大相撲 横綱 照ノ富士が現役引退「思いどおりの相撲できない」

この中で照ノ富士は「14年間の激しい相撲人生だった。本当に自分の中でできる限りのことを尽くしてきたが、今場所では思いどおりの相撲ができなくなり、これ以上、中途半端な気持ちと体で土俵に立つべきではない。相撲をとれる体じゃないなと感じ、引退することを決めた」と決断した理由を話しました。

今場所の初日に小結 若隆景に敗れたあとには、伊勢ヶ濱親方にもう1度負けたら引退したいと伝えていたことを明かし、「限界を乗り越えたいと思って土俵に立ったが、結果につながらなかった」と振り返りました。

今後、照ノ富士親方として伊勢ヶ濱部屋で後進の指導にあたることについては「相撲界に入るといろんな面で人生をかけてやることになるが、その中で、自分に嘘をつかない、自分を曲げない、そういう力士を育てていきたい。そういう力士は強くなる」と抱負を述べました。

【満身創痍 体の限界】
照ノ富士は近年、けがが重なり、3年前の秋場所後には4回目となる両ひざの手術を受けたほか、10回目の優勝を果たした去年の名古屋場所以降、再び、ひざと腰の状態が悪くなりました。

満足な稽古ができなくなったことに伴い汗をかけないため血糖値が下がらず、持病の糖尿病が悪化する悪循環となっていたことを師匠の伊勢ヶ濱親方も明らかにしていました。

それでも照ノ富士は「体が続くかぎりはカバーできる努力は自分の中でベスト尽くす」と、初場所前には横綱審議委員会の稽古総見や出稽古を行うなどして調整しました。

さらに複数の関係者に対して「11回目の優勝をして引退する」と話すなど、目標を公言してみずからを奮い立たせ、この初場所にすべてをかける覚悟を示しました。

しかし、場所前の稽古で右ひざに水がたまり、その後に腫れた影響で曲げられなくなったほか、右ひざをかばったことで腰も痛め、相撲を取れる状態ではなくなったということです。

【後進の台頭に一定のめど】
横綱白鵬が引退して以降、一人横綱として3年以上大相撲界を背負ってきた照ノ富士は、10回目の優勝を果たした名古屋場所のころに行ったNHKの取材に対して「きょうにでも辞めたい。そっちのほうが楽なので」と心境を吐露した一方で「次の横綱が出てこないと自分の中で辞められない」と言及する場面もありました。

そうしたなか、去年の秋場所では当時関脇だった24歳の大の里が2回目の優勝を果たし、場所後に大関に昇進。

続く九州場所では27歳の大関 琴櫻が初優勝を果たしました。その琴櫻と千秋楽まで優勝を争った25歳の大関・豊昇龍を含め若く力のある大関が横綱不在のなかで、結果を示してきました。

引退を決断した背景には、あとを託す後進の台頭に一定のめどが立ったこともあると見られます。

照ノ富士は来日後は強豪の鳥取城北高校に入学し、その後、間垣部屋に入門しました。

平成23年5月の技量審査場所で若三勝のしこ名で初土俵を踏み、間垣部屋の閉鎖に伴って伊勢ヶ濱部屋に移籍したあと、しこ名を今の照ノ富士に改めました。

体格を生かした力強い四つ相撲を持ち味に横綱 日馬富士をはじめとする兄弟子たちとの厳しい稽古で力をつけて順調に番付を上げ、平成26年の春場所で新入幕を果たしました。

1年後の平成27年春場所では小結の地位を通り越して関脇として新三役に昇進して、この場所で13勝をあげ続く夏場所で初優勝して場所後に大関に昇進しました。

初土俵から所要25場所での昇進は年6場所制となった昭和33年以降、幕下付け出しの力士を除いて3番目に早いスピード記録となりました。

伝達式の口上で「今後も心技体の充実に努めます」と決意を述べ、横綱候補として期待されました。

スピード出世した照ノ富士ですが、大関昇進後は「心技体」の「体」の部分で苦しみました。

ひざのけがや糖尿病などで稽古のできない状態となり、平成29年の名古屋場所からの連続休場もあって大関の地位から陥落するとその後も休場が続き、序二段まで番付を下げました。

