たどう‐し【他動詞】
他動詞
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/16 03:34 UTC 版)
他動詞(たどうし、英: transitive verb)とは、典型的には、その節の中で目的語をとり、主語から目的語に向かう(あるいは及ぶ)動作を表す動詞。自動詞との関係も含めて、他動詞に関する言語現象一般を他動性 (transitivity) という(角田/Tsunoda 1991, 1999)。Hopper & Thompson (1980) は他動詞文と自動詞文は峻別できず、連続体をなすことを指摘した。
他動詞のうち、項が主語のほかに二つの目的語として現れるものを、特に二重他動詞(または複他動詞)と呼ぶことがある。他動詞の項が二つの場合、言語類型論的に重要な格の配列型があり、一つは対格型と呼ばれ、他動詞の格配列は<主格、対格>、そしてもう一つは能格型とよばれ、他動詞の格配列は<絶対格、能格>である(この違いは自動詞の格で顕在化する)。動詞が繋辞(けいじ、コピュラ)である場合に項が二つ現れる場合があるが、繋辞とともに現れる第二要素を述部を構成するもの(主格補語)とみなして、他動詞には含めない。
また受動態は能動態の目的語を主語に取る以上、他動詞にのみ取れる態である(日本語などに見られる特殊な受動態を除く)。
ただし、たとえば英語で、自動詞(形式上の目的語が取れず、それ自体では受動態になれない)としての"look"は、特定の前置詞"at"と組み合わせて"look at"の形で用いられることが多い。この場合には"at+名詞句"の形が前置詞句としてまとめられるのでなく(この形では意味が定まらない)、"look at"がひと塊りの動詞句(句動詞)として扱われ(「を見る」という独自の意味が定まる)、"be looked at"という形の受動態が作られる。つまり"look at"が他動詞として扱われる。英語にはこのように他動詞として扱われる動詞句が多数ある。
意味
高い | 低い | |
---|---|---|
Participants(参加者) | 2人以上: 動作主と対象 |
1人 |
Kinesis(動作様態、動き) | 動作 | 非動作 |
Aspect(アスペクト) | 動作限界あり | 動作限界なし |
Punctuality(瞬間性) | 瞬間 | 非瞬間 |
Volitionality(意図性、意志性) | 意図的 | 非意図的 |
Affirmation(肯定) | 肯定 | 否定 |
Mode(現実性) | 現実 | 非現実 |
Agency(動作能力、動作主性) | 高い | 低い |
Affectedness of O (被動作性、受影性) |
全体的に影響 | 部分的に影響 |
Individuation of O (対象の個体性) |
高い | 低い |
Hopper & Thompson (1980) によれば、他動性は表で示した10の意味特徴を持ち、それぞれの特徴から他動性の高低が分かる。他動性の高い特徴が見られる動詞ほど他動詞らしく、逆ならば自動詞に近づく。
これらの意味特徴については後に様々な検討がなされた。例えば「被動作性」について言うと、角田/Tsunoda (1991, 1999) の考えでは、動作が対象に及ぶかどうかのみならず対象が変化するかが重要であるとされた。
- a. 太郎 が 箱 を 壊した。
- b. 太郎 が 箱 に 触った。
対格「を」が使われている a の文では、太郎の動作が箱に及び箱が壊れるという変化が起こった。一方与格「に」が用いられている b では、動作は箱に及んだが箱が変化したかどうかは分からない。このように日本語では動作が対象に及び、かつ変化する場合に対格が用いられる(すなわち、動詞は他動詞である)。
また、これらの意味特徴のうちの1つが高くても、他の意味特徴も高いとは限らない。
- c. I hit him. (私は彼を殴った/彼にぶつかった)
- d. I hit at him. (私は彼に殴りかかった)
c の hit は対格の代名詞を取っているので他動詞であるが、「ぶつかった」という意味の場合、意図的な行為でなくても言える文である(意図性が低くてもよい)。d は意図的な動作であるが、彼に命中しなくても言うことができる文である(つまり、被動作性が低くてもよい)。このように、英語では「意図性」と「被動作性」が食い違う場合、被動作性が高ければ他動詞になるが、意図性が高くても必ずしも他動詞にはならない。
これは、マラーティー語では逆になる(パルデシ 2007)。
e. Raam-ne muddaam kap phoḍ-l-aa. ラム-erg わざと コップ(m) 割る-pfr-m 「ラムはわざとコップを割った」
f. Raam-caa-haat-un nakaḷat kap phuṭ-l-aa. ラム-gen-手-から うっかり コップ(m) 割れる-pfr-m 「ラムはうっかりコップを割った」
e の文は意図的な行為を表しており、他動詞が用いられている。一方 f の文ではわざとではない行為を表しており、自動詞が用いられている。
形態と統語
類 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
意味 | 直接影響 | 知覚 | 追求 | 知識 | 感情 | 関係 | 能力 |
例 | 殺す 壊す 温める |
見る 聞く 見つける |
探す 待つ |
知る 分かる 覚える 忘れる |
