群論とは? わかりやすく解説

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ぐん‐ろん【群論】

読み方:ぐんろん

代数学一部門。集合が群の定義を満たすとき、この集合性質研究する学問


群論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/12/29 05:34 UTC 版)

群論(ぐんろん、英語: group theory)とは、を研究する学問。 群の概念は抽象代数学における中心的な概念。

ベクトル空間などは、演算公理が付与された群と看做すことができる。

群論の方法は代数学の大部分に強い影響を与えている。

線形代数群リー群の理論は群論の一分野。 特に発展を遂げており、独自の適用範囲を持っている。

結晶や、水素原子などの構造の多くは、点群で表現できる。このように、群論は、物理学化学の中に多くの実例・応用例がある。

1960年代 - 1980年代に発表された総計1万ページを超える論文によって、完全な有限単純群の分類が達成された。これは多くの数学者の共同作業の賜物であり、20世紀後半の数学において最も重要な業績の一つである。

研究史

群論は、歴史的に3つの源泉がある。数論代数方程式論、幾何学である。数論の系統は、オイラーに始まり、ガウス合同式の理論、および二次体に関係した加法群・乗法群の研究によって発展した。

置換群に関する初期の研究成果は、ラグランジュルフィニアーベルらの、代数方程式の一般解の研究の過程で得られた。

エヴァリスト・ガロアは「群」という用語を作った。 彼は、初期の群論と現在の体論を結びつけた。

幾何学については、群はまず射影幾何学で、のちに非ユークリッド幾何学で重要になった。 フェリックス・クラインエルランゲン・プログラムにおいて、 群論は幾何学の原理を統合するものになることを予言した。

1830年代、エヴァリスト・ガロアが初めて、代数方程式の可解性の判定に、群を導入した。 アーサー・ケイリーコーシーはこの研究を発展させ、 置換群の理論を創設した。

歴史的な2番目の源泉としては、幾何学方面からの流れがある。 可能な幾何学(ユークリッド幾何学双曲幾何学射影幾何学)へ群を適用したのは、 フェリックス・クラインのエルランゲン・プログラムに始まる。

1884年、ソフス・リーは群(現在リー群として知られている)を解析的問題に適用した。 三番目に、群は(最初は暗黙的に、後に明示的に)代数的整数論に用いられた。

これら初期の源流では、観点が違っていたので、そのため群に対する観念も違ったものとなっていた。 1880年頃から群の理論の統合がなされてくる。 そして、群論の影響はますます増大し、20世紀初期には抽象代数学表現論など多くの派生分野が成立した。 有限単純群の分類は、20世紀中頃より膨大な量の研究がなされ、ついに完成に至った。

群の主なクラス

群の範囲は、有限置換群行列群の特殊な例から、生成系と基本関係で表示される抽象群まで、いくつかのクラスに分かれていると考えることができる。

置換群

初めて系統的な研究のなされた群のクラスは置換群である。 任意の集合 X と、X からそれ自身への全単射置換とも呼ばれる)の集まり G で合成と反転に関して閉じているようなものが与えられたとき、GX作用する群であるという。

Xn 個の元からなり、G が置換全体からなるならば、Gn-次対称群 Sn と呼ばれる。 一般の置換群 GX の対称群のある部分群となっているものをいう。 ケイリーによる初期の構成では、 任意の群は(左正則表現の意味で)X = G として自分自身に作用する置換群として提示された。

多くの場合、置換群の構造は対応する集合への作用の性質を用いて調べられる。 例えば、n ≥ 5 に対する交代群 An単純群である。 つまり、真の正規部分群を持たない。 次の方法で示すことができる。An が単純であるという事実は、高次一般代数方程式の根の冪根による表示の不可能性において重要な役割を果たす。

行列群

次に重要な群のクラスは行列群あるいは線型代数群と呼ばれるものである。ここでは群 G K 上の与えられたサイズの正則行列からなる集合で、積と逆をとる操作について閉じているようなものである。そのような群は n-次元ベクトル空間 Kn線型変換として作用する。この作用により、行列群は概念的には置換群とよく似たものとなり、また作用の幾何学は群 G の性質を示すのに最大限有効に利用することができる。

