J-2Xとは? わかりやすく解説

J-2X

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/12/09 03:54 UTC 版)

J-2X
J-2X (イメージ図)
原開発国アメリカ合衆国
開発企業エアロジェット・ロケットダイン
目的上段エンジン
搭載スペース・ローンチ・システム
ブロックII (地球離脱ステージ)
前身J-2
現況開発中断
液体燃料エンジン
推進薬液体酸素 / 液体水素
混合比5.5-4.5
サイクルガス発生器
構成
ノズル比92:1
性能
推力 (vac.)1,307 kN (294,000 lbf)
推力重量比55.04
Isp (vac.)448秒 (4.39 km/s)
寸法
全長4.7メートル (15 ft)
直径3メートル (9.8 ft)
乾燥重量5,450ポンド (2,470 kg)
リファレンス
出典[1][2]

J-2Xアメリカエアロジェット・ロケットダイン (旧: プラット・アンド・ホイットニー・ロケットダイン) が開発した極低温液体燃料ロケットエンジンで、NASAコンステレーション計画において打ち上げ機として開発されたアレスロケットのエンジンに採用される予定だった。J-2Xは液水/液酸エンジンで、真空中推力 1,307 kN (294,000 lbf)、比推力 (Isp) 448秒 (4.39 km/s)を発揮する[2]。エンジン重量は約2,470 kg(5,450Lb)で、原型となったJ-2よりも重くなっている[2]

J-2Xは2007年にコンステレーション計画の一環で開発が始まった[2]アポロ計画で開発されたサターンロケットS-IIおよびS-IVBに搭載されたJ-2が原型であるが、アレスIの重量増により推力が不足することから新たに設計された。当初はアレスIおよびアレスV上段エンジンとして採用する予定だったが、コンステレーション計画が中止され、後継のスペース・ローンチ・システム (SLS) が立ち上がると、SLSブロックIIの地球離脱ステージへの採用が検討された。原型となるJ-2よりも高効率かつ簡素な構造とすること、スペースシャトル・メインエンジンより低コストとすることを目標とした[1]。有害なベリリウムの使用を止め、J-2の軸流ターボポンプに代えて遠心ターボポンプを採用したほか、燃焼室やノズルの膨張比を変更し、燃焼室構造もJ-2の管溶接構造から壁面チャネル構造に改められた。さらに電気系は完全に再設計され、ガス発生器と超音速主噴射器はRS-68を基にしたものに改められた[3]ほか、現代の接合技術が取り入れられた[2][4]

試験

2007年7月16日にNASAがプラット・アンド・ホイットニー・ロケットダインに「J-2Xエンジンの設計・開発・試験および評価」を12億ドルで発注すると公式発表[5]し、2007年8月23日にはジョン・C・ステニス宇宙センターにJ-2Xエンジンの高空燃焼試験台の設置が始まった[6]

単体試験は2007年12月から2008年5月にかけて行われ、J-2エンジンを用いたJ-2Xの予備試験も9回行われた[7]。プラット・アンド・ホイットニー・ロケットダインは2008年9月8日にJ-2Xの第1回ガス発生器単体試験に成功したと発表した[8]。その後、2010年9月21日にガス発生器単体試験の第二ラウンドが完了したことが発表された[9]

2011年からは、J-2Xの実機型エンジン燃焼試験が始まった。

  • 2011年6月-第1回燃焼試験[10]
  • 2011年11月:燃焼時間 499.97 秒を達成[11]
  • 2012年6月:燃焼時間 1,150秒を達成。出力調整試験も実施された[12]
  • 2012年7月:燃焼時間 1,350秒(22.5分)を達成[13]
  • 2012年12月:実機型タンクステージを用いた最終燃焼試験を実施[14]
  • 2013年2月:試験エンジン10002号機が試験台A2で6つの試験を実施[15]
  • 2013年6月:試験エンジン10002号機が試験台A1に移され、追加で7つの試験を実施[16]
  • 2013年9月:試験エンジン10002号機の最終燃焼試験[17]
  • 2013年11月:試験エンジン10003号機の試験開始[16]

状況

2013年10月には、資金難のほか火星有人探査に必要なエンジン能力の達成の遅延が予想されること、およびSLSの探査ステージにRL-10を採用することが決定した[18][19]ことにより、2014年の試験をもって開発を中断することが報告された。

