輪島と珠洲の人口 約30%減少と推定 戻りたくても現実は…

能登半島地震と豪雨で大きな被害を受けた石川県の輪島市と珠洲市では、人口が30%ほど減ったと推定されることが携帯電話の位置情報をもとにした分析でわかりました。住民票の移動などをもとにした石川県の推定では減少の割合は9%ですが、実際はさらに進んでいる可能性があります。

人口減少率 輪島で30% 珠洲で37%

石川県が5年に1回の国勢調査をもとに住民票の移動などを踏まえて毎月発表している推計では、能登半島地震が起きた2024年1月から11月までの人口の減少率は輪島市、珠洲市ともに9%となっています。

東京大学の研究者が立ち上げたスタートアップ企業「ロケーションマインド」は、実際の変化を調べようとNTTドコモの携帯電話の位置情報を個人を特定できないように加工されたデータをもとに分析しました。

分析では、輪島市と珠洲市に一定の期間、滞在している人を「居住者」とみなし、携帯電話を持たない人も含めた人口を推定しました。

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それによりますと、去年11月時点の人口は、輪島市がおよそ1万6000人、珠洲市がおよそ7900人と推定されるということです。

能登半島地震前の2023年12月時点のデータと比較すると人口の減少率は輪島市で30%、珠洲市で37%となり、石川県が発表している推計を大きく上回りました。

これについて、分析を行った会社は、住民票を移さずに輪島市や珠洲市を離れている人もいるため、実際は県の発表よりも人口の減少が進んでいるとみています。

減少率を地域別にみると、地震と豪雨の「二重被災」の影響が深刻な輪島市の東部や津波の被害を受けた珠洲市の内浦沿岸の地域はいずれも37%と大きくなりました。

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また、年齢別にみると、65歳未満は輪島市で30%、珠洲市で38%、65歳以上は輪島市で26%、珠洲市で32%となり、いずれも65歳未満の減少率が大きくなりました。

会社のCTOで東京大学の柴崎亮介名誉教授は「地元を離れた人たちは、時間がたつほど帰るのが難しくなる。復旧を急いで早く帰れるような環境を整えることが大切だ」と話しています。

一家で能登を離れて 戻りたい思いも現実は…

子育ての環境を考えて能登地方を離れても、いつかは戻りたい… 複雑な気持ちで日々を過ごしている人がいます。

石川県輪島市に住んでいた松岡和香子さんは能登半島地震で自宅が全壊したため、石川県加賀市の旅館に2次避難をしました。

去年4月からは「みなし仮設住宅」として借りた金沢市の一軒家に移り、夫と6人の子どもと暮らしています。

去年のクリスマスは親戚の子とともに家族そろってゆっくり過ごしました。

ただ、輪島のことが話題に出ない日はないといいます。

長男と次男、長女は小学生です。

加賀市へ避難したころはすぐにでも輪島へ戻るつもりで、住民票も移していませんが、子育て環境のことを考えると当面は金沢で暮らすしかないと考えています。

去年9月の豪雨災害の影響もあります。

「輪島に戻るならここに住みたい」と思っていた場所が浸水の被害を受けたのです。

一方で、子どもたちは輪島が大好きで、今も地元の友達と交流を続けています。

みなし仮設住宅の入居期間は最長で2年間です。

松岡さん夫婦は、輪島に戻りたいという思いと金沢にいた方がいいという思いの間で揺れ続けています。

(松岡さん)
「遊ぶ場所がないし習い事もできません。道路の状況が悪くて学校までの道のりも危ないところがあります。そんな環境の中で戻るのがいいことなのかという思いがあります。
離れてみるとやっぱり輪島のいいところもたくさん再認識できました。あと1年で決断できるのかというくらい時間がたつのが早いですね。決断は難しいです」

人口減少進む理由 住まい 交通 子育て環境…

輪島市や珠洲市で人口の減少が進んでいる背景には、住まいや交通アクセスの問題、子育て環境の問題などがあるとみられます。

能登半島地震の被災者のために用意された仮設住宅は、輪島市と珠洲市であわせて4600戸余りの建設が終わりましたが、完成が去年12月になったところもあります。

さらに輪島市では、去年9月の豪雨で285戸が浸水したため、一時的に退去が必要になりました。

復旧がすべて終わって再び入居できるようになったのは先月下旬のことでした。

奥能登地域を結ぶ主要な道路の国道249号も土砂崩れで通行止めが相次ぎ、先月になってようやくすべて通行できるようになりました。

街なかの商店や飲食店は地震の影響で休業や廃業したところも少なくなく、買い物や食事は以前より不便になっています。

さらに、保育園や学校が被災したり、グラウンドに仮設住宅が建設されたことで子どもたちが運動できる場所が限られたりしていて、子育ての環境も地震の前と比べると整っていません。

一方、豊かな自然に囲まれた能登の暮らしに愛着を持ち、離れたくないという人や、先祖が守ってきた墓を守り続けたいという人も多く、急激な人口の減少にどう歯止めをかけるかが大きな課題となっています。

「地域の暮らしを守れ!」 住民たちの取り組み

今回の分析で、人口が大きく減少したと推定されている輪島市東部の町野地区では住民のグループが地域の暮らしを守ろうと模索を続けています。

町野地区は能登半島地震と豪雨で二重に被害を受け、地元のタクシー会社が営業を取りやめたほか、路線バスも本数が減り、車を持たない住民が不便な暮らしを強いられています。

こうした中、地元の住民が立ち上げた「町野復興プロジェクト実行委員会」は、今月から3か月間、住民の有志がほかの住民を病院やスーパーなどに無償で送迎する事業を実験的に行うことにしています。

先月開いた会合では、メンバーが事業の進め方を話し合いました。

この事業は輪島市から委託を受ける形で車も借り受ける予定ですが、利用者が希望する時間帯に運転を担う住民が見つからない場合も予想されるため、運転手役をどう確保するか、さらに話し合うことになりました。

このグループは、去年の地震以降、近くの海岸でイベントを企画するなど地域を盛り上げる活動にも取り組んできました。

今後も定期的にイベントなどを開催する方針で、暮らしの利便性を確保したりにぎわいを生み出したりすることで人口の減少に歯止めをかけたい考えです。

(町野復興プロジェクト実行委員会 山下祐介委員長)
「地区の人口は震災前と比べて大きく減っていると感じていて、交通の不便さはその要因の1つになっていると思います。人口が減り、高齢者の割合が増えて現実は厳しいものがありますがその現実を受け止めてどうするか考えていくべきだと思っています」

専門家「人口減少抑えるには早期復興の道筋を」

被災地の復興のあり方に詳しい専門家は、人口の減少を抑えるには具体的な復興の道筋を行政が早く示す必要があると指摘しています。

輪島市の復興計画の検討にも携わっている東北大学の姥浦道生教授は、今回のように大規模な災害のあとに人口が大きく減る現象はほかの被災地でも起きていると話しています。

その上で「地域の外へ避難した人たちが戻る時期を決められるように公営住宅や公共施設、学校の整備など復興のロードマップをできるだけ早く具体的に示すことが大切だ」と指摘しています。

さらに、中長期的には人口の減少がさらに進むことも想定しておく必要があるとして「維持・管理しやすい公共施設の配置や交通手段の確保など人口の規模に合わせたまちづくりを進めていく必要がある」と話しています。