IgMとは? わかりやすく解説

アイジー‐エム【IgM】

読み方:あいじーえむ

immunoglobulin M》⇒免疫グロブリンM


免疫グロブリンM、ガンマMグロブリン(IgM)


免疫グロブリンM

(IgM から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/20 23:45 UTC 版)

IgMの構造。1はユニット単位、2は重鎖、3は軽鎖、4はJ鎖、5は分子内ジスルフィド結合
IgMの構造の模式図。青は重鎖、黄は軽鎖

免疫グロブリンM(めんえきグロブリンM、Immunoglobulin M、IgM)は、B細胞に存在する抗体のクラス(アイソタイプ)の一つである。赤血球ABO式血液型の由来となるA抗原、B抗原に対する主な抗体もこれに属するものである。またヒトの持つ中では最もサイズが大きな抗体でもある。抗体は無脊椎動物には見られず、軟骨魚類以降の脊椎動物で見つかっており、IgMのみがそのすべてで共通に見られる。

構造と機能

IgMでは、いくつかの免疫グロブリンジスルフィド結合でつながって多量体を形成している。五量体が多いが六量体のものもあり、五量体の分子量は約900kである。1つの単量体が2つの抗原結合部位を持っているため、五量体のIgMには合計10個の抗原結合部位があることになる。しかし抗原のサイズが大きいため、通常IgMに10個の抗原が同時に結合することはない。

J鎖は五量体のIgMにはあるが、おそらく空間の制約のために六量体のIgMには現れない。またJ鎖を欠いた五量体もある。現在のところ、五量体のどの部位にJ鎖があるかも、五量体には2つ以上のJ鎖が含まれることがあるのかも分かっていない[1]

IgMはとても大きな分子であるため拡散しにくく、少量が間質液中に存在し、ほとんどは血清中に存在する。

IgMは多量体であるため、親和力が大きく、補体活性も高い。

発現

生殖細胞では、重鎖のμ領域の遺伝子が最も先頭に位置している。このためIgMは成熟したB細胞で最初に発現する免疫グロブリンである。

またIgMは20週目ほどの胎児が最初に発現する免疫グロブリン、系統発生学的に最も早くに発達した免疫グロブリンでもある[2]

医療的な重要性

感染の初期に発現し生体防御の初段階を担うのはこのIgMに属すいずれかの抗体で、それらは症状が進むと再び発現するようになる。またIgMに属す抗体はヒトの胎盤を通過できない。

これらの2つの生物学的性質によって、IgMは感染症の診断に用いられる。患者の血清の中にIgMが見つかると感染症に罹っていることを意味する。また新生児の血清から見つかると、先天性風疹など子宮内での感染があったことが分かる。

その他

IgMは、感染の体験がなく免疫がない時でも、血清中で特異的な抗原に結合していることがある。このためIgMは自然抗原と呼ばれることもある。この現象はおそらくIgMの抗原との高い親和性によるものであるものと思われる。例えば赤血球中でA抗原、B抗原と結合しているIgM抗体などである。

IgMは、血液型の違う輸血を受けた場合に血液が凝固する現象の主な原因である。

出典

  1. ^ Erik J. Wiersma, Cathy Collins, Shafie Fazel, and Marc J. Shulman Structural and Functional Analysis of J Chain-Deficient IgM J. Immunol., Jun 1998; 160: 5979 - 5989.
  2. ^ Review of Medical Physiology by William Francis Ganong

外部リンク


銀河間物質

(IgM から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/28 21:26 UTC 版)

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銀河間物質 (ぎんがかんぶっしつ、: intergalactic medium, IGM) とは、銀河外の空間に分布する物質のことである[1][2]。宇宙に存在するバリオンの50%以上は銀河間物質という形で存在すると考えられている[3]

形態

銀河間物質の元素組成はビッグバン元素合成から予測される質量比 (水素75%、ヘリウム25%) に近いものの、分光観測によって高赤方偏移でも一定の金属量を持つことが示唆されている[4]。これは恒星内元素合成によって生成された元素が IGM へ還元されたものであるが、この metal enrichment 過程は銀河風などによって駆動されたものと考えられるが、その詳細は2006年現在未解明な点が多い[5]

