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 電力系統に接続して、電力の平準化を図るための大規模蓄電システム(系統蓄電所)が国内で急速に増えている(図1)。これまでは、いわゆる実証実験がほとんどだったが、ここへきて事業化を進めるフェーズに移行した。

 大きな背景としては、出力が不安定な再生可能エネルギーが増え、地域によっては発電しても余剰電力となって捨てられるケースが目立ってきたことがある。系統蓄電所が増えれば、再生可能エネルギーの出力の不安定さを吸収する電力の平準化が進む上に、それらの電力の価値の暴落を防げる。

(a)北海道豊富町の720MWhシステム
(a)北海道豊富町の720MWhシステム
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(b)北海道千歳市の23MWhシステム
(b)北海道千歳市の23MWhシステム
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(c)群馬県伊勢崎市の7.46MWhシステム
(c)群馬県伊勢崎市の7.46MWhシステム
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(d)浜松市の69.6MWhシステム
(d)浜松市の69.6MWhシステム
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(e)兵庫県姫路市の48MWhシステム
(e)兵庫県姫路市の48MWhシステム
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(f)大分市の50MWhシステム
(f)大分市の50MWhシステム
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図1 日本各地に系統蓄電所
各地の系統蓄電池の写真またはイメージ。主な事業者はそれぞれ、ユーラスエナジーホールディングスなど(a)、住友商事(b)、東北電力など(c)、サーラエナジー(d)、出光興産やレノバなど(e)、東京ガス(f)(出所:(b)、(d)、(f)は各事業者、(a)は豊田通商、(c)はサンヴィレッジ、(e)はレノバ)

 こうした動きはまずオーストラリア、米国、そして中国などで先に顕在化し、特に2022年から2023年にかけては出力ベースでの伸び率が50%を超えた(図2)。日本でも電池の価格が下がり、電力市場の環境整備が進んだ。具体的には、2024年4月から蓄電池が得意とする応動時間が短い「二次調整力(2)」「二次調整力(1)」「一次調整力」といった市場取引の商品区分における調整力としての電力の調達が始まった(図3)ことである。これにより、電力系統における余剰電力が増えて市場価格が下がった時に電力を蓄電(買電)し、不足気味の時間帯に放電(売電)する「アービトラージ」と呼ばれる運用などで、高い収益を得られる可能性が広がった。

†応動時間=送配電事業者から需給調整の指令が出されてから、実際に電力の調整力を供給するまでの応答時間。
図2 世界では倍々ゲームで増加
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図2 世界では倍々ゲームで増加
世界における定置用蓄電池の導入量(左)。中国と米国の伸びが大きい。揚水発電などを含む蓄電システムの2030年の容量は2023年の6倍になる見通し(右)。STEPSは既存の脱炭素政策ベース、NZEは、より積極的な実質ゼロエミッション政策ベースの場合(出所:資源エネルギー庁が2024年5月29日に公表した「系統用蓄電池の現状と課題」)
図3 2024年度から応動時間が短い調整力を蓄電池で市場へ提供可能に
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図3 2024年度から応動時間が短い調整力を蓄電池で市場へ提供可能に
需給調整力市場の応動時間ごとの区分と蓄電システムによる利用可能時期を示した(出所:資源エネルギー庁)

 さらには、国や地方自治体の補助金制度なども充実してきた。こうした結果として、事業に参入する企業が急増してきたのである(表1)。

表1 2023年以降に稼働、または稼働予定の主な系統蓄電所計画(稼働予定時期順、グレーは実証実験、出所:各社の発表などを基に日経クロステックが作成)
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表1 2023年以降に稼働、または稼働予定の主な系統蓄電所計画(稼働予定時期順、グレーは実証実験、出所:各社の発表などを基に日経クロステックが作成)

接続検討は既に120GWh超に

 資源エネルギー庁は2024年5月29日、「系統用蓄電池の現状と課題」というリポートを公表した。その中で系統蓄電所ビジネスを手掛ける事業者が増えていることを報告し、接続を検討する段階では、既に定格出力ベースで40GW弱に達したことを明らかにした(図4)。一般に、系統用蓄電池の定格容量は定格出力の3~4時間分であることを考慮すると容量ベースでは120G~160GWhに達している計算だ注1)

注1)正確にはこれはリチウムイオン2次電池(LIB)の場合で、日本ガイシの「NAS電池」の場合は、定格容量が定格出力の約6時間分となる。
(a)2024年3月まで
(a)2024年3月まで
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(b)2030年度までの予測
(b)2030年度までの予測
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図4 接続検討は40GW弱
2024年3月までの接続検討と接続契約の定格出力(a)。2024年3月時点で系統蓄電所の系統への接続検討は39.97GWだが、実際に接続契約を結んだのは3.31GW。2030年度までの予測(b)。資源エネルギー庁は2030年度までに接続契約が約14.1G~約23.8GWhにになると見積もる(出所:資源エネルギー庁)

 ちなみに日本の電力系統における消費電力は平均で約90GW、最大で160GW前後。仮に、これらの接続検討段階の蓄電池すべてが実際に電力系統に接続されると、少なくとも約1時間は蓄電池だけで必要な電力を供給できることになる。

実際には2030年時点で14G~23GWhか

 もちろん、接続検討のすべてが実際に電力系統に接続されるわけではない。申し込み後、様々な審査や金融機関の査定などが入るからだ。資源エネルギー庁は、実際に電力系統に接続する契約を結び、稼働する蓄電池はその10~20%だとみている。結果として同庁は、2030年までに国内に導入される系統蓄電所の容量が約14.1G~約23.8GWhになるという推定値を明らかにした。

 表1の事業者の蓄電容量の合計は日経クロステックの推定で、2027年度までで約6GWh、2030年度までで約8GWhと、資源エネルギー庁の推定値よりも少ない。事業計画を持ちながら一般向けには公表していない事業者が相当数いるようだ。