世論を分断した「国葬」 衆院報告書はわずか3ページ 検証結果を検証してみると…

2022年12月21日 06時00分 有料会員限定記事
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安倍晋三元首相の国葬で追悼の辞を述べる岸田首相=9月27日、東京都千代田区の日本武道館で(浅井慶撮影)

 安倍晋三元首相の国葬について、衆院各会派協議会がまとめた検証結果。国論を二分した儀式に、国権の最高機関が出した正式な報告書はわずか3ページだった。政府の有識者ヒアリングの結果も年内にも公表される見通しだが、こんな調子で国民の疑問は解消されるのか。報告書全文を読み、検証した。(特別報道部・大杉はるか、西田直晃)

◆会議は非公開、誰の発言か分からず

 協議会は衆院議院運営委員会のもとに設置された。山口俊一委員長(自民)のほか、丹羽秀樹(同)、吉川元(立憲民主)、中司宏(日本維新の会)、岡本三成(公明)、浅野哲(国民民主)、塩川鉄也(共産)の議運メンバー6会派の6人で構成。「率直な意見が出しあえるように」と、非公開で行われた。
 
 会派の推薦で選ばれた有識者計6人にヒアリングを実施。麗沢大の川上和久教授(政治心理学)、東京工業大の西田亮介准教授(社会学)、中央大の宮間純一教授(日本近代史)、九州大の南野森教授(憲法)、早稲田大の長谷部恭男教授(同)、関西学院大大学院の井上武史教授(同)が意見を述べた。
 「概要報告」の名で、10日に細田博之衆院議長に提出された報告書は冒頭、「国葬儀は、国民の間で共通認識が醸成されていない状況にあった。結果、世論の分断が招かれた」と書いている。岸田文雄首相の決定が分断を招いたわけではないと言いたいかのようだが、具体的な説明はない。
 続いて、法的根拠に関する有識者の聴取内容を列記。「行政権の裁量として行うことが直ちに違憲・違法であるとは言えない」「内閣府設置法が、国葬儀を行うことを内閣限りで決定できる根拠になるものではない」といった意見が書かれているが、肝心の誰の発言かの記載がない。
 各会派の「閣議決定に問題はなかった」「国民主権や政教分離原則などとの関係で違憲」といった意見も紹介されているが、これもどの議員か分からない。非公開とした理由を与党議員は「国葬が批判の対象になったから」と説明。野党議員は「政府の検証会議も非公開だから合わせたのでは」と語る。

◆「政治利用」の指摘 掲載されず

 そもそも全5回の会合の議論を、たった3ページに要約するのは困難。有識者からは「内閣のみの判断は恣意しい的になるリスクがある」「政治利用される可能性がある」といった発言があり、議員からも「国葬は後継首相の政治的立場を正当化するのでは」などの意見があったというが、報告書では省かれた。文章は国葬の是非や経費の問題には踏み込まず、そのまま「国会の関与が必要」との一致点に集約されていく。
 なぜ、こうなったのか。与野党の出席者は、国葬の賛否を巡って会派間の開きが大きく「最初から各論併記しかなかった」と口をそろえる。与党議員は「政府の行為を否定できないから、事前に両論併記で擦り合わせた」と明かす。

◆「首相の行為を正当化するアリバイ作り」

 有識者として「国葬は開催すべきではない」と主張した宮間教授は取材に「政府内で1961年から国葬の制度化が検討されたが、決着がつかないうちに吉田茂首相が亡くなり、67年に国葬が強行された。その後、政府は国葬を選択しなくなったが、今回突然蒸し返された」と指摘する。そうした意見も報告書には反映されていない。
 「首相の行為を正当化するために意見を聞いて、アリバイにしたという印象を受ける」
 
 衆院の検証報告に続いて、政府も年内にも有識者ヒアリングの結果を公表する。ただ、松野博一官房長官は今月12日の記者会見で、「国会との関係など手順に関する一定のルールを設けることを目指す」と表明。ここでも国葬自体の是非より、国会の関与のあり方に焦点が当たっている。
 ちなみに政府の有識者約20人へのヒアリングも非公開で行われた。衆院は聴取した有識者の名前は調査中から出していたが、政府はそれも伏せている。内閣官房の担当者は「結果を公表する際、整理した論点とともに、専門家の名前を一応示す」と説明。衆院の報告書と同様に、誰が何を発言したか明かされない可能性がありそうだ。

◆立法府の責任果たしたのか

 もう一つ気がかりなのは、安倍氏の国葬で政府が参考にした「故吉田茂国葬儀記録」(内閣総理大臣官房編)のような公式記録。吉田氏の場合は準備や当日の様子を290ページ近くにわたって伝えているが、当時の新聞各紙が報じた冷めた世論などは記述がない。安倍氏のものも作れば、今後国葬をする場合の引き継ぎ資料にもなる。内閣官房の担当者は「現時点では結論は出ていないが、(記録は)その都度、その都度に作る性質のものなので、可能性はある」とする。
 こうした文書に先駆けて作られた今回の衆院報告書は、国葬の検証として妥当なものだったのか。
 明治大の西川伸一教授(政治学)は「国民の一番知りたい点は、国葬へ至る手続きと国費投入の妥当性。その点を検証することで与野党で合意が得られなかったとすれば、衆院の報告は説明責任を果たしていないアリバイ作りだったことになる。立法府の責任を果たしたのか極めて疑問。憲法の国政調査権を持ち出すまでもなく、行政府をチェックすることが国...

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