ヘレネー
ヘレネー(古代ギリシャ語: Ἑλένη, Helenē、ラテン語: Helena、英語: Helen)は、ギリシア神話に登場する女性である。長母音を省略してヘレネとも表記される。元来はスパルタで信仰された樹木崇拝に関わる女神だったと考えられている[1]。
表向きはスパルタ王テュンダレオースと王妃レーダーの娘であるが、実父はゼウスであり、実母はネメシスともされる。兄にディオスクーロイ(カストールとポリュデウケース)兄弟、姉にクリュタイムネーストラーがいる。メネラーオスの妻となったが、イーリオス(トロイア)の王子パリスにさらわれ、トロイア戦争の原因となった。
神話
ヘレネーは成長すると、地上で最も美しい絶世の美女となった。アテネ王テーセウスは彼女をさらって母アイトラーのもとにあずけたが、ディオスクーロイにアイトラーごと取り返された。アイトラーは、この後ヘレネーに召し使われてイーリオスまでついて行き、イーリオス陥落の際にテーセウスの息子のデーモポーンとアカマースに再会した。
ヘレネーの結婚に際しては、求婚者がギリシア中から集まった。ヘレネーの義父テュンダレオース(一説ではオデュッセウスとも)は、彼らの中の誰を結婚相手に選んでも、それ以外の男たちの恨みを買う恐れがあるため、あらかじめ「誰が選ばれるにしても、その男が困難な状況に陥った場合には、全員がその男を助ける」という約束をさせ、彼らの中からスパルタ王メネラーオスを選んだ。
メネラーオスの妻となったヘレネーは、イーリオスの王子パリスの訪問を受けた。パリスは美の審判の際に、アプロディーテーからヘレネーを妻にするようそそのかされていたのである。ヘレネーはパリスに魅了され、娘ヘルミオネーを捨てて、イーリオスまでついていってしまった。
メネラーオスとその兄アガメムノーンらは、ヘレネーを取り返すべく、求婚者仲間たちを集めてイーリオスに攻め寄せた。元求婚者たちは、前の約束があるためにこれを断ることができず、トロイア戦争に参加した。
トロイア戦争では、ヘレネーを返してギリシア勢に引き上げてもらおうという提案がなされるが、パリスが反論して沙汰やみになった。パリスの死後は、パリスの弟のヘレノスとデーイポボスがヘレネーをめぐって争いをおこし、ヘレネーはデーイポボスの妻になることとなった。ヘレノスは弟にヘレネーを奪われたことをうらみ、戦闘に参加するのをやめて市外に逃れた。その後ヘレノスはオデュッセウスに捕まって説得され、ギリシア勢に味方することになった。ヘレノスは予言能力によりイーリオス陥落に必要な条件を教え、その滅亡を助けた。
イーリオス陥落の際、木馬の中にいたメネラーオスは、デーイポボスの館に駆けつけてデーイポボスを殺した。そしてヘレネーも殺そうとするが、恋情やみがたく殺すことができなかった。ヘレネーはメネラーオスと共にスパルタに帰った。
後日談では、再びスパルタの王妃として、かつての求婚者たちの許しを得て平穏に暮らしたとされる。また、別の話ではアガメムノーンの息子オレステースによって殺されたとある。オレステースは、密通の果てに夫アガメムノーンを殺した母クリュタイムネーストラーを自らの手にかけたが、叔母であるヘレネーをも「父アガメムノーンを10年に及ぶ戦争に連れ出し、家族崩壊の原因を作った不義の女」として成敗した。ギリシア悲劇でもしばしば扱われたが、三大作家の一人エウリーピデースによる悲劇『ヘレネー』が現存している[2]。
ヘロドトスはその著書『歴史』で、エジプトで得た知識としてこれらの通説とは異なる話を記載している。
それによると、パリスの船が風の影響でエジプトに来航した際に、彼の従者が神殿に駆け込んで主人のヘレネー誘拐を暴露した為、パリス一行はエジプトの官憲に逮捕されてしまう。当時のエジプトには「漂着者は丁重に保護する」という規則があった為、パリスは命だけは助けられたものの、ヘレネーと彼女と共に略奪したスパルタ王室の宝物をエジプト王室の管理下に置かれた上で国外追放の判決が下された。事態を知らされたパリスの父でトロイ王プリアモスはスパルタに事情を説明するが、激怒したメネラーオスはトロイ側の話をトロイが落城するまで信用せず、エジプトに問い合わせすらしなかった。トロイが占領されるに至って、トロイからヘレネーの姿も痕跡も発見されず、尚且つ生き残った捕虜もプリアモスの話を繰り返すだけであった事から、漸くメネラーオスはエジプトを来訪。エジプトのファラオから歓待を受けた上、丁重に扱われていたヘレネーと厳重に保管されていた宝物の返還を受けた。しかしながら、帰国を焦るメネラーオスが航海安全祈願の生贄の為に現地民の子供を誘拐した事が発覚した為、慌てて出航したスパルタ人はリビア方面に流されてしまい、却って帰国に手間取ることになってしまった。
ヘロドトスは、もし実際にヘレネーがイーリオスにいたのであれば、パリスの意思に係わらず返還されていたであろうし、プリアモスがいくらパリスをかわいがっていようとも、王族を含む大量の戦死者が出ている状況であれば返さないはずがないとの考えを記している[3]。
影響
系図
ギャラリー
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チェザーレ・ダ・セスト『レダと白鳥』(1506年-1510年頃)ヘレネー誕生の場面
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グイド・レーニ『ヘレネーの略奪』の一部(1631年)
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イーヴリン・ド・モーガン『トロイのヘレネー』(1898年)
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ギュスターヴ・モロー『トロイの城壁のヘレネー』(19世紀後半)
脚注
関連項目
ヘレン
ヘレン(英語: Helen)は英語圏の女性名。ヘレナ、エレーヌ、エレン、エレナ(エレーナ)、オレナ(オレーナ)などに対応する。
実在の人物
- ヘレン・ケラー - アメリカの教育家・社会福祉事業家。自らも障害を背負いながら、身体障害者の教育・福祉に尽くした。
- ヘレン・ミレン - イギリス出身の女優。
- 西川ヘレン - タレント。西川きよしの妻。
- ヘレン笹野 - 歌手・タレント。
その他
- ヘレン (バンド) - 日本のメタルバンド。
- ヘレン (ジョージア州) - アメリカ合衆国ジョージア州にある小さな町。
- ヘレン - ソーシャルゲーム『アイドルマスター シンデレラガールズ』の登場キャラクター。
- 以下の台風の国際名
- 昭和29年台風第6号
- 昭和33年台風第21号
- 昭和36年台風第10号
- 昭和39年台風第11号
- 昭和41年台風第24号
- 昭和44年台風第14号
- 昭和47年台風第20号
- 昭和50年台風第18号
- 平成4年台風第8号
- 平成7年台風第5号
関連項目
- 「ヘレン」で始まるページの一覧
- ヘレーン(Ἕλλην) - ギリシア神話に登場する人物(男)。
Helen
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 04:34 UTC 版)
「新機動戦記ガンダムWの登場人物」の記事における「Helen」の解説
マックスウェル教会のシスターで、神父と共に天涯孤独の身であったデュオに家族の温もりを与えた人物。神父と同様に「マックスウェル教会の惨劇」に巻き込まれ、破壊された教会の中でデュオの無事を喜びつつ息を引き取った。
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