変換群

置換群や行列群は、群が空間 X にその内在的な構造を保つように作用するという、変換群の概念の特別の場合である(置換群の場合は X は集合で、行列群の場合は Xベクトル空間であった)。変換群の概念は対称変換群(あるいは「対称性の群」)の概念に近い関係にある。変換群というとある構造を保つ変換「全体」の成す群を意味することが多い。

変換群の理論は群論と微分幾何学とを結びつける橋渡しの役割を果たすものである。多様体上の同相あるいは微分同相としての群作用の考察は、リーおよびクラインに始まり、膨大な研究がなされている。ここで扱う群それ自体は、離散群かもしれないし連続群となるかもしれない。

抽象群

群論の発展の初期段階では、群としては、数、置換、行列などによって実現される「具体的」なものばかりが考察の対象であった。特定の公理系を満たす演算を備えた集合としての「抽象群」の概念が根付き始めるのは、19世紀後半になってからのことである。抽象群を特定する典型的な方法のひとつは、生成元と基本関係による表示

自由階数 2 の自由群 ⟨ x, y ∣ ⟩ のケイリーグラフ

幾何学的群論とは、語の問題や同型問題といった問題に対して、群を幾何学的対象として見たり、群が作用する適当な幾何学的対象を求めるといったような幾何学的な視点から解決を試みるものである[2]。前者の方法としては、群の元を頂点とし、右からの乗法によって写りあう元を辺で結んだケイリーグラフがある。二つの元が与えられれば、それらの元を結ぶ最短経路の長さとして語の距離が定義できる。後者のやり方として、ミルナーと Svarc による、(コンパクト多様体のような)距離空間 X に適当な方法で作用する群 G が与えられれば、群 G は空間 X に擬等長 (quasi-isometric) であるという定理がある。

群の表現

G が集合 X に作用するとは、G の各元が、X 上定義された全単射で群構造と両立するものを定めることをいう。ただし、X にさらに構造が入っているときは、それに応じて表現の概念に制限を加えるほうが有効である。例えばよくある状況として、群 Gベクトル空間 V における(または V を表現空間とする)表現(線型表現)とは、GL(V)V 上の正則線型変換全体の成す群として、群準同型

ρ: GGL(V)

のことをいう。これはつまり、群 G の各元 g線型自己同型 ρ(g) が割り当てられていて、さらに G の別の任意の元 h に対して ρ(g) ∘ ρ(h) = ρ(gh)が成り立つということである。

この定義は二つの方向性で捉えることができて、いずれの仕方でも(群コホモロジー同変 K-理論のような)数学のまったく新たな領域を生じる。ひとつは、群 G について新たな情報をもたらすものである。例えば群 G における演算はしばしば抽象的に与えられるけれども、表現 ρ を通じて(特に表現が忠実のとき)群演算は行列の積という非常に具体的なものに対応付けられることになる。もうひとつは、よく知られた群が与えられ、それが複雑な対象に作用しているものとすれば、そのような対象を調べるのが簡単になるというものである。例えば、G が有限群とすれば、表現空間 V既約表現の直和に分解されるというマシュケの定理が知られているが、既約表現に対してはシューアの補題などが利用できるので、V 全体を考えるよりもずっと扱いやすい。

与えられた群 G に対する表現論とは、G の表現としてどのようなものが存在しうるかを問うものである。状況設定はさまざまで、どのような手法を使えるかとか、どのような結果が得られるかというようなことがそれぞれの場合で変わってくる。有限群の表現論およびリー群の表現論は表現論における二大主要テーマである。群の表現の全体像は群の指標によって統制されている。例えば、フーリエ多項式は、周期函数全体の成す L2-空間に作用する、絶対値 1 の複素数全体の成す群 U(1) の指標として解釈することができる。

群と対称変換

与えられた任意の種類の構造を持つ対象 X に対し、その対称変換(あるいは対称性、symmetry)とは対象 X からそれ自身の上への構造を保つ変換のことを言う。これは多くの場面で見つかるが、たとえば

