路上で暮らすなど、生活に困窮する人たちに無料で画材を貸し出し、自由に絵を描いてもらう施設が、東京都板橋区の住宅街にオープンした。複雑な事情を抱えて語れぬことが多くても絵筆の先には「生き方が浮かぶ」のだという。貧困の現状を伝え、偏見をなくすきっかけにするため、ここで生まれた作品を紹介する展覧会の計画も進められている。(長竹祐子)
◆段ボールに囲まれた帽子に涙を描く
東武東上線大山駅から歩いて6分ほど。アーティストの尾曽越 理恵さん(71)=埼玉県和光市=が主宰する「アートスタジオ大山」は絵画やイラスト、立体作品まで美術表現がしたいのなら年齢制限なしで誰でも使えるアトリエ空間。1日あたりの利用料は1000円で、生活困窮者には無料で貸し出している。絵を描く場所ではあるが「お茶を飲みにくるだけでもいいから誰でも気軽に利用してほしい」と尾曽越さんは話す。
現在は路上生活の体験者や生活保護の利用者、心の病気を患った人らが通っている。
「これが一番の楽しみだよね」。赤や黄色の色鮮やかな絵の具で、浮世絵を模写した長沼鉄男さん(81)が話した。生活保護を利用しながら、週に数回のペースで利用しているという。
黙々とキャンバスに向き合っていた路上太郎さん(自称・50代)は「コンクリートの上で寝て、体温が奪われた。動けなくてどうしようもなかった」と、ホームレス時代を振り返る。段ボールに囲まれた帽子に涙を描いた作品は、つらかった当時の体験を重ねたものだ。
◆「貧困」への先入観をなくすきっかけに
日米を...
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