シリア政権崩壊 首相は早期に政権移譲の考え 専門家はどう見る

内戦が続くシリアで反政府勢力が8日、首都ダマスカスを制圧し、アサド大統領は後ろ盾となってきたロシアに亡命したと伝えられ、政権は崩壊しました。

シリアでは反政府勢力を主導した組織の指導者が演説し、「この勝利は歴史の新たな1ページで、地域にとっての転換点だ」と述べました。

アサド政権の崩壊から一夜が明けましたが、これまでのところ大きな混乱は伝えられておらず、国外に避難していたシリア人が帰国する動きも広がっています。

シリアのジャラリ首相は早期に政権移譲を行う考えを示しましたが、反政府勢力を主導した組織がテロ組織に指定されていることなどから、平和的な政権の移譲が実現するかが今後の焦点です。

【NHKプラスで配信中】ニュース7(配信期限 :2024年12月16日(月) 午後7:30 まで)↓↓↓

半世紀あまりにおよんだアサド政権崩壊

内戦が続いてきたシリアでは、先月下旬以降、攻勢を強めた反政府勢力が8日、大統領宮殿を抑えるなどして首都ダマスカスを制圧し、親子2代、半世紀あまりにおよんだアサド政権は崩壊しました。

これを受けて、反政府勢力を主導した「シリア解放機構」のジャウラニ指導者がダマスカスのモスクに姿を見せ、大勢の人々を前に演説しました。

この中でジャウラニ指導者は「この勝利はイスラム国家全体の歴史の新たな1ページでこの地域にとっての転換点だ。シリアは北から南、東から西まで11日間で解放された。私たちは偉大な勝利によって13年間に及ぶ苦しみが癒やされるのをこの目で目撃した」と述べました。

また、国営テレビを通じて公共施設は政権移譲されるまで前首相の管理下におかれると宣言し、秩序ある政権移譲が行われるよう国民に融和も求めていました。

市民 歓喜の様子 大きな混乱などは伝えられず

シリア国内外では多くの市民が歓喜する様子が見られ、一夜明けた9日も、大きな混乱などは伝えられていません。

また、シリアでは内戦の影響でいまも680万人が国外避難を余儀なくされていて、政権崩壊の知らせを受け、レバノンなど周辺国から多くのシリア人が帰国する動きも広がっています。

ロシア国営タス通信 “アサド大統領 モスクワに到着”

ロシア外務省の発表によりますと、アサド大統領は辞任することを決め、平和的に政権を移譲するよう指示した上でシリア国外に去ったということです。

ロシア国営タス通信は8日、アサド大統領が家族とともにロシアの首都モスクワに到着したと伝え、ロシア大統領府の情報筋の話として、政府がアサド大統領と家族の亡命を認めたとしています。

一方、反政府勢力はSNSでみずからの部隊に向けて「公共施設は正式に移譲されるまでは前首相の管理下にあり、接近することを禁止する」と命じたほか、国営テレビを通じて国民融和を訴えたということで混乱が起きないよう腐心している姿勢も伺えます。

シリア ジャラリ首相「政権移譲 スムーズに行われるよう尽力」

シリアのジャラリ首相は9日、アラブメディアの電話インタビューに応じ「シリア政府は機能している。ほとんどの閣僚がダマスカスで業務にあたっている。政権移譲がスムーズに行われるよう尽力する」などと述べ、早期の政権移譲のため、反政府勢力の幹部らとの面会も調整していると明らかにしました。

ただ、反政府勢力を主導した過激派組織の「シリア解放機構」は国連などからテロ組織に指定されているだけに、懸念の声もあがっていて、今後、平和的な政権の移譲が実現するかが焦点です。

反政府勢力を主導 ジャウラニ指導者とは

ロイター通信などによりますと、反政府勢力を主導したジャウラニ指導者はシリア生まれで、2003年のイラク戦争では過激派組織「イラクのアルカイダ」のメンバーとしてアメリカ軍と戦いました。

アメリカ軍に拘束され刑務所で5年を過ごしたあと、内戦が始まったシリアに戻り、「イラクのアルカイダ」から派生した過激派組織「ヌスラ戦線」に加わりました。

同じく「イラクのアルカイダ」を前身組織とする過激派組織IS=イスラミックステートとも関係があったとされています。

しかし、2016年にはアルカイダとの関係を絶って「ヌスラ戦線」を解体した上で、アサド政権の打倒を掲げる新たな組織「シリア解放機構」を立ち上げたということです。

この「シリア解放機構」は国連やアメリカ、トルコなどからテロ組織に指定されています。

ジャウラニ指導者はアサド政権が崩壊する前の今月5日にはアメリカのCNNテレビのインタビューに応じ、「シリアにふさわしいのは、1人の支配者が恣意的な決定を下すアサド政権のような統治ではなく、制度に基づく統治だ」と話していました。

