子どもの誕生や成長をきっかけに、改めて「住まい」と向き合う人は少なくありません。しかし、「賃貸か持ち家か」「マンションか戸建てか」「引越しの時期はいつか」など考えるべき点は多岐にわたり、思うように考えがまとまらない人も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は今まさに「住まい」についての疑問や悩みをお持ちの都内で働くお母さん二人にお集まりいただき、これまでSUUMOカウンターにて、数百人以上の住まい相談に乗ってきたアドバイザーにお話を伺う座談会を開催。今のところ「賃貸派」と口をそろえるお二人に、率直な疑問をぶつけていただきました。
<<参加者プロフィール>>
<<アドバイザー プロフィール>>
家を「買うべき人」「買わなくてもいい人」
―― 住まいについて考える上で、「持ち家か賃貸か」というのは非常に大きなテーマの一つです。お二人とも今のところ「賃貸派」と伺っていますが、改めてその理由を教えていただけますか。
桜口:実は、以前お金の勉強をしたときに「持ち家は負債だ」と習ったことがあるんです(笑)。固定資産税などがかかり続けるので、完全に自分のものとは言えないと。だから、これまであまり持ち家については考えたことがなくて。
ただ、2017年に東京に来てから、周りに家を買っている人が増えたんです。なかには、売るときに儲けを出している人もいたりとかして、地方と東京では事情が違うのかもしれないと。最近ようやく「持ち家」に興味を持ち始めました。
馬場:確かに地域により、住まいへの考え方は大きく変わると思います。ただ、みんながみんな買う必要がないのも事実です。基本的には、将来、実家を引き継ぐ予定のある人と、老後に使えるキャッシュが十分にあるであろう人は、ことさら家の購入を考える必要はないと思います。
桜口:え、なんとなくキャッシュがある人こそ家を買うイメージがありました。
馬場:手元にキャッシュがあれば、老後も家賃の心配がなく住居費を払い続けることもできますよね。一方で、まとまったキャッシュを用意するのが難しく、実家も持ち家でないという方は、老後の安心のために早いうちに家を買っておく選択をする方も多いですよ。
ご自身や夫がいつまで働き続けるかにもよってくるので、一度自分は年金が何歳からもらえるのか、退職のタイミングはいつになりそうかなど、現時点での人生計画を考えてみるのが良いかもしれません。
―― はせさんの場合は、ご夫婦で長男長女でいらっしゃり、ご実家が沖縄と横浜におありです。将来的にご実家に住むという選択肢もあるのかなと思うのですが、同じく今のところ「賃貸派」なんですね。
はせ:そうですね。実家の築年数を考えても、そのまま住むという可能性は低いと思いますし、やっぱり私の場合は「身軽さ」を重視したいところがあって。例えば、もし家を買ったあとにご近所トラブルがあったり、子どもが虐められてしまったりしたらどうしようと……。
馬場:確かに、「持ち家にすると動けない」というイメージはありますよね。ただ、仮に買うとなっても「ここに一生根を張る!」と思う必要はないと思います。マンションでも戸建てでも、物件次第で売りに出したり、貸し出したりすることは、今や選択肢として普通になっています。
また、これは個人的な体験談なんですが、私の知り合いでお子さんが不登校になってしまった方がいらっしゃったんですけど、そのときは転居せず近隣の小学校に転校させていましたね。必ずしも引越しせずとも、問題を解決できる手段はあるのではないかと思います。
はせ:なるほど! どうしても買うとなると、そこから一切動けなくなるというイメージがあったので視野が広がりました。
馬場:ちなみにいずれ売却することを念頭に置くなら、同じ家族構成の多いエリアで買うことが大事です。それだけ需要が多いということなので。
はせ・桜口:頭に入れておきます……!
