MO紙
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/19 04:35 UTC 版)
手漉きによる画用和紙で水彩画用(吸い込み)、版画、水彩兼用(漉きドーサ)がある。MO紙(えむおーし)とはどんな和紙なのかとなれば画用紙、水彩画用紙、版画用紙と理解すれば容易な和紙である。中国伝来の溜め漉きにより抄造され、ヨーロッパの洋紙(主に水彩紙)の手漉き、半機械漉きに類似した漉き方である。福井県越前市大滝町(旧今立町大滝)の沖水彩画用紙製造所で抄造されていた。MO紙の名称の由来は、沖茂八(オキ・シゲハチ⇒オキ・モハチと読ませ)の頭文(OM⇒MO)から来ている。昭和初期、戦争色が色濃くなりヨーロッパ製の画用紙の入手が困難になってくると、石井柏亭を始めとする多くの画家から、日本国内でも西洋の画用紙が生産できないかという声が上がる。依頼を受けた初代・沖茂八は大阪の紙問屋から西洋水彩紙のワットマン(ワットマン水彩紙)を取り寄せ、素材の研究に入った。こうして麻や木綿(綿花の種子に付着した繊維)を原料とした吸水性のよいワットマン水彩紙の研究、模倣を重ね1935年(昭和10年)、国内初の手漉きによる水彩画用紙が完成した。初期のMO紙は紙の表面に膠を塗り、膠の定着剤として硫酸バンドという薬品を使いドーサ引きで仕上げられていた。半世紀経た1985年(昭和60年)からドーサ液(明礬と膠を混合した液)を原料に混ぜ込んだ漉きドーサに変わっている。1936年(昭和11年)には洋画家の中西利雄の指導もと吸い込みの強いMO紙(吸い込み)を完成させた。また余談であるが、ワットマン水彩紙も1937年(昭和12年)、まではすべて手漉きであったため、抄造、原料のブレンドなどを含め和と洋のブレンドではあるが類似性の強い紙になっている。日本画家・版画家の石井鼎湖の長男である石井柏亭に「MO」という紙名と字型を命名された。紙の特徴としては、綿(コットン)、麻、楮の繊維が緩く絡み合い絶妙にブレンドされている。用紙の厚みは300g/m2で厚手で西洋の水彩紙の平均的な厚みの規格に合わせている。沖茂八のワットマン水彩紙の素材の分析もあり、亜麻と木綿の繊維を原料とする水彩紙の基本配合に、楮、のちに針葉樹パルプ が入りオリジナルの和紙となった。水彩画用、版画用がメインであるが、賞状用紙、名刺もある。マルマン株式会社や画材専門店の文房堂からMO水彩画スケッチブックも販売されていた。絵の具のにじみや、薄いのびを期待する透明水彩及び水墨画用であるMO紙(吸い込み)は吸水性を良くするため加圧乾燥のみの、やや目の粗い仕上がりになっている。波打ちがおきにくく堅牢な紙肌で水に強い紙で毛羽立ちも殆どない。水彩絵具はもとより、鉛筆やパステルと相性も良く、ソフトでなめらかな表現が可能。スケッチや建築パースにも適している。にじまない紙と区別するために、中西利雄のNの字を漉き込んでいる。またにじみを止め、安定した絵具の定着を目的とした版画・水彩画兼用は、ドーサ液(明礬と膠を混合した液)を原料に混ぜ込んだ漉きドーサで、仕上げに加温及び強めに加圧(プレス)したものである。紙の目を詰まらせ、吸水性を劣らせにじみを抑える工程である。また油絵具、にじみをきらうアクリルガッシュによる絵画制作にも応用が効く。油絵具、ガッシュはもとより絵具に粉末顔料や膠を混合したのものなど乾くと硬質で重量を持った材料にも耐えうる和紙である。美術作家の要望による特注を除けば現存する和紙画用紙の中で最も丈夫な支持体で万能な和紙である。紙幣の透かし込み抄造、洋紙(水彩紙、版画用紙、木炭紙)の字型同様、MOの字型の透かし込みが入っているのが特徴。MOと読める方が紙の表でOMと読める方が裏。画用であるため紙の表を使うか裏を使うかは作家の好みである。
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