【政権崩壊前後のシリア勢力図】

シリアではアサド政権が崩壊する前は、反政府勢力は、北部に追いやられ、国土の大半は政権側が支配していました。

アメリカのシンクタンク「戦争研究所」がまとめた今月3日時点の勢力図では、北西部のイドリブを拠点とし、今回の反政府勢力の攻勢を主導した過激派組織「シリア解放機構」が北部の主要都市アレッポを制圧し、中部の要衝ハマにまで迫っています。

また、隣国トルコが支援する反政府勢力が北部の国境地帯を拠点としていて、今回の攻勢にも加わったと指摘されています。さらに北東部はアメリカが支援するクルド人勢力が実効支配しています。

アサド政権が崩壊した8日時点の勢力図では、「シリア解放機構」が首都ダマスカスに進攻し、南に勢力を伸ばしています。また南部では地元の反政府勢力が南西部のダラアなどを制圧してダマスカスに迫り、アサド政権が支配地域を失っていったことが分かります。

ロシアとアサド政権

ロシアは、シリア内戦で、反政府勢力への空爆を行うなどアサド政権を支援してきました。

背景には、シリアがロシアにとって旧ソビエト時代以来の友好国だということがあります。

シリアの地中海沿岸のタルトゥース海軍基地と、北西部のフメイミム空軍基地にはロシア軍が駐留し、潜水艦やフリゲート艦、航空機なども配備されています。

長年にわたり戦車や航空機といったロシア製の兵器も多く輸出してきました。

シリア内戦への関与を強めることで、ロシアは、イラク戦争後、アメリカが軍の撤退を進めたことで生じた中東の力の空白を埋める形でその存在感を増していました。

先月下旬以降、反政府勢力が攻勢を強める中でもロシアのラブロフ外相や大統領府のペスコフ報道官は、アサド政権を支える考えを強調し、実際に、空爆を行って支援しました。

ただ、おととしのウクライナ侵攻以降、ロシアは兵力をウクライナに集中して投入していて、アサド政権の支援に十分な力を振り向ける余裕がなかったとみられます。

そしてシリア情勢が急速に進展するなか、アサド政権を支えきれず、アサド大統領とその家族を亡命という形でモスクワに受け入れることになりました。

ロシア国営タス通信はプーチン政権がすでに反政府勢力側と接触し、シリア国内のロシア軍基地と大使館の安全の保証を得たと伝えていますが、権益と安全の確保が最優先の課題となっています。

ロシアにとってシリアは中東の友好国であるだけでなく、アフリカも見据えた軍事的な拠点でもあっただけに、アサド政権の崩壊は痛手となっています。

ロシア大統領府 報道官 基地の維持「政権担う人たちと協議」

ロシア大統領府のペスコフ報道官は9日、記者団からシリアにあるロシア軍基地を維持するのか問われたのに対し「これについて話すのは時期尚早だ。シリアで今後、政権を担う人たちと協議することになる。現在は極めて不安定な政権移行期にあり、結論が出るまでには時間がかかる」と述べました。

ロシアはシリアの地中海沿岸のタルトゥース海軍基地と北西部のフメイミム空軍基地に軍を駐留させていて、ロシア国営のタス通信は、プーチン政権がすでに反政府勢力側と接触し、シリア国内のロシア軍基地と大使館の安全の保証を得たと伝えていました。また、ペスコフ報道官は、アサド大統領がどこにいるかについては「何も言うことはない」としたうえで、ロシアへの亡命を許可したのはプーチン大統領の決定だったと述べました。

シリアでのアメリカの立場は

アメリカはシリアの内戦が始まると民主化を求めてアサド政権の打倒を掲げた反政府勢力を支援しました。

また、内戦の混乱に乗じて台頭した過激派組織IS=イスラミックステートへの対応のため、シリア北東部を拠点とするクルド人勢力を支援したほか、いまもアメリカ軍の部隊、およそ900人を展開しています。

