私だって見たいわけじゃない…親が知っておきたい4つのこと

私だって見たいわけじゃない…親が知っておきたい4つのこと
ダメなのはわかっているけどやめられない。つい、手にとって見てしまう。

そう、スマホです。大人でもそうなのに、いわんや子どもたちは。

「早くやめなさい」の声かけはダメ。取り上げても、隠しても、ダメ。

子どもの「スマホ依存」、大人はどうすればいいのー。

(社会部記者 平井千裕)

手放せないスマホ 12時間以上使う日も

「自分の私生活がスマホにどんどん浸食されそうやなと」そう話すのは大阪府に住む高校2年生の坂本妃愛さん。
朝起きたらまずスマホをチェック。

高校から帰宅して向かったリビングでも。

1人で夕食を食べる時は、スマホを触りながらの“ながら食べ”。

お風呂に行く時も手放すことはありません。

親から初めてスマホを買ってもらったのは小学4年生の時でした。

SNS、動画、友だちとのやりとり、アプリのゲーム、すべてが楽しく、のめり込んでいきました。

小学6年生のころ、中学受験を目指していたのに、スマホを使ってしまう時間が増加。

みかねた母親からスマホを取り上げられました。

コロナ禍の中学時代で悪化

スマホの依存状態がさらにひどくなったのは中学生の時。

きっかけはコロナ禍でした。

休校で1人で過ごす時間が増え、外で遊ぶことも難しいなか、スマホは友だちとつながることができる唯一ともいえる手段でした。

平日でも5時間、休日は12時間以上使うようになりました。
妃愛さん
「友だちから連絡来てないかなとか、手元にないと不安になっちゃいますね。10秒でも暇になったらぱっと取り出して、お守りみたいな感じかなと思ってます。自分自身でも歯止めがきかないんだなって思うことがあります」
一度スマホを触りだすとやめられず、どんどん寝る時間が遅くなりました。

それに伴い、朝も起きられず、遅刻する日が増加。

学校に行っても、授業中に寝てしまったり、精神的に落ち着かず、イライラして友だちとけんかしたりすることも多くなりました。

宿題が手につかず、授業にはついていけなくなり、成績も下がりました。

私の生活、スマホに浸食されそうやな…。

とりあげたスマホ、実は娘は…

スマホに依存する状態になっていく娘を母親の直子さんはどう見ていたのでしょうか。

小学6年生のころに受験勉強に身が入らない妃愛さんのスマホを取り上げた時のことを鮮明に覚えていました。

妃愛さんの目にスマホが入らないよう、働いていた勤務先に持って行きました。

「これで娘は大丈夫。娘のためだから」

そう自らに言い聞かせていた直子さんでしたが、ある日、妃愛さんの部屋で思いもよらぬものを見つけました。
誰も使っていなかった古いスマホです。

スマホを取り上げられた妃愛さんが、家の中から使われていない古いスマホを探しだし、自分の部屋で使っていたのです。

仕事を2週間休んで、娘を“監視”

スマホをとりあげても結局うまくいかなかった…。

受験直前の追い込みの時期、直子さんは、思い切った行動に出ました。
仕事を休んで、つきっきりで娘の勉強の様子を見張ることにしたのです。

リビングの机で勉強する妃愛さんの近くに座り、ほぼ常に行動を監視するような状態でした。

娘のことは本当は信じたい。

でも、どうしても信じられない…。

母親としての苦渋の決断でした。
母親 直子さん
「もうこの目で、わたしの目で見ないと信用できないって思って。そこまでしないと、ちょっと目を離すと何か違うことをしているので、スマホの禁断症状かわからないですけど。1分たりとも目を離せられない、もう信用できないと思ってしまって」

『フィルタリング機能』もかいくぐって

妃愛さんが中学生になったとき、コロナ禍で学校が休校となりました。

その影響で「スマホ依存」も悪化し、平日でも7時間ほどスマホを使うようになったため、直子さんは妃愛さんのスマホに「フィルタリング機能」を設定することに。

当時、妃愛さんの意見は聞かず、1日1時間しか使えないように設定しました。

しかし、これもむだでした。

妃愛さんは自分で見つけてきた特殊なアプリを使って、フィルタリング機能を簡単にかいくぐってしまったのです。

母親の目を盗んで、これまでどおり何時間もスマホで動画やSNSなどを見ていたといいます。
母親 直子さん
「結局何をしてもいたちごっこやな。どんなに対策しても無理…」
なぜ、そうまでしてスマホにのめりこんでしまうのか。

