや素材サプライヤーの中国ビジネスの可能性は。
汎用品では価格的に全く参入困難だろう。新技術や新材料など、「日本企業だから実現できること」が必要だ。今後のビジネスや技術開発を日本の拠点で進めるのは無理ではないか。現地で完結させるべきだと思う。中国に限らず、海外に出てそこを起点とすべきだ。
中国EVメーカーも「厳しい」
筆者はこれまで、中国や韓国、ベトナムの現地でEVを中心とする電動車両の普及状況を調査し、関係者のインタビューを続けてきた(図1)。
連載を簡単に振り返っておこう。中国を訪問した際に各社から言われた点は、日本企業の意思決定の遅さである。「日本の本社にお伺いを立てることなく、中国完結のビジネス体制にしてほしい」とも要望された。韓国は、当初からグローバル商品開発であると同時に、官民で連携し世界市場を取りにいく風土があった。
ベトナムでは2023年以降、タクシー用途のEVが急拡大している。ベトナムの自動車メーカーVinFast(ビンファスト)の公表データや日本貿易振興機構(JETRO)のリポートなどから推定すると、同年のベトナムでの新車販売約40万台中、約3万台がVinFastのEVだった。
筆者は、現地調査とデータ分析から、日系自動車メーカーがアジア市場で存在感を失っていくことに危機感を募らせている。一方、国内でのメディア報道やコンサルティング会社のリポートには、日本向けに味付けされているものがある。特に顕著なのはネット情報であるが、見て聞いて心地よい情報にあふれている。
合理的な危機感は、次の発展のためのドライビングフォースとなる。筆者はトヨタ自動車に20年以上在籍し、その後は韓国Samsung SDI(サムスンSDI)に移籍した。日韓の自動車関連のグローバル企業での勤務経験から得た視点から、まずは危機感を伝えたいと考え連載した。
苦しいのは日本企業だけではない。冒頭のインタビューからも分かるように、中国のEVメーカーも今後の事業展開に頭を悩ませている。自動車業界が直面する「厳しさ」を受け止め、どう成長していくか。いくつかの視点を整理した。