アサド政権の崩壊を受けてバイデン大統領は8日、「よりよい未来を築くための歴史的なチャンスだ」と強調し、シリア情勢の安定化に向けて支援していく考えを示しました。

一方、アメリカは今回の反政府勢力の攻勢を主導した「シリア解放機構」をテロ組織に指定しています。

バイデン大統領は「アサド政権を倒した反政府勢力の中にはテロや人権侵害の記録を持つグループもいる。われわれは彼らの言葉だけでなく、行動も判断していくことになる」と述べて、今後の動向を注視する考えを示しました。

また、アメリカはアサド政権崩壊の混乱でISが再び勢力を拡大しないようアメリカ軍の爆撃機や戦闘機で8日、ISの拠点などを空爆しました。

一方、来月就任するトランプ次期大統領は、シリア情勢をめぐって7日、SNSに投稿し「アメリカは関わるべきではない。これはわれわれの戦闘ではない。巻き込まれるな」と主張しました。

トランプ氏は1期目の政権で「ISを打倒した」と宣言し、シリアに展開するアメリカ軍の撤退を進めた経緯があります。

アメリカ軍 シリアのIS拠点など空爆

アメリカ中央軍は、シリアで8日、過激派組織IS=イスラミックステートの幹部や拠点など75以上の標的を爆撃機や戦闘機で空爆したと発表しました。

攻撃はISを壊滅するための任務の一環で、ISがアサド政権が崩壊した状況を利用して、再編成しないようにするためだったとしています。

バイデン大統領はホワイトハウスで行った演説で、ISに対する作戦は継続されるとした上で「われわれはISが戦力を再編成し、安全な居場所を作ろうと、あらゆる状況を利用しようとすることをはっきりと見据えている。われわれはそれを許さない」と強調しました。

各国の立場は

【イラン】

長年、シリアと同盟関係にあったイランにとって、アサド政権の崩壊はイスラエルと対じする上での大きな痛手です。

シリアは地理的に、イランからイスラエルの隣国レバノンまでをつなぐ中心に位置し、イランが中東各地で支援する武装組織のネットワーク「抵抗の枢軸」の要となる役割を果たしてきました。

シリアの内戦をめぐっても、イランは軍事精鋭部隊の革命防衛隊や民兵を派遣するなど、一貫してアサド政権を支援してきました。

それを足がかりに、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラに武器などを供給するルートとしてシリアを利用してきたと指摘されています。

しかし、この1年余りの間に、そのヒズボラやパレスチナのイスラム組織ハマスはイスラエルの激しい攻勢を受け、弱体化しています。

さらにイラン自体もイスラエルとの攻撃の応酬を繰り返すなか、その隙をつかれる形でアサド政権が崩壊に追い込まれました。

イランは中東地域で急速に勢力をそがれつつあり、外交・軍事戦略の見直しを迫られそうです。

イラン外務省は8日の声明で、今後の対応について「シリアの政治で鍵を握る勢力のふるまいを考慮しながら適切な対応をする」として、警戒感をにじませました。

【トルコ】

シリアの隣国のトルコは、反政府勢力を支援しながらもアサド政権の後ろ盾のロシアやイランとシリアの将来を話し合う枠組みのもとで、影響力を維持してきました。

国境を接するシリア北部の反政府勢力を支援する一方、アサド政権の崩壊を機に、内戦の混乱から逃れてきた300万人を超えるシリア難民の帰還を推し進めたい考えです。

一方でトルコは、混乱に乗じてクルド人の勢力が影響力を拡大することに強い警戒感を抱いています。

トルコはこれまでも国内でテロ組織に指定しているPKK=クルド労働者党とのつながりがあるとしてシリア北東部を拠点とするクルド人勢力に対し越境攻撃も行っていて、一部の地域はトルコが実効支配しています。

このクルド人勢力は、過激派組織IS=イスラミックステートの掃討を理由にアメリカが支援してきました。

トルコのフィダン外相は8日の会見で「シリア国民が国の未来をつくることができる段階に到達した」としてシリアの新たな政権と対話を行っていく考えを示す一方、「地域内外のすべての関係者が慎重かつ冷静に行動し、地域をさらに不安定化させないよう自制を求める」と述べ、警戒感もにじませました。

【イスラエル】

イスラエルは隣国シリアのアサド政権の崩壊を歓迎しています。

シリアがアサド政権のもとで長年、イランがレバノンのヒズボラに武器などを届ける供給路となっていたこと、シリア内戦を通じてイランがアサド政権への影響力を増し、シリア各地に民兵を配置するようになっていたためです。