その問いに、妃愛さんはこんな胸の内を明かしてくれました。
妃愛さん
「母には申し訳ないなと思ってるんですけど、やっぱり触っちゃいますね。気づいたら触ってるみたいなことが多いです。スマホ関連のけんかがめちゃくちゃ増えました。もうどんどん成績も下がるし、やっぱ成績が悪いから親とのけんかも増えるし、お母さんにまた『成績悪いやん』とか『進級できるの』とか『大学行けるの』とか言われて、やっぱそのストレスから、スマホに逃げ込むことが多かったです」

親はどうすればいい?

対策をとっても“いたちごっこ”。

強く言ったら反発され、けんかに…。

どうすればいいのか。

そのヒントが、奈良県吉野町で行われたある取り組みから見えてきました。

「オフラインキャンプ」と呼ばれる2泊3日のキャンプ。

聞いたことがある人もいるかもしれません。

スマホを手放して、自らの依存状態を顧みて、今後の生活につなげようというものです。
集まったのは、小学3年生から高校3年生までの17人。

主催者側にスマホを預けて、キャンプらしく川遊びや芋掘り、キャンプファイアなど自然の中で遊び回ります。

(1)自らの「依存状態」を気づかせる

通常の野外キャンプと異なるのは、ネットについて考えてもらう時間を設けている点です。
グループにわかれての時間。

キャンプを主催した兵庫県立大学の竹内和雄教授が、マイクを持って、子どもたちに問いかけます。

「最高で何時間、ネットやゲームに使ったか話し合ってください」

生徒たちからは「17時間」とか「24時間」とかいった意見が、次々に発表されます。

さらに竹内さんが「スマホをたくさん使う日と、あまり使わない日で、どうしてそういう違いが出る?」と問いかけます。
高校生
「明確な目標がない日はやっぱりスマホに頼りがちというか。きょうは何々しよみたいな目的があったらそっちにいけるけど、なかったらスマホで動画みたりゲームしたり」
中学生
「テスト前とか受験前とかは勉強しないと本当にやばいなって思いながらも、どうしてもやめれないし、楽しくてつい長時間やって、楽しい方に流れていく感覚です」
この問いかけのねらい、わかりますか。

促しながら、まずは子どもたち自身に「自分が依存状態にある」ことを客観的に認識し、危機感を持ってもらうことです。

(2)否定せず、言葉を待つ

そして、竹内さんと子どもたちのやりとりの中にすごく大切なことがありました。

竹内さんは、子どもたちからどんな答えが返ってきても、その言葉を否定しません。

関西弁で「なんでなん?」「なんでなん?」と面白がって、次々に子どもたちから言葉を引き出していきます。

次第に子どもたちからもぽつりぽつりと「自分はスマホやりすぎだな」とか「ずっとスマホ触ってるからやばい」など、本音が聞かれるようになりました。
このキャンプの初日と2日目には、1時間のフリータイムも設けられています。

その時間だけは、一度預けたスマホやゲームも返却され、自由に使うことができます。

限られた時間をどう使うのか。

選択するのは、子どもたち自身です。
竹内和雄さん
「子どもたち自身が答えを出すような体験というのは大事ですよね。ネット断食ではないので、積極的にネットも使っていいと伝えています。1時間の自由時間の中で、ネットを使うのか、友だちと外で遊ぶのか、どうしようかなと悩む体験、葛藤の中で考える体験というのを大事にしています」

(3)スマホをとりあげるはダメ

このキャンプには保護者向けの講座もあります。

講師として招かれた精神保健福祉士の中元康雄さんが、子どもへの効果的なアプローチの仕方を説明しました。

ハッとさせられる親御さんも少なくないかもしれません。

まず、子どもからスマホを取り上げること。

これは逆効果になる可能性が高いとのこと。
中元康雄さん
「なんとか学校行かせよう、勉強させよう、ネットゲーム制限かけようみたいに、こちらが本人をコントロールするような介入をしたら、本人は必ずといっていいほど反発します。それか、白旗をあげてお父さんお母さんのいいなりになってしまいます」
では、どうすればよいのか。

