米軍が報復で空爆 イランの軍事関連施設など 34人死亡か

アメリカ軍は兵士3人が死亡した攻撃への報復措置として、イラクとシリアの領内にあるイランの軍事精鋭部隊の関連施設などを空爆しました。この攻撃で少なくとも34人が死亡したとみられ、イランや空爆をうけたシリアやイラクからは非難の声があがっています。

アメリカ中央軍は現地時間の2日夜、日本時間の3日朝、イラクとシリアの領内で活動するイラン革命防衛隊の「コッズ部隊」やそれに関係する武装組織に対し、空爆を行ったと発表しました。

ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は記者団に対し、先月28日、中東のヨルダンでアメリカ軍の拠点が攻撃され、兵士3人が死亡したことへの報復措置だと説明したうえで、「攻撃はイラクとシリアの合わせて7か所に向けて行われ、標的は武装組織の指揮所やミサイル、それに無人機の関連施設など85に上る」と述べました。

カービー調整官は「報復措置は今夜、終わるわけではない」と述べ、攻撃は一定期間続くとの考えを示しましたが、「アメリカはイランとの衝突も、中東での衝突の拡大も望んでいない」と強調しました。

これに対し、イラン外務省の報道官は3日、声明を出し、「イラクやシリアの主権侵害であり、アメリカ政府はまた、戦略的な過ちを犯した」と非難しました。また、シリアでの被害については、シリア人権監視団が民兵組織の拠点など26か所が攻撃を受け、戦闘員18人が死亡したと発表したほか、国営通信は「アメリカの攻撃は正当化できるものではない」と非難する軍の声明を伝えています。

また、イラクでは政府の報道官が「複数の民間人を含む16人が死亡し、25人がけがをした」と発表したうえで、「この攻撃はイラクと周辺地域の安全を奈落の底に突き落とすとともに、安定を確立する努力にも反するものだ」と非難する声明を出しています。

反発の声が強まるなか、攻撃の応酬に歯止めがかかるのか、予断を許さない状況が続いています。

中東情勢に詳しい専門家「予想より強い対応 正直驚いた」

アメリカ軍による報復措置について、イランや中東情勢に詳しい慶應大学の田中浩一郎教授は3日、NHKのインタビューに対し、「民兵組織などだけでなく、イランの革命防衛隊の拠点も攻撃したのには正直驚いた」と述べ、イラン国外とはいえ、革命防衛隊を直接攻撃したのは予想より強い対応だったという見方を示しました。

その背景については「アメリカ議会で自国の兵士の死亡を受けて、『イランを直接たたくべきだ』という声があがっていて、そうした意見への配慮があったのではないか」と分析しました。

また、これまでのところ、イラン国内では革命防衛隊に対する攻撃についてあまり報じられていないと指摘し、「アメリカの攻撃がこれ以上拡大しなければ、イラン側としてはここで収めるつもりなのではないか」とイラン側の意図を推測しました。

「抵抗の枢軸」と呼ばれるイランの支援を受けている複数の武装勢力の間でもイランとの関係には濃淡があると指摘し、
関係の深い順に
▽レバノンのシーア派組織ヒズボラ、
▽イラクの民兵組織、
▽シリアの民兵組織としたうえで、
▽イエメンのフーシ派についてはイランの支援を受けているものの、コントロールできていないのでは、という見方を示しました。

そのうえで、それぞれの武装勢力が、「イランのコントロールを超えて自身の判断でアメリカへの報復を行うことも大いに考えられる」として、さらなる攻撃の応酬や激化への懸念を示しました。

田中教授は「ガザでの問題が各地に火の粉を飛ばし、地域紛争を拡大させたくないと思っているイランやアメリカが巻き込まれていくという構図が存在している」と説明したうえで、事態のエスカレートを防ぐためには「人道的な問題も含め、ガザやパレスチナ問題を根源的に解決する方向へいかないと、問題はいつでも再燃する」と指摘しました。

バイデン大統領「米国民に危害加えれば われわれは対応する」

アメリカのバイデン大統領は2日、声明を発表し、「私の指示により、アメリカ軍はイランの革命防衛隊と、関連する武装組織が使用するイラクとシリアにある施設を攻撃した。われわれが選ぶタイミングと場所で攻撃は続く」として、報復措置を断続的に続けるという考えを示しました。

その上で、「アメリカは中東などで紛争を望んではいない。しかし、アメリカ国民に危害を加えれば、われわれは対応する」と警告しました。

バイデン大統領 死亡した兵士3人の到着に立ち会う

アメリカによる報復措置を前にバイデン大統領は2日、東部デラウェア州の空軍基地で、先月28日にヨルダンで無人機攻撃によって死亡したアメリカ人兵士3人の遺体の到着に立ち会いました。

バイデン大統領はオースティン国防長官らとともに、星条旗がかけられた棺が運ばれる様子を見守っていました。

イラクとシリアの民兵組織とは

ガザ地区で去年10月にイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突が始まって以降、イラクとシリアでは駐留するアメリカ軍の部隊に対し、無人機やロケット弾による攻撃が相次いでいます。

こうした攻撃については、イランの支援を受ける「イラクのイスラム抵抗運動」と名乗るグループが犯行声明を出し、イスラエルへの軍事支援を続けるアメリカへの反発を示してきました。

このグループは先月28日、ヨルダンにあるアメリカ軍の拠点で兵士3人が死亡した攻撃に関与した可能性があると指摘される「カタイブ・ヒズボラ」など、複数の親イランの民兵組織で構成されているとみられています。

こうした民兵組織はイラクで2014年、過激派組織IS=イスラミックステートが台頭した際、政府軍に代わってISと対じし、存在感を示しました。

そして、ISが衰退したあとも、いわば「イランの代理勢力」として影響力を保持し、イラクに駐留するアメリカ軍と対立してきました。