  1. 対象 X が特に付加的な構造を持たないただの集合であるとき、X の対称変換とは集合 X からそれ自身への全単射のことであり、その全体として対称群が得られる。
  2. 対象 X距離構造を備えた平面上の点の集合(あるいはもっとほかの距離空間)であるとき、X の対称性とは集合 X 上の全単射であって、X 上の任意の二点間の距離を保つもの(等距変換)のことである。これに対応する群は X の等距変換群と呼ばれる。
  3. 先ほどと同じ集合で距離の代わりにを保つものは共形写像あるいは等角写像と呼ばれる。等角写像の全体からは、例えばクライン群が得られる。
  4. 対称変換は何も幾何学的対象に限ったものではなく、代数的対象にも同様に定義することができる。例えば、方程式
    トーラスアーベル群的な構造は以下の写像で表される。 CC/(Z+τZ), τ はパラメータである。
    巡回群 Z/26 はシーザー暗号の基礎となっている。

    代数幾何学暗号理論と同様に、様々なところに群論が使われる。アーベル多様体は、群作用の存在によって、詳細な調査が可能になる。一次元の場合では、楕円曲線が詳細に研究されている。これらは理論的にも応用的にも興味深いものである[注 2]楕円曲線暗号では、非常に大きな素数位数の群が構成され、公開鍵暗号として役に立っている。

    代数的整数論は、群論の特殊な場合である。たとえば、ゼータ関数のオイラー積表示

    五度圏は巡回群の構造を与える。
    • 五度圏には12周期群巡回群)が現れる。
    • 物理学においては、群は物理法則の持つ対称性を記述するために使われる。物理学者は、群の表現、特にリー群の表現に興味を持っている。なぜならそれはしばしば、「可能な」物理法則を指し示すからである。物理における群論の応用には、たとえば標準模型ゲージ理論ローレンツ群ポアンカレ群などがある。
    • 化学材料科学においては、群はおもに結晶構造分子対称性を分類するのに使われる。構造に対応した点群により、物理的な性質(極性キラリティ)や分子軌道を決定できる。ラマン分光法赤外分光法も参照。分子の対称性は、化合物の多くの物理的・分光学的特性に関与しており、分子の対称性により化学反応がどのように起こるかを予想できる。与えられた分子に点群を割り当てるためには、その分子に存在する対称操作の集合を見つける必要がある。対称操作と対称要素は不可分の概念である。物体の位置と配向を、移動の行われる前と後を比べたとき、これら二つの場合の位置と配向を区別できないならば、その移動は対称操作である。一方で、対称要素とは、幾何学的な意味での、線、面、点などであり、それらに関して一つまたはそれ以上の対称操作が行われるものである。以下で対称操作について詳しく説明する。化学では、以下の5つの重要な対称操作がある。それらは、同一性操作(E)、回転操作または本義回転(proper rotation)(Cn)、反射操作または鏡映(σ)、反転操作(i)、および回転反射操作または転義回転(improper rotation)(Sn)である。恒等操作(E)は、分子をそのままにしておくことからなる。恒等操作は、すべての分子がもつ対称操作である。軸周りの回転(Cn)は、分子を特定の回転軸を中心とした角度360°/n(nは整数)を通る回転である。例えば、水分子(H₂O)において、酸素原子と二つの水素原子を含む平面上で二つのO-H結合のなす角を二等分する軸を中心に180度回転した場合は、開始時と同じ構成になる。この場合、n = 2となるので、水分子はC₂の対称要素をもつ。複数の回転軸を有する分子において、nの値が最も大きいCn軸が最高位の回転軸または主軸である。例えばボラン(BH3)の場合、回転軸の最高次数はC₃なので、回転軸の主軸はC₃となる。鏡映(σ)は、分子内に位置する対称面に対し分子を反転する操作である。対称面が回転主軸に対して垂直な場合をσh(水平)といい、回転の主軸を含む他の平面は、σvまたはσdである。例えば、水分子(H₂O)において、対称面は主軸を含むものしかないので、2つの対称要素σvを持つことになる。反転操作(i)は反転中心に対し分子を対称移動する操作である。水分子においては、反転中心が存在しない。回転反射操作または転義回転(improper rotation)(Sn)は回転してから、ついで回転軸に垂直な面内での鏡映という順序の操作を一つあるいはそれ以上繰り返す操作である。水分子においては転義軸を持たない。以上より、水分子は、E,C₂,二つのσvを対称要素として持つことが分かる。これから水分子はC₂vの点群に属することが分かる。

