G7広島サミットへの期待と歓迎が高まる中、開催に反対したり不安を抱いたりする声が上がっている。軍拡の中で被爆地を政治利用する違和感や、開催後も平和に近づかないサミットへの失望だ。対中ロ包囲網やグローバル化の旗振り役に、過度な期待を抱けないという見方も。開幕直前の異論に耳を傾けた。(岸本拓也、西田直晃)
◆広島から軍拡の発信をしてほしくない
「G7前に日米首脳会談を行って、事実上の軍事同盟を強化することは、核廃絶や戦争廃絶とは方向が違い、広島の心を踏みにじるものだ」
18日、日米首脳会談会場のホテルがある、爆心地近くの広島市中心街。市民団体などが街頭演説し、サミットを前に日米同盟強化を確認する会談の開催に抗議した。
広島市では13日も、サミット自体に反対する集会が開かれた。市民団体「ピースリンク広島・呉・岩国」世話人の新田秀樹さん(59)は、周辺に米軍岩国基地や自衛隊呉基地、アジア最大級の弾薬庫といった軍事施設がひしめくことを指摘し、「さまざまな基地の問題があるにもかかわらず、行政が『広島から平和を発信する』と偽善的なことを語っている」と強調した。
「こちら特報部」があらためて尋ねると、「岸田(文雄)首相は核廃絶の機運を高めると言っているが、現実には日米同盟の強化や北大西洋条約機構(NATO)諸国との連携、つまり軍事強化が主要なテーマ。広島から軍拡の発信をしてほしくない」と説明した。
◆核廃絶 核保有国は本気なのか
集会では、被爆者で、韓国などの「在外被爆者」を支援してきた豊永恵三郎さん(87)=広島市安芸区=も講演。「日本政府は長く在外被爆者を放置してきた。日本は唯一の被爆国というが、いろんな国の人が被爆している。唯一で強調する必要はない」と話し、ウラン採掘者や原発従事者などを含めたヒバクシャの支援も説いた。
豊永さんは取材に「サミット開催には絶対反対というわけではない」と話す。ただ、「本気になって将来の核廃絶とか、核を少なくするとか、共同宣言に入れてくれなければ、広島でサミットを開く意味はない。でも核保有国の首脳たちがそれを支持するだろうか。(米大統領だった)オバマさんが広島に来たときには謝罪しなかった。今回もかなり不安だ」と漏らした。
核を保有する米英仏が参加するサミットで、岸田首相が掲げる「核兵器のない世界」がどこまで議論されるかも不透明だ。集会で、富山大の小倉利丸名誉教授(現代資本主義論)は「G7の各国に核を放棄するつもりがないのに、来日を歓迎するスタンスはおかしい。被爆地である広島と核廃絶は切り離せず、今回のサミットはふさわしくない。被爆地が核を肯定し、軍備増強を加速させるきっかけにもなり得てしまう」と懸念を示した。
14日には、原爆ドーム前からサミット反対を訴えるデモも。参加した被爆二世の西岡由紀夫さん(67)は「国際平和都市広島」のイメージだけが政治利用されかねないことを危ぶむ。「オバマ大統領が広島に来たとき、被爆者を抱擁し、米国を許すような雰囲気の写真が世界中にばらまかれた。米国のイメージづくりに利用され、実際の核廃絶につながっていかなかった」
◆G7は対ロシア戦争の参戦国会議
サミットの主会場となるグランドプリンスホテル広島がある宇品地区はかつて旧日本陸軍の施設が集まり、中国大陸や南太平洋に兵士を送り出した出兵拠点だった。西岡さんは訴える。
「母は被爆者で、父は宇品から中国へ出兵した。原爆の被害と、...
残り 1432/2864 文字
この記事は会員限定です。
- 有料会員に登録すると
- 会員向け記事が読み放題
- 記事にコメントが書ける
- 紙面ビューアーが読める(プレミアム会員)
※宅配(紙)をご購読されている方は、お得な宅配プレミアムプラン(紙の購読料+300円)がオススメです。
カテゴリーをフォローする
おすすめ情報
コメントを書く
有料デジタル会員に登録してコメントを書く。(既に会員の方)ログインする。