850TC
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かねてより、アバルトは様々なタイプのGTマシンでサーキットレースに挑み実績を重ねていたが、当時ツーリングカークラスに導入されたのは750デリヴァツィオーネのみで、より戦闘力を高めたモデルが必要とされていた。あわせてロードユースのユーザーからもモアパワーを望む声が高まり、それらの声に応える形で1961年に「アバルト・850TC」を発表する。 車名の「TC」は「トゥーリズモ・コンペティツィオーネ(Turismo Competizione)」を意味する。排気量を633 ccから847 ccへ拡大するとともに専用の鍛造クランクシャフト、コンロッド、ピストン、バルブなどを採用し、圧縮比を9.2:1まで高めた。さらに大径のソレックス32PBICキャブレターや、マルミッタ・アバルトを引き続き採用するなど多岐にわたるチューニングが施され、最高出力53 PS / 5,800 rpm、最高速140 km/hというスペックを発揮した。大幅に向上したパフォーマンスに対応して足回りも強化され、当時のツーリングカーでは珍しかったディスクブレーキ(ガーリング製)をフロントに備える。 インテリアではタコメーターを中央に配したイエーガー製の3連メーターや、3スポークのレーシーなステアリングホイールが装備される。また、リアスカート下からは放熱性を高めたフィンが刻まれたオイルパンが覗き、エンジンフードを浮かせて固定させるという様式は以降のアバルトTC系でも伝統として引き継がれて行く。 こうして誕生した850TCは高性能サルーンの代名詞となり、好評なセールスを記録してアバルトを大きく躍進させる1台となった。レースでも目覚ましい活躍を見せ、1961年9月のニュルブルクリンク500 kmレースでは850TCがツーリングカー850 ccクラスで1 - 3位を独占し、総合成績でも強豪を相手に12 - 14位と健闘した。 アバルトはこの勝利を記念し、高性能版となる「850TCニュルブルクリンク」をラインナップに追加する。排気量はそのままに圧縮比を9.8:1まで高め、キャブレターを一回り大きなソレックス34PBICに換装し、さらにはバルブタイミングの変更や排気系の効率化などの入念なチューニングが施され、最高出力は56 PS / 6,000 rpmまで高められた。エクステリアではフロントのスカート下にサブラジエーターが配された点がポイントとなる。850TCでもフロア下の中央にサブラジエーターが備わっていたが、より冷却効率を高めるためにフロントに移設された。 続いて純レース仕様の「850TCコルサ」もラインナップに追加。こちらは完全なレーシングカーとして速さを追求したチューニングが施され、最高出力は79 PSを発揮するに至った。 後継となる1000TCの登場後も850TCの改良は継続され、1965年と1966年には1000TCと同等の大型ラジエーターが装着されている。 それまでのアバルトは一般的にはチューニングメーカーとして認識されており、自動車メーカーとしてはレース用を中心としたGTカーを少量生産するのみだったが、850TCの登場によってマニュファクチャラーとしての存在感を一気に高める事となった。
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