愛する 嫌う 怒る 恐れる |
持つ ある 似る 対応する |
できる 得意 capable (of) good (at) |
日本語の格 | ガ+ヲ→ | ||||||
←ニ+ガ |
他動性は以下のような形態論や統語論の諸側面に反映する(角田 2007)。
- 他動性が高い動詞の項は2つ以上である。
- 他動性が高い現象ほど動詞で表される。低いものは形容詞で表されやすい。
- 他動性が高いほど主格+対格/絶対格+能格になりやすい。低ければ与格+主格/絶対格などの構文が現れやすい。
- 他動性が高いほど、受動態・逆受動態・再帰態・相互態などの文が作りやすい。低いと作りにくい。
- ロシア語では、他動性が高いものは完了/不完了の相(アスペクト)の区別を持つが、低いものは不完了だけを持つ傾向がある。
- ワロゴ語の動詞の活用は他動性の高低によって異なる種類が存在する。
- ヨーロッパ標準言語の多くに見られる完了形の助動詞の選択は、他動性が高いほど have 系統をとり、低いものでは be 系統が存在する。
角田 (1991) がまとめた二項述語階層によると、これらの特徴は被動作性の高低によって並べることが出来る。
参考文献
- 角田太作 (1991) 『世界の言語と日本語』くろしお出版。
- — (2007) 「他動性の研究の概略」角田三枝 他(編)。
- 角田三枝・佐々木冠・塩谷亨 編 (2007) 『他動性の通言語的研究』くろしお出版。
- パルデシ, プラシャント (2007) 「他動性の解剖:『意図性』と『受影性』を超えて」角田三枝 他(編)。
- Hopper, Paul J. & Sandra A. Thompson (1980) Transitivity in grammar and discourse. Language 56: 251-299.
- Tsunoda, Tasaku (1999) Transitivity and intransitivity. Journal of Asian and African Studies 57: 1-9. Tokyo: ICLAA, Tokyo University of Foreign Studies.
関連項目
他動詞
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/09 02:25 UTC 版)
他動詞には基本的に目的語と主語を表す接尾辞がつく。以下はその一覧であるが、斜線で区切られている2通りのうち左側は強勢なし、右側は強勢ありの場合の形であり、また目的語接尾辞の一人称単数形は唇音(p、p̓、m、m̓)の前で -c(é)l-、それ以外の場合は -c(é)m- となる。 他動詞に付加される接辞目的語主語単数複数単数複数一人称包含-cm-, -cl- / -cém-, -cél- -l- / -él- 一人称包含-n / -én (受動形と同形となる。後述) 除外+ 不変化詞 k°əx°(接尾辞の付加はなし) 除外+ 不変化詞 k°əx° 二人称-c- / -cí- -lm- / -úlm- 二人称-x / -éx -p / -ép 三人称接尾辞の付加なし 三人称-s / -és- 直説法の場合、他動詞には「動詞本体 + 他動詞化接尾辞(-t-、-nt、-st- のいずれか) + 目的格接尾辞 + 主格接尾辞」という構造となる傾向が見られる。他動詞には語幹に強勢が置かれるタイプのもの(例: pic̓- 〈搾る〉)と接尾辞に強勢が置かれるタイプのもの(例: lx̌- 〈告げ口する〉)とが存在し、以下はその2つの活用表である。一人称複数が二人称要素と共起する場合は必ず除外を表すという点、またカニム湖方言、アルカリ湖方言、シュガーケーン居留地方言では一人称単数が絡むもののうち一部に子音重複が見られるという点にも留意されたい。 pic̓- の活用(直説法 (能動))目的格一人称二人称三人称単数複数単数複数包含除外主語一人称単数- píc̓-n-c-n píc̓-nt-lm-n pípc̓-n 複数包含- píc̓-nt-m 除外píc̓-n-c-t píc̓-nt-lm-t píc̓-nt-m k°əx° 二人称単数pípc̓-n-cm-x - 未検証 - píc̓-n-x 複数pípc̓-n-cl-p 未検証 píc̓-nt-p 三人称pípc̓-n-cm-s píc̓-nt-l-s píc̓-n-s k°əx° píc̓-n-c-s píc̓-nt-lm-s píc̓-n-s lx̌- の活用(直説法 (能動))目的格一人称二人称三人称単数複数単数複数包含除外主格一人称単数- lx̌-n-cí-n lx̌-nt-úlm-n lx̌-ntétn 複数包含- lx̌-nt-ém 除外lx̌-n-cí-t lx̌-nt-úlm-t 未検証 二人称単数lx̌-n-cécm-x - 未検証 - lx̌-nt-éx 複数lx̌-n-cécl-p 未検証 lx̌-nt-ép 三人称lx̌-n-cécm-s lx̌-nt-él-s 未検証 lx̌-n-cí-s lx̌-nt-úlm-s lx̌-nt-és また、受動形の構成は「語幹 + 他動詞化接尾辞 + 目的格接尾辞 + -m/-ém または -t/-ét」であるが、実はこれは直説法(能動)において一人称複数を主格とする形(上の2つの活用表のうち赤背景で示されたもの)と同じ構造である。つまり、シュスワプ語においてはたとえば lx̌-n-cí-t という形の動詞は〈私たちがあなたのことを告げ口する〉と〈あなたは告げ口される〉の2通りに解釈され得る。