このためイスラエルは、シリア国内にあるイランの軍事拠点への空爆を繰り返してきました。

ネタニヤフ首相はアサド政権の崩壊を受けて「アサド政権を支えてきたヒズボラやイランに対するイスラエルの強力な対応の成果だ」とする声明を出しました。

ただ、イスラエルはアサド政権を打倒した反政府勢力が今後、イスラエルにどのような態度をとるのか警戒していて、シリアとの緩衝地帯に新たに部隊を展開しました。

イスラエル軍は8日、アサド政権が保有していた兵器が反政府勢力の手に渡らないようにするためだとして首都ダマスカスなどで空爆したと報じられています。

カッツ国防相は9日、シリア全土にあるミサイルなど戦略的な兵器の破壊を進める方針を示していて、シリアの権力の空白期間を捉えてイスラエル軍が空爆を繰り返すことも予想されます。

【アラブ諸国】

アラブ諸国からはアサド政権の崩壊を歓迎する声が上がっていますが、この影響がどのような形で中東地域に広がるのか注視しています。

今回の政権崩壊は、アサド政権が内戦での軍事的な勝利をほぼ確実にし、周辺のアラブ諸国がアサド政権との関係改善に向かう中で起きました。

アラブの国や地域で作る「アラブ連盟」はシリアについて、民主化デモの弾圧などを理由に2011年から参加資格を停止してきましたが、去年、復帰を認めています。

アサド政権の崩壊を受けてアラブ連盟は8日、「シリアは最も重要で、危険な時期を迎えており、急速な進展を注視している」とする声明を発表しました。

また、「シリアのあらゆる人の権利を守り、平和的、包括的、そして安全な方法で政権移行プロセスの完了に向けて取り組む必要がある」としたうえで、いかなる外国の介入も拒否すると強調しています。

専門家 “新政権発足の際のカギはトルコ”

中東情勢に詳しい放送大学の高橋和夫名誉教授はシリアのアサド政権が短期間で崩壊に追い込まれた背景について「アサド政権の基盤は人口の1割程度しかいないイスラム教シーア派の一派、アラウィ派で、そもそも広い支持基盤を持っていなかったことに加えて10年以上の内戦で疲れきっている状況だった」としています。

加えて「政権を支えてきたロシアとイラン、レバノンのヒズボラという3本柱がウクライナでの紛争やイスラエルとの戦闘で忙しく、疲弊していた。さらに、反政府勢力の攻勢が始まったとき、アサド大統領は表に出て体制派を励ますようなメッセージを出さなかったという戦術的な失敗があった」と指摘します。

アサド政権の後ろ盾だったロシアの今後の出方については「シリアに海軍や空軍の基地を置いているのでこれらの基地が失われれば非常に大きな打撃を受ける。一方で、新しい政権を作ることになった反政府勢力は国際的な承認を受けるためにはロシアから反対されると難しくなるのでロシア側が切り札を持っている状況だ」と分析します。

さらに今後、新たな政権を発足する際のカギはトルコにあるとします。

「トルコは敵視するクルド人勢力がシリア国内で力を伸ばしているので抑えつけたい気持ちがあるがそうなるとシリアの安定にはつながらない。クルド人勢力との妥協案を探って安定に向かわせるのか。それともクルドの勢力には我慢できずに攻撃するようなことになれば、内戦の第2ラウンドとなる。クルド人勢力の後ろにはイスラエルがついているので、イスラエルとトルコの関係がどうなるかも焦点となる」としています。

そして、シリアの安定化に向けた国内課題について「アサド政権を支えてきたアラウィ派の人々と新しい政権がどのような関係になるかが重要だ。周辺国の事例を見ると独裁的な政権が倒れたイラクやリビアでは混乱が続いている。内戦が続いてきたシリアの傷は本当に深く、安定に向かうのか大変心配される状況だ」としています。

《各国の反応》

アメリカ バイデン大統領「良い未来を築くためのチャンス」

アメリカのバイデン大統領は8日、ホワイトハウスで演説し「アサド政権は多くの罪のないシリアの人々を苦しめ、殺害してきた。長い間、苦しんできた人々にとって、誇り高い国のより良い未来を築くための歴史的なチャンスの瞬間だ」と述べました。

一方、バイデン大統領は「危険と不確実性の瞬間でもあり、われわれは、次に何が起こるのかという問題に目を向けている。アメリカはパートナー国やシリアの関係者と協力し、危機を管理する機会をつかめるよう支援する」と述べました。

タス通信 “シリア反政府勢力側 ロシア軍基地近くの町掌握”