保険として家を買うという選択肢
―― お二人とも、周りに家を購入される方が増えてきているんですね。
はせ:そうなんですよ。ただ、私の場合、家のことは「考えなくちゃ」と思いつつ、ズルズルと先延ばしにしてきてしまったので、皆さんどういったタイミングやきっかけで本格的に「購入」を考え始めているのかなと、とても気になっています。
馬場:人によりけりですが、やはり「年齢」を気にされる方が多いでしょうか。住宅ローンを借りるときの最長は35年ですので、定年退職までの年数を逆算して「組めるうちに」と駆け込みでいらっしゃる方もいます。あとは団信の問題もありますね。
はせ:団信、ですか?
馬場:住宅を買う人のほぼ全員が入る「団体信用生命保険」という保険があるんですけど、これはローンを払い終えるまでに被保険者が亡くなったり高度障害が発生したりしたとき、残額が免除になるという仕組み。
ただ、あくまで保険なので健康な人しか入れません。年齢が上がってくると、自然と健康診断で何かしら引っかかることが増えてきますから、団信の審査に落ちる可能性も上がってしまうんです。
はせ・桜口:そうなんですか……!
馬場:以前私が住宅購入の相談に乗っていたお客様のなかには、組めるローンはあるけど団信の審査に落ちて購入を諦めた方がいらっしゃいました。それくらい団信に入れるかどうかって大きいんです。
逆に言えば、保険の意味で家を買うのもアリだと私は思います。名義人に何かあったらローンは免除になって家は残るので。不測の事態が起きたときに、団信という保障を利用できるという考え方も良いのかなと思います。
はせ:ローンを組めるときに組む、団信に入れるうちに入る、という発想は全くありませんでした…。周りの人たちがバタバタっと家を買い始めたのは、そういった事情を考えてのことだったんですね。
―― ちなみにお子さんの年齢で言うと、一般的に小学校入学前と言われますが、実際のところどうでしょうか?
馬場:ここ数年の傾向としては「保育園入園前」もかなり増えてきました。共働き世帯が増えて、保育園に入園できるか、入れたとしても自宅から通いやすいかどうかが、その後の人生において重要なポイントになっているからだと思います。
桜口:そうですよね。私、東京に引越してきてすぐのころ、下の子と上二人が別々の保育園になってしまって、送迎がめちゃくちゃ大変でした……。保育園と自宅は近いに越したことはないですね。
盲点となりがちな日常の小さなストレス
―― 仮に家を買うとしても、マンション派か、戸建て派かでも分かれそうですよね。
馬場:利便性を優先して駅近のマンションにするのか、ゆったりとした間取りを求めて少し離れた場所で戸建てにするのか、あくまでその方の好みですね。
ただ、家族が5人以上になると、マンションでは理想の間取りの物件がなかなか見つからず戸建てにするというケースは多いです。一般的に4人家族が快適に暮らすための理想の面積は90平米と言われているんですよ。
桜口:具体的な広さまでは考えたことありませんでした! 今はまだ子どもたちが小さいので三段ベッドでしのいでいますが、これから大きくなることを考えると広さが必要になりますよね。
―― 都心で働くご家庭にはマンションが人気の印象がありました。
馬場:意外とエリアをズラして戸建てにする方は多いんですよ。今、都内のマンションである程度の広さを求めると値段が億を超えてしまうので……。私の感覚で言えば、都心から首都圏内までに範囲を広げれば、土地代と建物代を合わせても戸建ての方が都心のマンションより買い求めやすいと思います。
はせ:共働きと言えば、都心の駅チカマンションというイメージが強かったので意外です。
馬場:もちろん、何よりも時間を節約したい!効率化したい!という人はマンションを選ぶ傾向が高いかもしれません。ただ、マンションの場合には自宅玄関から駅に着くまでの「実際にかかる時間」に注意した方がいいと思います。
大規模マンションだとエレベーターが混雑したり玄関からエントランスが遠かったり、思ったより時間がかかってしまうケースがあるんです。
はせ:オフィスのエレベーター渋滞も大嫌いなのに、自宅でもそんな目にあうのはちょっと耐えられないかも……。小さなことでも毎日となると結構大きなストレスですよね。
馬場:おっしゃる通りだと思います。もちろん、戸建ては戸建てでお掃除が大変だったり、別の苦労もあります。大切なのは、家選びの際に毎日のちょっとした快適さにも目を向けてあげることです。
桜口:ストレスで言えば、今うちが住んでいるマンションは古くて、昔の日本人の体型に合わせてつくられているから洗面台がすごく低いんです。夫なんて鏡の高さに合わせようとすると膝をついてドライヤーを使わないといけないぐらいで……(笑)。二人とも比較的身長が大きいのもあり、住まいと身体が合っていなくて、こういうのも毎日のことだと地味に嫌なんですよね。
馬場:そういう意味では、戸建ての中でも注文住宅は、建物に自分を合わせにいくんじゃなくて、自分に建物を合わせることができるんですよね。天井や洗面所の高さはもちろん、洗面所のボウルやトイレを複数つくったりとか。
桜口:うち、夫が毎朝トイレに30分こもるので羨ましい……。
はせ:うちも!(笑)
学区、通勤アクセス……エリア選びの観点
―― 最後にエリア選びについて、お話を伺えればと思います。お子さんの教育とも関連する部分かと思いますが、お二人はどのようにお考えですか?
