一般2022年05月10日 デジタル奮戦記(法苑196号) 法苑 執筆者:宇佐見方宏
1 私のデジタル情報とのかかわり
ここ数年のインターネット環境をはじめとするデジタル技術の発展には目を見張るものがあります。一九八〇年代以前はデジタル技術とは無縁でした。連絡手段が電話と手紙くらいしかなかった時代(もう死語ですが駅の伝言板を利用したことが懐かしく思い出されます。)に育った私には信じられません。
私とデジタル情報との関わりは、一九八〇年代個人用ワードプロセッサーが発売されたときに遡ります。今から見ると低技術のものですが、オアシスという画期的なワープロ(インクリボンを使って印刷するもので、A4一枚の印刷に数分かかりました。その割に高価で事務所から頂いていた月給と替わらなかったと記憶しています。現在であれば高機能のパソコンが買えます。)が発売されました。悪筆な私は真っ先に購入しました。届いた時誇らしく興奮したことを覚えています。パーソナルコンピュータはまだ普及しておらず「ワープロソフト」などなかった時代のことです。この時期はワープロの使い方も難なく身につけることができました。マニュアルを熟読した記憶もありません。
その後時代はパソコンへと移りました。パソコンにワープロソフトなどの組み込みが必要ですが、これも簡単に対応することができました。不便といえば最初はワープロソフトとして「オアシス」、現在は長く「一太郎」を利用しているので、現在一般的に使われている「ワード」に変換する必要があることです。これとて簡単に変換できるので問題はありません。
その後携帯電話が普及しました。電話回線もアナログ回線からデジタル回線に替わってきました(ISDN回線もありました)。データの通信も飛躍的に早くなりました。アナログ回線でインターネットに接続したときの遅さといったらいらいらするだけでした。出張先からメールを送るのに苦労した(事務所にいる「ボス弁」のいらだつ顔が今でも目に浮かびます。)ことも今は昔です。今では事務所も自宅も光回線が繋っています。外出先ではホテルだけでなく街角にも無料のWi-Fiがありとても重宝しています。
2 マニュアルが理解できなくなった
いつのまにか何かあたらしい器機を手に入れる度に、マニュアルを熟読しなくては理解できなくなりました。それだけでなく電子マニュアルなどというものが多くなって来ています。紙に文書化されたものを理解するのも大変なのに紙がない。さらに横文字が多いのです。何を意味するのか全く理解ができません。若い世代の方は理解しているようですから、単に年のせいなのでしょうか。理解する術をお持ちの方はどうかご教示ください。
このような苛立ちをとみに感じるようになったのは、数年前にスマートフォンに変えた時です。店頭で説明を受けて購入したのですがその説明に横文字が多く理解できませんでした。しばらくして「慣れれば何とかなりますよ。」という「鬼のようにやさしいことば」を掛けられ家に帰りました。やはり慣れるには相当の時間を要しました。数年経ってもまだ使いこなしているという実感は持てません。その頃からというものパソコンを替えても、新しいソフトを入れても、一発で起動することはありません。できる限り同じ会社の製品を導入することにしているのですが設定するのに苦労します。形態が少し変わっていたり、マニュアルが変わっていたりするのでしょう。かつてのパソコンよりは設定しやすくなっていることは理解していますが、今や「初期不良は当たり前」というように考えて半ば納得しています。
3 デジタル技術の利便性
しかしながら、オンラインでつながり、他者との情報の交換ができることは便利で利用者にとって大変ありがたいことです。ネットショッピングも盛んに利用されています。今では対面のみならず多人数の会議も可能となっています。一昨年からは所得税の確定申告手続もインターネットを介してできるようになりました。デジタル技術の発展がもたらした恩恵でしょう。少なくともインターネットなくして生活はなりたたないのです。高齢者デジタルディバイトなどといって済ますことはできません。