宇宙の晴れ上がり (赤方偏移 ) 以降、銀河間物質は中性原子という形で存在していたものの、銀河形成後に星形成銀河からのフィードバックにより再び電離状態に移行した[6]。この宇宙の再電離の時期はおおよそ から であると見積もられている[7]。より低赤方偏移の宇宙では IGM は完全電離している。また再電離と同時に IGM は まで加熱される[8]

さらに低赤方偏移 () では宇宙の大規模構造の形成に伴い IGM のおよそ半分は まで衝撃波によって加熱され、IGM は Warm–hot intergalactic medium (WHIM) と呼ばれる状態にある[9][10][11]。その密度は 10-27 kg/m3 より小さく、これは1立方メートルあたり原子ひとつ程度に相当する[12]

観測

銀河間吸収

中性水素の1s状態と2p状態の遷移に対応する輝線・吸収線はライマンα線と呼ばれる[13][14]。これは (赤方偏移を受けなければ) 波長

の紫外線である[14]。遠方の天体 (クエーサーなど) と地球を結ぶ視線上の銀河間空間に中性水素の雲を通過すると、この雲の位置でクエーサーの光のうちライマンα線が吸収を受ける (銀河間吸収[15])[16][6]。この吸収線の位置は雲の赤方偏移によって異なるため、天体のスペクトルにはライマンα線より長波長側に多数の吸収線が乱立して存在する。このようなスペクトルはライマンαの森と呼ばれる[16][6]

高赤方偏移 では IGM の多くが中性原子という形で存在するため[注釈 1]。クエーサーのスペクトルはライマンα線から長波長側の一定の範囲の波長の光が連続的に吸収を受け、Gunn–Peterson trough として知られるスペクトルを形作る (ガン-ピーターソン検定)[17][18][19]。このスペクトルは2001年にスローン・デジタル・スカイサーベイプロジェクトによって のクエーサーに初めて検出された[20][16]

宇宙マイクロ波背景輻射

宇宙マイクロ波背景輻射 (CMB) と IGM は制動放射およびコンプトン散乱により相互作用し、CMB に観測可能な効果を及ぼす[21]。CMB が高温 IGM と逆コンプトン散乱する場合、この効果は CMB の y 型のスペクトル歪みという形で現れる[22][23]。これはプランク分布レイリー・ジーンズの法則側の温度を実効的に

へと変更するもので、その大きさ は、IGM が赤方偏移 に加熱されそれ以降断熱的に振る舞うという仮定のものでは、IGM の現在の温度

という形で依存する[23]。y パラメータの制限はCOBEによる

がある[24][25]

21cm線

暗黒時代の IGM は検出可能な強度の21cm線を放射すると考えられており[26]LOFARMurchison Widefield Array (MWA) といった電波天文台によってこの時期の21cm線の検出が試みられているものの、2020年現在では IGM 由来の21cm線は未だ直接検出されていない[27]。2020年代にはより高感度のスクエア・キロメートル・アレイ (SKA) による観測が計画されている[28]

歴史

銀河間物質を検出する最初の試みは1959年のジョージ・B・フィールドによるもので、電波銀河であるはくちょう座A英語版を観測し中性水素の21cm線に対応する吸収線を探索するものだった[29][30][31]。しかしフィールドは IGM の有意な痕跡を発見することはできなかった[31]。その後クエーサーが発見されると、1965年にジェームズ・エドワード・ガンとブルース・ピーターソンは銀河間物質として中性水素が存在するならばクエーサーのスペクトルにはライマンα線に対応する吸収線が生じると指摘した[32][31]

IGM 観測は複数回に渡る技術革新の度に飛躍的に進展してきた[33]。1970年代半ばのX線天文衛星ウフルの打ち上げ、1990年代のハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げおよび新技術望遠鏡 (NTT) での EMMI の導入とケック天文台でのHIRES分光器の導入、2000年頃のVLTにおけるUVESの稼働、FUSEの打ち上げ、そしてスローン・デジタル・スカイサーベイの開始などである[33]

脚注

注釈

  1. ^ 宇宙の再電離は主として 以上のより高赤方偏移の宇宙で起こったと考えられているものの、ライマンα線の吸収断面積が大きいため、ガン-ピーターソン効果は IGM が完全電離状態となる まで継続する[6]

