世界遺産研究協議会「世界遺産の柔らかい輪郭」の開催
文化遺産国際協力センターでは、平成28(2016)年度から世界遺産制度に関する国内向けの情報発信や意見交換を目的とした「世界遺産研究協議会」を開催しています。令和6(2024)年度は「世界遺産の柔らかい輪郭-バッファゾーンとワイダーセッティング-」と題し、資産の適切な保護を目的としてその外側に設定される周縁部に焦点を当てました。今回は、令和6(2024)年11月25日に東京文化財研究所で対面開催し、全国から地方公共団体の担当者ら84名が参加しました。
冒頭、文化遺産国際協力センター国際情報研究室長・金井健からの開催趣旨説明に続き、鈴木地平氏(文化庁)が「世界遺産の最新動向」と題して、今年7月にニューデリーで開催された第46回世界遺産委員会における議論や決議等について報告を行いました。その後、松田陽氏(東京大学)が「世界遺産の周縁における遺産概念の広がり」、文化遺産国際協力センターアソシエイトフェロー・松浦一之介が「イタリアのバッファゾーンとワイダーセッティング-景観保護法制に基づく遺産価値の広がり-」と題した講演を、続いて佐藤嘉広氏(岩手大学)が「『平泉』のバッファゾーンとワイダーセッティング」、木戸雅寿氏(滋賀県)が「彦根城世界遺産登録としてのバッファゾーンとワイダーセッティング」、正田実知彦氏(福岡県)が「HIAにおけるワイダーセッティングの捉え方-宗像・沖ノ島の事例とWHSMFの講義から-」と題した事例報告を行いました。その後、登壇者全員が世界遺産の価値(OUV)のあり方、世界遺産の保護を支える日本国内の制度的課題、さらには世界遺産制度の将来像について意見交換を行いました。
これらの講演、事例報告、意見交換をつうじて、近年導入されたワイダーセッティングは明確に定義することが難しいものの、有形・無形の二つの側面からアプローチが可能なことや保護と活用を両輪とする枠組みで捉えることが可能なことなどが浮き彫りになりました。また、このような資産周縁の管理そのものが現在の国内の法制度では非常に難しいという課題も再確認できました。こうしたテーマも含め、当研究所では引き続き文化遺産保護に関する国際的な制度研究に取り組んでいきたいと思います。