ラグジュアリーなレストランやホテルでなくとも、アクセシブルな価格で顧客が喜ぶサービスを提供しようと奔走するブランドやショップは多い。ホスピタリティーの肝は、滅私奉公のように顧客の望みをかなえることではなく、心地のよい空間づくりと接客でファンの心をつかみながら、サービスを継続するための“仕組み化”や“マネタイズ”も同時に行うことにある。ここでは、成功事例を4つ取り上げる。(この記事は「WWDJAPAN」2025年1月13日号からの抜粋です)
キャスパージョン
右田拓也
アンティローザ常務執行役員兼「キャスパージョン」ディレクター
受注を取らない、参加費無料、
“マンツー”接客の展示会
ファッションに興味を持ち始めた高校・大学生の背中を押す、“頼れる兄”的存在のブランドがある。アパレル企業のアンティローザが手掛け、今年設立20周年を迎える「キャスパージョン(CASPER JOHN)」だ。2000年代初頭、古着店によるオリジナルブランドブームを受けて、同社の古着店で現在は閉業した「ハッピージョン(HAPPY JOHN)」が始めたラインだ。商品の大部分は5000〜1万円ほどと値ごろながら、右田拓也ディレクターによるシンプルでも一癖あるデザインで、Z世代の男性を中心に人気を集めている。
そんな彼らのファッション上級者に憧れる気持ちに応えるのが、21年秋冬シーズンから一般顧客向けに開く、無料の予約制展示会だ。参加希望者は、好きな販売員を指名し、マンツーマンで最新コレクションについて約1時間の接客を受けられる。最大の特徴は受注を取らないこと。右田ディレクターは、「展示会に行ってみたいと考える若者は多い。彼らに『買わなきゃ』というプレッシャーを抱かせたくなかった」と話す。接客スタイルも独特で、商品を余すことなく体感してもらう目的で、所要時間の前半はコレクションの全型を一方的に説明し、後半になってようやく試着タイムに移る。東京と大阪の店舗を拠点に、それぞれ1週間で100以上の予約枠を用意しても数時間で全て埋まり、北海道や九州、岡山などからバスで訪れる顧客やリピーターも少なくない。
定期購読についてはこちらからご確認ください。
購⼊済みの⽅、有料会員(定期購読者)の⽅は、ログインしてください。