出典

  1. ^ 銀河間物質』 - 天文学辞典(日本天文学会
  2. ^ Mo, van den Bosch & White 2010, p. 34.
  3. ^ Mo, van den Bosch & White 2010, p. 689.
  4. ^ Mo, van den Bosch & White 2010, p. 719.
  5. ^ Meiksin 2009, p. 1456.
  6. ^ a b c d Mo, van den Bosch & White 2010, p. 86.
  7. ^ 宇宙論II 2019, p. 179.
  8. ^ McQuinn 2016, p. 316.
  9. ^ Cen, Renyue; Ostriker, Jeremiah P. (1999). “Where Are the Baryons?”. The Astrophysical Journal 514 (1): 1–6. doi:10.1086/306949. ISSN 0004-637X. 
  10. ^ McQuinn 2016, pp. 316-317.
  11. ^ Mo, van den Bosch & White 2010, pp. 703-704.
  12. ^ Intergalactic Medium”. 2021年5月27日閲覧。
  13. ^ ライマン系列』 - 天文学辞典(日本天文学会
  14. ^ a b Weinberg 2008, pp. 12-13.
  15. ^ 銀河間吸収』 - 天文学辞典(日本天文学会
  16. ^ a b c Weinberg 2008, p. 78.
  17. ^ Weinberg 2008, pp. 77-78.
  18. ^ Keel 2007, p. 139.
  19. ^ Mo, van den Bosch & White 2010, pp. 85-86.
  20. ^ Becker, Robert H.; Fan, Xiaohui; White, Richard L.; Strauss, Michael A.; Narayanan, Vijay K.; Lupton, Robert H.; Gunn, James E.; Annis, James et al. (2001). “Evidence for Reionization at z~6: Detection of a Gunn-Peterson Trough in a z=6.28 Quasar”. The Astronomical Journal 122 (6): 2850–2857. arXiv:astro-ph/0108097. Bibcode2001AJ....122.2850B. doi:10.1086/324231. ISSN 00046256. 
  21. ^ Mo, van den Bosch & White 2010, p. 314.
  22. ^ 小松英一郎『宇宙マイクロ波背景放射 (新天文学ライブラリー6巻)』東京大学出版会、2019年9月11日、354-357頁。ISBN 978-4535607453
  23. ^ a b Mo, van den Bosch & White 2010, pp. 314-315.
  24. ^ Fixsen, D. J.; Cheng, E. S.; Gales, J. M.; Mather, J. C.; Shafer, R. A.; Wright, E. L. (1996). “The Cosmic Microwave Background Spectrum from the FullCOBEFIRAS Data Set”. The Astrophysical Journal 473 (2): 576–587. Bibcode1996ApJ...473..576F. doi:10.1086/178173. ISSN 0004-637X. 
  25. ^ Mo, van den Bosch & White 2010, p. 315.
  26. ^ Weltman et al. 2020, p. 3.
  27. ^ Weltman et al. 2020, p. 2-3.
  28. ^ Weltman et al. 2020.
  29. ^ Field, George B. (1959). “An Attempt to Observe Neutral Hydrogen Between the Galaxies”. The Astrophysical Journal 129: 525. Bibcode1959ApJ...129..525F. doi:10.1086/146652. ISSN 0004-637X. 
  30. ^ Weinberg 2008, p. 77.
  31. ^ a b c Meiksin 2009, p. 1406.
  32. ^ Gunn, James E.; Peterson, Bruce A. (1965). “On the Density of Neutral Hydrogen in Intergalactic Space”. The Astrophysical Journal 142: 1633. Bibcode1965ApJ...142.1633G. doi:10.1086/148444. ISSN 0004-637X. 
  33. ^ a b Meiksin 2009, p. 1408.

参考文献

関連項目


IgM

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/15 02:00 UTC 版)

抗体」の記事における「IgM」の解説

免疫グロブリンM(IgM)はヒト免疫グロブリンの約10%占める、基本の4本鎖構造5つ結合した五量体の抗体である。分子量は970,000通常血中のみに存在し感染微生物に対して最初に産生され初期免疫司る免疫グロブリンである。分子量大きいので、マクログロブリンとも呼ばれるマクロは、「大きい」という意味である。

※この「IgM」の解説は、「抗体」の解説の一部です。
「IgM」を含む「抗体」の記事については、「抗体」の概要を参照ください。

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