蘇軾と弟・蘇轍
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蘇軾と蘇轍は兄弟愛に溢れた人物たちであった。父蘇洵と兄弟で都に上京してから、同じ科挙合格者として政治の世界に入った。時には兄の地方役職の赴任の際に70キロ先まで見送りをし、またある時には支持していた旧法党が崩れ、兄弟ともに左遷を味わう。蘇軾は人生で多くの詩を残しているが、その多くは弟に向けた離別詩が多い。以下の詩は弟と初めて離れた時に詠まれた詩である。 辛丑十一月十九日 既與子由別於鄭州西門之外 馬上賦詩一篇寄之(辛丑十一月十九日 既に子由と鄭州の西門の外に別れ 馬上に詩一篇を賦して之に寄す)原文書き下し文通釈不飲胡為酔兀兀 飲まざるに胡為ぞ酔うて兀兀たる 酒を飲んだわけでもないのにどうしてこう酔っぱらった時のようにふらふらするのだろう 此心已逐帰鞍發 此の心已に帰鞍を逐うて發つ わたしの心はすっかり都へ帰っていく君の馬の鞍の後を逐って抜け出しているに違いない 帰人猶自念庭闈 帰人猶ほ自ら庭闈を念ふ 帰っていく君は何と言っても親の膝元に戻ることを心頼みに出来ようが 今我何以慰寂寞 今我何を以てか寂寞を慰めん 今わたしは何によって心の寂しさを紛らわせよう 登高囘首坡壠隔 高きに登りて首を囘らせば坡壠隔つ 高みに登って都の方を振り返って見ると一つの丘が遮っている 但見烏帽出復沒 但だ見る烏帽の出でて復没するを ただ君が被る烏帽だけが出たり隠れたりするのが見えるだけだ 苦寒念爾衣裘薄 苦寒に念ふ爾が衣裘を薄くして 冬の激しい風雪のある旅で君の着物が薄くはないかと気にかかり 獨騎痩馬踏残月 獨り痩馬に騎って残月を踏むを 夜明け前の旅立ちにひとり痩せ馬にまたがって残月の影を踏んでいく君を想う 路人行歌居人楽 路人は行く行く歌ひ居人は楽しむ 旅人は歌を口ずさみつつ行きかい家におる人は楽しげである 童僕怪我苦悽惻 童僕は我が苦だ悽惻するを怪しむ しかししもべたちはわたしだけひどく悲しげな顔をしているのをいぶかっている 亦知人生要有別 亦た知る人生要ず別れ有ることを また分かっている人生に別れはつきものだということを 但恐歳月去飄忽 但だ恐る歳月去ること飄忽なるを ただ恐れる年月が風のように早く過ぎ去ってしまうことを 寒燈相對記疇昔 寒燈に相對せし疇昔を記す 頼りないともし火の光のもとに向かい相語り明かした昨夜のことはいつまでも思い出に残るだろう 夜雨何時聴簫瑟 夜雨何れの時にか簫瑟を聴かん 二人で床を並べてそぼふる夜の雨の音を静かに聞ける日はいつになったら来るのか 君知此意不可忘 君此の意の忘るべからざるを知らば 君もこの願いこそ二人の心にとどむべきものだとはお判りでしょうが 慎勿苦愛高官職 慎んで高き官職を苦しく愛すること勿れ それならどうか高い官職を極度に好むことなどないようにしてほしい ※「子由」は蘇轍のこと。
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