    脚注

    注釈

    1. ^ このように新しい構造を付加する手順は、適切なにおける群対象 (group object) の概念として定式化される。リー群は可微分多様体の圏における群対象であり、アフィン代数群はアフィン代数多様体の圏における群対象である。
    2. ^ ミレニアム問題の一つであるバーチ・スウィンナートン=ダイアー予想を見よ。

    出典

    参考文献

    洋書

    和書

    • 大島勝:「群論」、共立出版(共立全書88)(1954年10月1日).
    • 浅野啓三、永尾汎:「群論」、岩波書店(岩波全書 1100)(1965年2月18日).
    • 永尾汎:「群論の基礎」、朝倉書店 (1967年2月20日).
    • 鈴木通夫:「群論 上」、岩波書店、ISBN 4-00-005262-4 (1977年5月27日).
    • 鈴木通夫:「群論 下」、岩波書店、ISBN 4-00-005263-2 (1978年8月18日).
    • 渡辺哲雄:「群論演習」、槇書店、ISBN 4-8375-0480-9 (1980年6月20日).
    • 大山豪:「有限置換群」、裳華房、ISBN 4-7853-1128-2 (1981年9月30日).
    • 鈴木通夫:「有限単純群」、紀伊國屋書店、ISBN 4-31400490-8 (1987年10月).
    • 近藤武:「群論」、岩波書店(岩波基礎数学選書)、ISBN 4-00-007807-0 (1991年1月10日).
    • 原田 耕一郎:「モンスター: 群のひろがり」、岩波書店、ISBN 978-4-00-006055-4 (1999年3月26日).
    • 原田耕一郎:「群の発見」、岩波書店ISBN 978-4-00-006791-1 (2001年11月21日).
    • 堀田良之・渡辺敬一・庄司俊明・三町勝久:「代数学百科 I 群論の進化」、朝倉書店ISBN 978-4-254-11099-9 (2004年4月10日).
    • 原田耕一郎:「数学,この大きな流れ 群の発見」、岩波書店、ISBN 978-4-00-730609-9 (2017年5月10日).

    入門書

    群論と物理学・化学との関係を解説する文献

    関連項目

    外部リンク

    • History of the abstract group concept
    • Higher dimensional group theory This presents a view of group theory as level one of a theory which extends in all dimensions and has applications in homotopy theory and to higher dimensional nonabelian methods for local-to-global problems.
    • Plus teacher and student package: Group Theory This package brings together all the articles on group theory from Plus, the online mathematics magazine produced by the Millennium Mathematics Project at the University of Cambridge, exploring applications and recent breakthroughs, and giving explicit definitions and examples of groups.

群論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/31 04:39 UTC 版)

振動準位」の記事における「群論」の解説

量子論から導かれる選択律厳密なのであるが、群論の知識使えば、より簡単に遷移起き振動を知ることができる。 まず適切な基底導入し振動をあらわす表現行列作る。これは一般に可約表現表現行列である。基底選び方によっては、振動運動以外にも並進運動回転運動含まれている場合があり、これらは取り除く表現行列指標表分子の対称性を表す点群指標表用いて既約表現分解する

※この「群論」の解説は、「振動準位」の解説の一部です。
「群論」を含む「振動準位」の記事については、「振動準位」の概要を参照ください。

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群論

出典:『Wiktionary』 (2021/11/24 23:42 UTC 版)

名詞

(ぐんろん)

  1. (代数学) 数学対象としての群を扱う理論

関連語


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