大関経験者が幕下以下に陥落するのは昭和以降では初めてのことで一時は引退も考えました。

それでも師匠の伊勢ヶ濱親方から「辞めるか辞めないかを決めるのは病気を治してから」などと説得されて思いとどまったといいます。

「もう一度、親方を信じてやってみよう」。

妻や、部屋のおかみさんなど周りの支えもあり再び奮起しました。

けがや病気の回復に伴って少しずつ稽古を再開して、しこやすり足、筋力トレーニングなどで下半身を徹底的に鍛え直し、番付を戻していきました。

令和2年の名古屋場所では前頭17枚目の「幕尻」で幕内に復帰し、およそ5年ぶりとなる2回目の優勝を果たして復活を印象づけました。

三役に復帰した九州場所以降には「ここからの3場所が大事。元の位置にとりあえず戻りたい」と何度も口にし、どん底からはい上がってきた不屈の精神力で関脇だった続く令和3年の春場所で優勝し陥落から3年余りで大関に復帰しました。

続く夏場所でも連続優勝を果たすと、綱とりに挑んだ名古屋場所で千秋楽に横綱 白鵬との全勝対決に敗れはしたものの好成績を収めたことが評価されて場所後に第73代横綱に昇進しました。

照ノ富士が所属する伊勢ヶ濱部屋の部屋付きの親方で元横綱 白鵬の宮城野親方は「きょう朝稽古で報告を受け、『よく頑張った、お疲れ様』と声をかけた。1回、どん底のさらに下まで下がって、そこから復活して一気に横綱になった。そこは私も想像できないというか、理解できない奇跡というか、そういうものを成し遂げたのは今思えばすごい」とねぎらいました。

そのうえで「指導に熱があるのは感じたし、教えるのはすごく上手。私も勉強になるものがあるし、親方として指導して相撲界がさらに盛り上がるように1日でも早く強い関取、横綱・大関を育ててほしい」と今後への期待を寄せました。

同じモンゴル出身で、元横綱 鶴竜の音羽山親方は「あの体でよくやったと思う。いろいろなけががあるなかで出場すれば結果を出すのはすばらしいこと。けがを乗り越えて、横綱まであがったのはなかなかできないこと」とたたえました。

そのうえで「けがをして、番付を下げて休んだり、いろいろな経験をしている。そのすべてが親方として指導に必ず役に立つ。照ノ富士みたいな雰囲気を持った力士を育てていってほしい」と親方として後進の指導にあたる今後に期待を寄せました。

八角理事長は「体が大きくて力が強くてうまい相撲を取る力士だった。一人横綱としてよく頑張ったと思う。1人だとつらいし辞められないし、早く次の横綱が出るようにと思いながら頑張っていたのだろう」と話していました。

また、「今場所の相撲を見てまだいけるかなと思ったが気持ちがなくなってしまったのだろう。ただ、序二段に落ちてもやらせた師匠も大したものだった。師弟ともに頑張った」と評価していました。

そして、今後に向けては「けがをしたことでけがの人などいろんな人の気持ちがわかると思う。苦労しているだけに立派な親方になるでしょう」と期待を寄せていました。

横綱 照ノ富士の引退を受けて、現役力士からもさまざまな声が聞かれました。

今場所、「綱とり」を目指している同じモンゴル出身の大関 豊昇龍は「すごく気持ちの強い人だった。巡業でも気持ちの面、相撲についてなどアドバイスをもらってありがたかった。ふだんは先輩だと思い、相撲をやるときはライバルだと思っていたので、最後にもう一度対戦したかったが、残念だ」と惜しんでいました。

大関 大の里は「入門したときから巡業や稽古総見でも稽古をつけてもらって、アドバイスもいただいて、感謝しかない。気持ちが強い横綱なので、少しでも追いつきたい」と話していました。

また、同じモンゴル出身で40歳の玉鷲は「みんなのいい見本になっていた。あんなに体がボロボロになるまで体全身を使って全力で相撲を取っていてかっこよかった。本当に24時間相撲のことを考えている姿を見て、熱心だなと思ったし自分ももっと相撲のことを意識しないとと思った」と話していました。

同じ伊勢ヶ濱部屋の宝富士は「一緒に戦ってきて、今いる力士たちの中では1番一緒に稽古をしたと思う。寂しいがまた親方として指導してもらえるので、『いったんお疲れ様』という気持ち。相撲に対して研究熱心で昔は力任せだったが、ひざをけがしてからの相撲は技能が本当にすごかった。横綱が若い衆に教えているのを横で聞いて、自分も学ばせてもらったのでこれからも引き続き教わりたい」と話していました。