地下40メートル以深を掘るリニア中央新幹線のトンネル掘削現場に近い東京都町田市の民家の庭から水と気泡がわき出てから、22日で1カ月たった。工事との因果関係はいまだ特定されず、地域には不安がくすぶる。住民らが問題視するのは、JR東海の気泡や水への対応自体にとどまらない。同社の情報公開のあり方のほか、地元自治体の姿勢も適切だろうか。(中川紘希)
◆「工事が再開したら何が起きるか…」
自宅の庭から水と気泡が噴出した女性は今月、「こちら特報部」の取材に「工事は止まっているけど再開したら何が起きるか分からない」と気をもんだ。問題が起きてから工事関係者が頻繁に来て今回の現象に関する資料を渡されているというが「数字だけ言われても分からない」と戸惑う。
10月22日、JR東海がリニア工事の地表への影響を調べるため、第1首都圏トンネル小野路工区(町田市など)で「調査掘進」をする中で、水と気泡が確認された。掘削機は土を掘りやすくするため地中で気泡剤を放出しており、関係を調べるため掘進は中止された。
JR東海の広報担当者は取材に「事象と工事の因果関係について調査している。結果を地域と関係自治体に説明する予定だ。説明の方法は現在検討している」とコメントした。
また今月13日に「周辺の地下の空洞調査の結果、空洞は確認されなかった」と発表していたが、「国土交通省の要領に基づき地下1.5メートルまでを計測した」と説明をやや後退させた。
◆大深度地下の空洞調査、国交省「把握してない」
今回の問題を受け、市民団体「リニア中央新幹線を考える町田の会」は、JR東海に原因究明を申し入れるなど活動を活発化させている。同社の空洞調査については、地下40メートル以深の大深度トンネル工事の影響を調べるには不十分とみる。
町田の会は近隣住民と懇談するなどして地域の不安をすくい取り、JR東海との議論に生かす考えだ。河合貞子共同代表は「巨大な事業を前に、不安を抱えていても口に出せず、複雑な思いの住民は多い。丁寧に対応したい」と話した。
問題を巡り、共産党の山添拓参院議員は15日、国会内で、国交省などにヒアリングした。「JR東海が大深度地下まで空洞がないか調べたのか」との質問に、同省の担当者は「把握していない」と説明した。
JR東海は気泡が出た場所で、地表から3センチ上などの気体の酸素濃度を測定し、人体に有害な数値ではなかったとするが、「気泡そのものの測定ではなく、安全性が不透明」との意見もある。これについて環境省の担当者は「(測定の高さの)規定はない」と述べるにとどめた。傍聴した市民から「国として責任ある対応でない」「空洞のような説明だ」などと批判の声が出た。
◆「目黒川の気泡」は「掘進とは関係ない」とJR
また、市民団体「リニアから住環境を守る田園調布住民の会」の三木一彦代表によると、8月に掘削機の起点である北品川非常口(品川区)付近の目黒川で気泡が噴出していたという。三木代表は「町田市の事例と違って説明がない。隠すのか」と指摘する。
JR東海広報担当者は取材に「目黒川では(掘削機が)気泡剤を使用していない約1カ月の間にも泡が継続して発生したことなどから、掘進との間に明確な関係性は見られない」とした。
町田市などの問題へのJR東海の対応を巡り、日本大の鎌尾彰司准教授(地盤工学)は「因果関係が認められれば、再発防止策の検討が必要だ。住民には資料を配るだけでなく住民説明会を開くことが最低限度の対応ではないか。また住民の不安払拭のためにも、大深度地下から地表までの陥没の有無を調べる調査を検討すべきだ」と...
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