私の仕事でいえば、現在裁判所での民事の弁論準備手続もオンラインで行われています。以前は電話回線で繋ぎ手続をしていましたが、音声のみですから意思の疎通がうまくいっていたとはいえないのが実情だったと思います。それが今ではインターネット回線が繋がりパソコンのモニターで相手方の顔を見ながら手続を進めています。わざわざ遠くの裁判所に出向かなくとも支障なく手続を行うことができるのでとても利便性が高いのです。まもなく訴状の提出などもインターネットを経由して行われることになります。情報技術は、益々発展して行くことは間違いありません。それにともない利用する私たちも相応のスキルを身につけることが求められることは間違いないことです。
4 突然インターネットが断絶した
私は、十数年にわたり法科大学院で教鞭をとっています。着任当初は大学に提出する書類も、学生への連絡も原則紙ベースで行っていました。これで済みました。それが近年インターネットを介して行うようになりました。厄介さを感じましたが何とか採点表などの提出もできるようになりました。何年も時間は掛かりましたが何とか使いこなせるようになったと思います。
二〇二〇年からの新型コロナウイルスの蔓延に伴い多くの大学でインターネットを経由したオンライン授業が取り入れられるようになり、感染をおそれた私はオンラインでの授業の実施を大学に認めてもらいました。もちろん大学所定の通信アプリに接続する必要があります。そのためには採用時に付与されたIDとパスワードを入力するのですが、これらを失念していました。この問題は手間取りましたが解決しました。このようにして、オンライン授業は、二〇二〇年前期、後期と二〇二一年前期と滞りなく済ませることができました。
ところが、昨年九月二三日午前一一時半過ぎのことです。何の前触れもなく突然インターネットが断絶してしまいました(午前中は繋がっていました)。それも自宅で。これまでもパソコンに「インターネットに接続されていません」とか「断絶しました」などという表示が出たことはあります。この程度なら接続の設定を確認すればたやすく解決することができました。事故というほどのことではありません。
しかし、この日は接続設定を色々試みましたが、繋がる気配すらありません。事務所で起きたのならスタッフの協力を受けることもできたでしょう。自宅で起きると手の出しようがありません。デジタルに弱いとは認識していましたが、ここまで弱いとは思いもしませんでした。授業開始時間は差し迫ってきます。何とかしなければなりません。まずパソコンのマニュアルを調べましたが解決しません。ネットで調べようにも繋がりません。その旨大学に連絡したいのですが、生憎事務局は休日で連絡がつきません。イライラも沸点に到達していました。
その時スマホで調べることに思い至りました。スマホで検索したところ、「モデムに問題はないか モデムの電源を切り、暫くして電源を入れ直してみる。」旨の回答が出ました。しかし、自宅には複数のデジタル器機が設置されていて、どれがモデムなのか分かりません。再度検索し、モデムを見つけ電源を切り、入れ直しましたが、良い結果とはなりませんでした。
やむなく電信会社に連絡を入れたのですが、ここでもスムースに行きません。最初から電話で話をすることができないのです。スマホからのチャットでの折衝が求められました。その後担当者から電話が掛かってくるという仕組みでした(煩雑で分かりにくいと感じましたが、愚痴でしょうか。)。結果はモデムの故障で、取り替えることになりました。結論をみたのは午後一二時五〇分過ぎのことでした。翌日モデムを取り替えて貰い通信環境は復旧しました。
このトラブルのために、授業を休講にせざるを得なくなりました。受講生の皆さん、大学には多大なご迷惑を掛けてしまい、申し訳ありませんでした。この場をお借りして改めてお詫び申し上げます。
5 このトラブルで学んだこと
私は、近頃とみに技術の発展について行けないことを実感し、このことに恐怖心すらもっています。これまで、業者任せでルーター?、モデム?、ONU?という感じでした。今回の件で、どうしたらデジタルに強くなれるかについておぼろげながらヒントを?んだような気がしています。言い尽くされていることですが、できるだけデジタルに興味関心を持つことが大事だということです。デジタルは分からない、人任せの態度を改めることにします。
(弁護士)
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