ロシア国営のタス通信は8日、シリアの反政府勢力側がシリアにあるロシア軍のフメイミム空軍基地の近くにある町、ジャブラを掌握したと伝えました。

現地からの情報として「反政府の武装勢力は、昼間のうちにはすでに町の中心部に入り、空に向かって発砲していたが、現在は平穏だ」としています。

崩壊したアサド政権の後ろ盾となってきたロシアは、シリア国内に複数の基地を置いていて、タス通信は、大統領府の情報筋の話として、シリアの反政府勢力がシリア国内のロシア軍の基地とロシア大使館などの安全は保証すると伝えたと報じています。

トルコ 新たな政権と対話行っていく考え

トルコ政府は8日、ギュレル国防相がアメリカのオースティン国防長官と電話会談し、最新のシリア情勢について意見を交わしたと明らかにしました。

またフィダン外相は8日、訪問先のカタールで会見し、トルコ政府は、シリアの新たな政権と対話を行っていく考えを示しました。

その上で、「シリア国民が国の未来をつくることができる段階に到達した。国を追われた何百万ものシリア人は故郷に戻ることができる。団結し、国を再建する時だ」と述べました。

一方、多くのシリア難民が暮らすトルコ各地では8日、アサド政権の崩壊を祝うシリアの人々の姿が見られ、最大の都市イスタンブールでも広場などで歓喜の声を上げていました。

イラン外務省「支援惜しまない」情勢を注視

政権を支援してきたイランの外務省は8日、声明を出し、「シリアの運命と未来を決めるのはシリアの人々だけであり、ただちに軍事衝突をやめて国民の対話を始め、すべてのシリア人を代表する包括的な政府を立ち上げる必要がある」として現状を容認する考えを示しました。

その上で「イランとシリアの人々の関係には長い歴史があり、この関係が続くことが期待される。シリアの安全と安定のために支援は惜しまない」とし、シリアへの関与を続けたい考えをにじませました。

ただ、今後の対応については「シリアの政治で鍵を握る勢力のふるまいを考慮しながら適切な対応をする」として、情勢を注視する姿勢を強調しています。

国連特使 “テロ組織は難しい課題”

国連でシリア問題を担当するペデルセン特使は8日、カタールのドーハで記者会見し、アサド政権の崩壊について「暗黒の時代は深い傷を残したが、きょう私たちは平和と和解と尊厳、そしてすべてのシリア人を含む新たな時代の幕開けに慎重ながらも希望を抱いている」と述べ歓迎する考えを示しました。

そのうえで現地の武装勢力に対し、法と秩序の維持と市民の保護などを求め、「シリアのすべての人々に対話と団結、国際人道法と人権の尊重を優先するよう強く求める」と呼びかけました。

一方、反政府勢力を主導する「シリア解放機構」が国連の安全保障理事会の決議でテロ組織に指定されていることについては、「明らかに難しい課題となっている」としたうえで、「指定を外すためには手続きがあり、可能なかぎり包括的なプロセスになるよう努力し続けるつもりだ」と述べました。

フランス マクロン大統領 政権崩壊を歓迎

シリアのアサド政権の崩壊を受けて、フランスのマクロン大統領は8日「野蛮な政権はついに倒れた」とSNSに投稿し、アサド政権のこれまでの強権的な政治を非難するとともに、政権崩壊を歓迎しました。

そして「シリアの人々の勇気と忍耐に敬意を表する。平和と自由と団結を願う」として、今後も中東全体の安定化に取り組む姿勢を示しました。

またフランス外務省も8日の声明で「シリア国民の多様性を尊重し、市民とすべての少数派を保護する平和的な政治の移行を求める」としたうえで、国内の和解や再建に向けて国際社会とともに支援を行うとしています。

林官房長官「中長期的な平和と安定確立へ外交努力重ねる」

林官房長官は記者会見で「一連の事態の推移を重大な関心を持って注視している。一刻も早く暴力が停止し、すべてのシリア人が基本的人権を共有し、自由と繁栄を享受できるようになることを強く望む。市民を含む多くの犠牲者が発生している状況を深く憂慮するとともに、さらなる人道状況の悪化を強く懸念しており、今回の動きは状況の改善につながる可能性があるものと期待している」と述べました。

そして「すべての当事者に対し暴力の即時停止、国際人道法を含む国際法の順守、中東地域における緊張緩和に向けた必要な措置を取ることを強く求める。わが国として引き続き国際社会と連携し、中長期的な地域の平和と安定の確立に向け外交努力を重ねていく」と述べました。

また、シリア国内の日本人の安否について「現在までのところ邦人の被害は確認されていないが、引き続き高い緊張感を持って安全確保に万全を期していく」と述べました。