関連項目

エアロジェット・ロケットダイン J-2Xエンジン

参考文献

  1. ^ a b J-2X Engine”. Aerojet Rocketdyne. 12 January 2014時点のオリジナルよりアーカイブ。9 January 2014閲覧。
  2. ^ a b c d e Mark Wade (17 November 2011). “J-2X”. Encyclopedia Astronautica. 12 December 2011時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年2月26日閲覧。
  3. ^ The J-2X Upper Stage Engine: From Design to Hardware. Thomas Byrd, Deputy Manager, J-2X Upper Stage Engine Element Ares Projects Office Marshall Space Flight Center Huntsville, AL 35812”. 2017年7月7日閲覧。
  4. ^ William D Greene (4 June 2012). “J-2X Extra: What's in a Name?”. NASA. 2012年6月11日閲覧。
  5. ^ NASA Awards Upper Stage Engine Contract for Ares Rockets”. NASA (16 July 2007). 17 July 2007閲覧。
  6. ^ NASA's Stennis Space Center Marks New Chapter in Space Exploration”. NASA (23 August 2007). 2012年2月26日閲覧。
  7. ^ NASA Successfully Completes First Series of Ares Engine Tests”. NASA (8 May 2008). 2012年2月26日閲覧。
  8. ^ Pratt & Whitney Rocketdyne Completes Successful Test of J-2X Gas Generator”. Pratt & Whitney Rocketdyne (8 September 2008). 9 August 2009時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年2月26日閲覧。
  9. ^ "Pratt & Whitney Rocketdyne Completes Latest Round of Tests on J-2X Gas Generator" (Press release). Pratt & Whitney Rocketdyne. 21 September 2010.[リンク切れ]
  10. ^ Morring, Frank. “First J-2X Hot-Fire Test Could Come Next Week”. Aviation Week. http://www.aviationweek.com/aw/generic/story_channel.jsp?channel=space&id=news/asd/2011/06/15/08.xml&headline=First%20J-2X%20Hot-Fire%20Test%20Could%20Come%20Next%20Week 19 June 2011閲覧。 [リンク切れ]
  11. ^ NASA Test Fires Engine for Giant New Rocket”. Space.com (9 November 2011). 26 February 2012閲覧。
  12. ^ NASA Surpasses Test Facility Record with J-2X Powerpack Test”. National Aeronautics and Space Administration (8 June 2012). 10 June 2012閲覧。
  13. ^ A Summer of Records for Engine Testing”. National Aeronautics and Space Administration (26 June 2012). 26 June 2012閲覧。
  14. ^ Beating Heart of J-2X Engine Finishes Year of Successful Testing”. National Aeronautics and Space Administration (13 Dec 2012). 14 Dec 2012閲覧。
  15. ^ NASA Set for New Round Of J-2X Testing at Stennis Space Center”. National Aeronautics and Space Administration (11 Feb 2013). 6 Feb 2014閲覧。
  16. ^ a b J-2X Progress: November 2013 Update”. National Aeronautics and Space Administration (15 Nov 2013). 6 Feb 2014閲覧。
  17. ^ One Final Test for J-2X Engine No. 10002”. National Aeronautics and Space Administration (5 Sep 2013). 6 Feb 2014閲覧。
  18. ^ NASA’s J-2X Engine To Be Mothballed After Testing”. Aviation Week and Space Technology magazine (4 Oct 2013). 29 Oct 2013閲覧。
  19. ^ NASA lines up Exploration Upper Stage workhorse for SLS”. NASASpaceflight.com. November 8, 2014閲覧。

J-2X

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/03/22 16:32 UTC 版)

J-2ロケットエンジン」の記事における「J-2X」の解説

詳細は「J-2X」を参照 コンステレーション計画におけるアレスI ロケット二段目に、どのエンジン使用するかという点については、NASA考慮重ねた当初スペースシャトルのメインエンジンであるSSMEを使うことも考えられたが、SSME地上点火するように設計されている。それを宇宙空間点火するように設計し直し、さらに燃焼試験なども一からやり直すことの手間暇考えると、J-2改良して推力133トンにまで向上させたJ-2Xを使用したほうがよいとNASA判断した。 この決定2006年2月18日になされ、原案では地球脱出ロケットに2基のJ-2Xが搭載されることになっていた。これにより、アレスI2010年シャトル退役してから3年以内に、オリオン宇宙船2014年まで発射可能になる予想されていた。さらにJ-2Xを、宇宙船打ち上げ用のアレスI貨物打ち上げ用のアレスV両方に使うことにすれば開発の手間はさらに省けることになる。そこで2007年8月23日にステニス宇宙センターStennis Space Center)に高高度環境下での燃焼試験台建設され、J-2X開発のために2007年12月から2008年5月にかけて、旧式J-2エンジン燃焼試験が行われた。 新しいJ-2Xは、アポロ計画使用され原型J-2よりもはるかに効率的シンプルな構造になっており、またコストの面においても、シャトルSSMEよりもずっと安上がりになるように設計されている。燃料ポンプ駆動には、上記ガス発生器サイクル使用される2007年7月16日NASAロケットダイン社と、アレスI およびアレスV ロケットの上段に使用するJ-2Xのデザイン・開発試験・評価に関する総額12ドル契約正式に交わした同年9月8日には、ロケットダインはJ-2Xで使用されるガス発生器の試験順調に行なわれたことを表明した順調に進めば2010年最初燃焼試験を行う予定だった。 しかしその後コンステレーション計画中止になってアレスロケットキャンセルされた事により、J-2Xは使い道無くなってしまった。2014年に、開発試験終了した後は使い道がないため倉庫入りとなる。NASA火星ミッションが当分実現できないため、他のミッションへの転用の道を模索しているが、スペース・ローンチ・システム(SLS)はJ-2XではなくRL-10エンジン上段ステージで使う方向になっており、使い道なくなっている。J-2Xエンジン上段ロケットとしてはパワーがありすぎ、SLS火星ミッション使わないであればRL-10エンジンを3から4基使えば間に合うというのが理由

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