Kuipers (1974:48) に記載があるもののうち、二人称や三人称を主格とするものは上の直説法(能動)の活用表に示した通りであるが、一人称を主格とするものは未紹介であるため、以下に掲載することとする。 一人称:単数: pípc̓-n-cl-m; lx̌-n-cécl-m 複数:包含: píc̓-nt-l-t; lx̌-nt-él-t 除外: lx̌-nt-ém k°əx° なお、動詞に再帰(英: reflexive)や相互(英: reciprocal)の意味を持たせる場合には、他動詞化接尾辞の直後にそれぞれ -cút 〈自分自身を〉、-wéx° 〈お互いを〉という接尾辞をつなげるが、いずれの場合も強勢は必ずその接尾辞に置かれることとなり、また全体の活用も自動詞のパターンと同様となる。
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他動詞
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名詞
下位語
関連語
翻訳
- アイスランド語: áhrifssögn (is) 女性
- アラビア語: فِعْل مُتَعَدٍّ (ar) 男性
- アルメニア語: անցողական բայ (hy)
- ウェールズ語: berf anghyflawn (cy) 女性
- ヴォラピュク: värb loveädik (vo)
- ウクライナ語: перехідне́ дієсло́во (uk) 中性
- 英語: transitive verb (en)
- エスペラント: transitiva verbo (eo)
- オランダ語: overgankelijk werkwoord (nl) 中性, transitief werkwoord (nl) 中性
- ギリシア語: μεταβατικό ρήμα (el) 中性
- ザザキ語: fiilo ravêrdın (zza)
- スウェーデン語: transitivt verb (sv) 中性
- スペイン語: verbo transitivo (es) 男性
- セルビア・クロアチア語:прелазни глагол (sh)/prelazni glagol (sh) 男性, пријелазни глагол (sh)/prijelazni glagol (sh) 男性
- タイ語: สกรรมกริยา (th)
- タガログ語: pandiwang palipat (tl)
- デンマーク語: transitivt verbum (da) 中性
- ドイツ語: transitives Verb (de) 中性, transitives Verbum (de), Transitivverb (de), Transitivum (de), Transitiv (de)
- トルコ語: geçişli fiil (tr), geçişli eylem (tr)
- ノヴィアル: transitiv verbe (nov)
- ノルマン語: vèrbe transitif (nrf) 男性
- ハンガリー語: tárgyas ige (hu)
- フィンランド語: transitiivinen verbi (fi), transitiiviverbi (fi)
- フランス語: verbe transitif (fr) 男性
- ブルガリア語: пре́хо́ден глаго́л (bg) 男性
- ブルトン語: verb tre (br) 男性
- ベトナム語: ngoại động từ (vi)
- ベラルーシ語: перахо́дны дзеясло́ў (be) 男性
- ペルシア語: فعل متعدی (fa) (fe'le mota'addi)
- ポーランド語: czasownik przechodni (pl)
- ポルトガル語: verbo transitivo (pt) 男性
- マオリ語: kupumahi whiti (mi), tūmahi whiti (mi)
- マケドニア語: преоден глагол (mk) 男性
- ラトヴィア語: pārejošs darbības vārds (lv) 男性, transitīvs verbs (lv) 男性
- リトアニア語: galininkinis veiksmažodis (lt) 男性
- ルーマニア語: verb tranzitiv (ro) 中性
- ロシア語: перехо́дный глаго́л (ru) 男性
「他動詞」の例文・使い方・用例・文例
- 他動詞
- 動詞には目的語をとらない自動詞と、目的語をとる他動詞があります。
- 他動詞の単独用法.
- 他動詞.
- 「ける」の他動詞は受身になると「かる」となる。例えば、「預ける、預かる」「授ける、授かる」
- 顔の造作を崩させる、(他動詞構文にすれば)顔の造作を崩す
- 他動詞としても自動詞としても『eat(食べる)』という動詞を使用できる
- 他動詞にする
- 頻繁(一般的)な誤りは自動詞lieのつもりで他動詞のlayを使うことである
- ほとんどの他動詞は、ドイツ語の対格を抑制する
- 直接と非直接の両方をとる他動詞
- 他動詞がもたらす文法的な関係
- 自動詞と他動詞
他動詞と同じ種類の言葉
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