2025年の大阪・関西万博で、パビリオンの建設を時間外労働の上限規制の対象外にできないかという動きが出ている。施設整備が遅れている上、24年から上限規制が建設業界にも適用され、人手確保がより難しくなるとの見立てがあるようだ。しかし、上限規制は働き方改革のための重要なルール。国家的なイベントなら、例外にしても許されるというのか。(宮畑譲、山田祐一郎)
◆基本計画書を提出したのは韓国1カ国 準備に遅れ
「大阪万博、残業上限の『例外』要請」「万博工事に『残業規制を適用しないで』」
先月27日、日本国際博覧会協会(万博協会)が、24年4月から始まる建設業界への時間外労働の上限規制を万博工事に適用しないよう政府に内々で要請したと、メディアが報じた。
要請の背景にあるのが、海外パビリオンの建設の遅れだ。パビリオンには各国が自前で建てる「タイプA」、万博協会が建てた施設を単独で借りる「タイプB」、複数で借りる「タイプC」がある。
万博には参加を表明している150超の国・地域のうち、約50カ国がタイプAでの整備を予定している。自前での建設には大阪市から「仮設建築物許可」を得る必要がある。
開幕の25年4月まで1年半余りなのに、許可の前段階である基本計画書を提出したのは韓国1カ国。それもつい最近の先月28日付だった。
各国が趣向を凝らす「タイプA」はデザインが複雑。資材高騰の中で、建設業者との工事契約締結が難航している。さらに懸念されているのが人手不足だ。
働き方改革のための改正労働基準法に基づき、24年4月から建設現場では、原則月45時間、年360時間を超える残業はできなくなる。工期が短い中、1人の作業員が働く時間が限られては建設に支障をきたすので、上限規制を外してくれ、という案が出てきたようだ。
◆万博協会「例外扱い要請の事実はない」が話には上がった
しかしながら、働き方改革に逆行するアイデアのため、メディアやネット上では批判の声が噴出した。
そのせいか、万博協会は「火消し」に躍起だ。2日、「こちら特報部」の取材に対し、「(残業上限の例外を)要請した事実はない」と答えた。一方で「さまざまな課題を洗い直す中で話には上がった」という。
西村康稔経済産業相も先月28日の会見で同様の説明をしている。世論を様子見しているのか、歯切れが悪い。
一方、改正労働基準法を所管する加藤勝信厚生労働相は同日の会見で「働く方の健康確保の観点から、上限規制を円滑に施行することが重要」と述べた。
同法には、災害時などに上限規制の適用を除外する例外規定がある。しかし、加藤氏は「単なる業務の繁忙については認められない」との見解を示した。厚労省の担当者も「万博の工事を例外とするには、法改正もしくは特例法が必要だろう」と話す。
◆発注代行、万博保険…なりふり構わぬ政府と万博協会
この騒動は国や万博協会が切羽詰まって浮足立っている表れにみえる。会場整備を巡り、他にもなりふり構わないような施策が見え隠れする。
協会は先月、タイプAを予定する国に、工事の発注代行という支援策を提案した。協会が発注者となってプレハブ施設を造り、希望する国に建て売りする案も検討しているという。
経産省は2日、省内会議を開催。パビリオン建設を促すため、国内建設業者を対象に「万博貿易保険」の創設を決めた。発注元の参加国から工事代が支払われない際、保険で穴埋めするという。
◆そもそも建設業界は「猶予期間」中
実は、建設業は既に特別扱いされている。上限規制を定めた改正労働基準法は19年に施行されたが、建設業や運送・物流業には24年4月まで5年間の猶予期間が与えられたのだ。
これらの業界では、施工主や荷主から工期や運送時間をできるだけ短くするよう求め...
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