JR東日本は2024年春に、新たな金融デジタルサービス「JRE BANK」を始める。楽天銀行が保有する預金、融資、決済といったバンキング機能をサービスとして提供するBaaS(バンキング・アズ・ア・サービス)を活用。スマートフォンアプリやWebサイトを通じて、個人顧客に預金や住宅ローンなどを提供する。ネットバンクとして幅広い地域の顧客と接点を持ちやすい楽天銀行のBaaSの特長も生かし、非運輸事業の拡大につなげる。
「新型コロナウイルス禍で人流が落ち込む中、金融をてこに駅ビルやホテルなどグループの各種事業との連携を促す」。JR東日本の小澤達決済・認証ユニット課長は、JRE BANK提供の狙いをこう語る。
JRE BANKの利用者は専用のスマホアプリやWebサイト経由で、振込や残高・入出金明細の照会といった機能に加え、楽天銀行が提供する住宅ローンなどの金融商品・サービスを使える。利用に応じてJR東日本のポイントサービス「JRE POINT」や、列車優待などの特典を付与する。
JRE BANKは楽天銀行のBaaSを活用する。システムは楽天銀行のインフラを活用し、JRE POINTの付与や照会などはJR東日本のシステムとAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を介して連携する。JR東日本グループで金融事業を手掛けるビューカードが、楽天銀行を所属銀行とする銀行代理業を担う。国内の鉄道会社グループで銀行代理業への参入は今回が初めてとなる。
JR東日本が期待しているのは、同社が提供するさまざまなサービスとJRE BANKとの相乗効果だ。鉄道の利用に加えて、駅ビルなどでの買い物やJRE POINTの活用を見込む。
活用促進策の一環として、駅構内など300超の拠点に設置したATM「VIEW ALTTE」を使えば、口座から現金を引き出す際の手数料を無制限で無料とする。「駅で現金を下ろしたついでに駅ナカの商業施設で買い物をするといった行動を後押しするほか、駅への人流回帰にもつながる」と小澤氏は話す。
非運輸事業拡大のけん引役に
小澤氏はJRE BANKを「非運輸事業の拡大のけん引役を担う存在」と位置づける。JR東日本グループにおける連結営業収益(2021年度は約2兆円)のうち、鉄道をはじめとした運輸事業が現状で65%を占める。
だが、人口減少やコロナ禍といった経営環境の変化を見据え、JR東日本は流通・サービスや不動産・ホテルといった非運輸事業の収益力向上を目指している。2025年度には連結営業収益に占める非運輸事業の割合を4割に、さらに将来は5割まで引き上げる方針だ。
クレジットカードの国際ブランドと提携し、JRE BANK専用のデビット機能付きキャッシュカードも発行する。クレジットカードの「ビューカード」や「Suica」に加えて、顧客に新たな決済方法を提供するのが狙いだ。ビューカードの山田耕平経営企画部担当部長は、「クレジットカードを持ちたくない顧客やカードを作れない若年層をJRE POINT生活圏に囲い込むうえでも重要」と話す。