研究所の業務の一部をご紹介します。各年度の活動を網羅的に記載する『年報』や、研究所の組織や年次計画にもとづいた研究活動を視覚的にわかりやすくお知らせする『概要』、そしてさまざまな研究活動と関連するニュースの中から、速報性と公共性の高い情報を記事にしてお知らせする『TOBUNKEN NEWS (東文研ニュース)』と合わせてご覧いだければ幸いです。なおタイトルの下線は、それぞれの部のイメージカラーを表しています。

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国際研修「紙の保存と修復」2024の開催

名古屋城見学の様子
講義「紙の基礎」にて紙サンプルを観察する様子

 令和6年(2024)年8月26日~9月13日にかけて、国際研修「紙の保存と修復」を開催しました。本研修は平成4(1992)年よりICCROM(文化財保存修復研究国際センター)と東京文化財研究所が共催しています。参加者はこの3週間の研修で、紙文化財が日本においてどのように保存されてきたかを体系的に学びます。日本の修復技術やその文化的背景を伝えることで、さまざまな地域の文化財保存へと役立ててもらうことが、本研修の目的です。本年は60カ国165名の応募者のうちから、アルメニア、カナダ、ドイツ、イタリア、マルタ、メキシコ、オランダ、スイス、英国、アメリカ合衆国の各国、計10名の専門家を招きました。
 研修は講義、実習、スタディツアーから成ります。講義では、日本の文化財保護制度や、和紙の特性、そして小麦でんぷん糊や刷毛といった伝統的な道具材料について扱いました。
 実習では、国の選定保存技術「装潢修理技術」保持認定団体の技術者を講師に迎え、巻子を仕立てる作業を通じて、日本で行われている修復作業を学びました。
 第2週目は中部・近畿地方を巡るスタディツアーを行いました。まず名古屋城を訪れ、伝統的な建物内における屏風や襖の使われ方を学びました。続いて美濃市では、国の重要無形文化財である本美濃紙の製造工程を見学しました。さらに京都市では、江戸時代から続く伝統的な修復工房を見学しました。
 最終週には、巻子だけでなく、屏風や掛け軸の構造や取り扱い方法についても実習しました。
 研修後のアンケート結果によれば、参加者の多くが、修復材料として和紙を使用する方法への理解をさらに深めたようです。各自が帰国後、本研修で得た技術や知識が周囲にも広まり、応用され、それによって諸外国の文化財がよりよく保護されていくことを願っています。

国際研修「ラテンアメリカにおける紙の保存と修復」2022の開催

実習風景

 『国際研修「ラテンアメリカにおける紙の保存と修復」』は、平成24(2012)年度よりICCROM(文化財保存修復研究国際センター)とCNCPC-INAH(国立人類学歴史機構 国立文化遺産保存修復調整機関、メキシコシティ)との3者共催でCNCPCにて実施しています。令和4(2022)年度は11月9日から22日にかけて、アルゼンチン、ウルグアイ、コロンビア、スペイン、チリ、ブラジル、ペルー、メキシコの8カ国から計9名の文化財保存修復専門家を研修生として迎え、開催しました。
 東京文化財研究所が前半の5日間(9日から14日)を、後半の5日間(16日から22日)はCNCPCが担当しました。日本の紙保存技術の基礎をテーマとした前半では、技術の保護制度に関する解説から始まり、道具材料など材料学、国の選定保存技術「装潢修理技術」の基本的な情報までを講義形式でまず紹介しました。また、これに続く実習では、装潢修理技術のうち海外文化財にも適応性が高い技術や知識を、裏打ちなどの作業を通して伝えました。後半はラテンアメリカにおける和紙の応用をテーマとして、材料の選定方法から洋紙修復へのアプローチ手法までを、メキシコやスペインの専門家らが教授しました。
 新型コロナウイルス感染症の拡大以降初の対面開催でしたが、参加者の協力のもと基本的な感染対策を徹底し、無事に研修を終えることができました。本研修を通じて参加者が日本の伝統技術のエッセンスを掴み、自国の文化財保護へと役立てていくことを期待しています。

国際研修「紙の保存と修復」評価セミナー2022の開催

シンポジウムの様子

 東京文化財研究所とICCROM(文化財保存修復研究国際センター)は、平成4(1992)年度より国際研修「紙の保存と修復」(JPC)を共催しています。各国の文化財保護への和紙のさらなる活用をめざし、海外より専門家を招いて、和紙の製造工程から修復技術までを体系的に学ぶ機会を提供してきました。
 本年度は、9月5、6、7、12日の全4日間にわたりオンラインで評価セミナーを開催しました。修了生から発表を募り、JPCで学んだ知識や技術の活用実態を把握しました。このような振り返りは、本事業としては2回目となります。
 発表では、裏打ち技術を使っての建築関係資料の修復や、和紙の手漉きから着想を得たイランやマレーシアでの紙漉きワークショップなど、JPCを端緒として各国の事情に合わせた研究や応用が進んでいることがうかがえました。また、講師の指導や日本の工房見学を通じて欧米とは異なる文化財修復へのアプローチに触れ、自身の修復作業に対する考え方や姿勢に影響があったとの報告もありました。研修内容のみならず、JPCのコンセプトや、実践に重きを置いた技術移転のカリキュラムや教授法なども高く評価されており、その後の学生指導や工房での後人育成に方法論の面でも貢献していることがわかりました。最終日のシンポジウムでは、発表内容を確認したほか、和紙や道具の流通をめぐる問題点を共有しました。
 修了生にとってJPCは文化財の保存修復に関わる者としての人生を変える経験だったと総括することができ、当研究所が今後も本研修を継続していくことの意義を再認識させられました。

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