はせ:私はまだ学区とかは考えていないんですけど、一つあるのはいろんな大人がいるエリアがいいなと思っていて。今の街にはお年寄りから学生さん、バンドマンなど多様な人がいて気に入っているんです。個性的な人がたくさんいるところで子どもを育てたい。
桜口:私も関西に住んでいたころは、そういうエリアに住んでいたのでわかります! 逆に今住んでいるところは、会社員ばかりなので、その点は少し残念です。
ただ、教育という面で言うと、品川区は学校選択制が導入されていたり、私の子どもが通っている小学校ではタブレットが一人一台配られたり、進んでいる面があるように思います。全ての公立小学校に6年生まで通える学童もあるので、他の区から引越ししてきたという方にもよく会いますよ。
うちは子どもが3人なので、私学受験がマストのエリアだと経済的に厳しい。公立の小中学校の評判も軒並みいいので、そういった面でも安心しています。
―― もともと教育のことを考えて、品川区を選ばれたんですか?
桜口:いや、たまたまですね(笑)。ほかの区のお母さんと話したりしているうちに、品川区が充実していることに気付きました。今後もし家を買うことがあっても、品川区がいいなと思うぐらい気に入っています。
―― カウンターに相談にいらっしゃる方は、エリア選びの際にどういった点を重視されるのでしょうか?
馬場:タイミングにより、「実家との距離」「保育園の数」「学区」「通勤アクセス」など、それぞれの条件の組み合わせですよね。
例えば、お子さんがまだ保育園児の方は、子育てを助けてもらえるよう実家の近くであることと、保育園の選択肢が多いことを重視される場合が多いです。その後、小学校入学前になってくると、実家との距離にあまりこだわらなくなる代わりに、通勤アクセスと学区を重視される方が多かったりとか。
人によっては将来の介護なども考慮に入れる必要もあるかもしれませんし、やはり一度人生計画を立ててみることをオススメします。夫婦間であっても、なかなかその手の話は腰が重いという方は、そのお手伝いとしてカウンターを使っていただくのももちろんありです。
―― 心強いです。本日お話をお伺いしてみて、お二人はいかがでしたか。
桜口:これまでは「持ち家=負債」とばかり考えていたのですが、毎日の快適さを考えてみると、やっぱり自分の家って魅力的かもしれないなと。団信など保険についても教えていただけたので、思わず購入を検討してしまっている自分がいます(笑)。
はせ:私もそうですね。もともと「家を買ったら動けなくなる」という強烈なイメージがあったのですが、買ってからもいろいろと選択肢があることを知ることができて、非常に勉強になりました。
―― 「持ち家なんて自分には縁がない」と考えている人こそ、調べてみると意外とイメージと違う部分が出てくるのかもしれませんね。皆さん、本日はありがとうございました!
取材・執筆:村上杏菜 撮影:小野奈那子 編集:はてな編集部