ポイントは、キャンプで子どもたちが感じたように「リアルも楽しい」ということを日常の場面で体験させることなのだといいます。

でも、「子どもをキャンプに連れて行く余裕はない」という親御さんも多いかもしれません。

そんなときにふだんからできる対策として中元さんは次の方法を提案します。
中元康雄さん
「スマホやゲーム以外にも、いろんな喜び楽しみあるいはストレス発散の手段があるよというのをお父さんお母さんに伝えてもらいたい。たまにはお母さんと美術館行くのもいいなと、お父さんと一緒に買い物に行くのもいいなと、違った行動をしてよかったというところにリンクさせていくことが大事です。新たなライフスタイル、つまり依存行動する必要がないライフスタイルをつくっていくということが求められます」
いきなり外出は難しいという場合は、スマホから少しでも離れる時間をつくるため、「お菓子食べよう」とか「テレビを見よう」といった小さなステップからでもよいそうです。

そして、子どもへの声かけで意識する3つのポイントを強調しました。

▽先々口出ししない
▽相手(子ども)より言葉数を少なくする
▽相手(子ども)への指摘は『慎重』に
中元康雄さん
「正しいことを言い過ぎると、本人からの反論の余地を奪ってしまうというデメリットがあります。答えを出しすぎると何が問題かというと、お父さんお母さんのせいだとなって、いつまでたっても自分でやってうまくいったという体験につながらないので、答えを出しすぎるのはよろしくない。むしろ悩むチャンスを提供してほしいですね」

(4)ルールづくりは一緒に

この2泊3日のキャンプでは、最終日までに、子どもたちに課題を設けています。

それは、自分で「目標」を立てることです。
そのために、竹内さんも毎日子どもたちと面談します。

どんなことを考えているか、その意向を丁寧に聞き取ります。

目標を立てる際のイメージはこうです。

まず『大学受験で希望の学部に合格する』など現実的な大きな目標を立てます。

その上でその目標に向けてネットの使い方を考える、という順番で、今度は小さな目標を立てるとうまくいきやすいのだそうです。

目標はすべて具体的に設定します。

ネットの使い方についても「1週間で何時間まで」「毎日何時には寝る」と数値を明確にして、目標を立てていきます。

家庭で目標をつくる際も、親が一方的に決めるのではなく、子どもと一緒に考えて、お互いが納得できる目標にする必要があります。

たとえば、夜9時にスマホを終えてほしかったら、あえて8時と言ってみて、子どもに交渉でねぎらせる。

「1時間勝ち取った」と子どもが感じると、自分の要望が通ったと感じて、子どもも目標を守りやすくなります。

それと、子どもは自分に優しくしてくれる人に甘える傾向にあるので、決めた目標は、家族全員で共有して「共通認識」を持っておくこと。

自分で決めた目標を破ったときに「これぐらいいいか」と親が大目に見ないこと。

これも大切です。

そして最後に、「大きなポイント」があります。

それは…「子どもを思い切り褒める」こと。
竹内和雄さん
「親子でルールを一緒に運用していく中で、できたことは十分褒めてあげる、できなかったことは一緒に改善していく、そのあたりを子どもと同じ目線で一緒に考えてあげることが重要だと思います」

親も一緒に変わる

このキャンプには、実は大阪の坂本直子さん、妃愛さん親子も参加していました。
スマホを取り上げる。

学校の成績低下を心配して口すっぱく注意する。

どれも親からすると、子どもが心配だからこそ、ついやってしまう行動です。

しかし、妃愛さんは「そういったストレスから余計にスマホに逃げた」と話していました。

そのことを思えば、親の行動が子どもにとってむしろ逆効果になることもあります。

スマホを手放してキャンプを楽しみ、大学進学に向けた目標を自ら発表した妃愛さんの姿をみて、母親の直子さんはこう話していました。
母親 直子さん
「やっぱり今まではできてないことばっかり目にして、『早くやりなさい』とか、『できてないじゃない』とか、そういう言葉ばっかりかけてたんですけど、ちょっと今後は見守るっていうこと、褒めるということを心がけていけたらなということを思いました」

《取材後記》

大切な子どもだからこそ、転ばないよう先走って助けてしまう気持ち、わかります。

でも依存から抜け出せず、子どもたちも悩み、苦しんでいるとしたら。

声かけ一つで、子どもがスマホから顔を上げて、何かを変えられるとしたら。

ぜひ、きょうから少しずつ、子どもと向き合う時間を増やしてみませんか。

(2024年12月23日 おはよう日本で放送)
社会部記者
平井千裕
2016年入局
宮崎局を経て現所属