- 2025/01/15 掲載
PostgreSQLはなぜMySQLを上回れた? PostgreSQL 17で見えた生成AI時代のデータベース
世界トップに躍進したPostgreSQL
データベース管理システム(DBMS)の世界で、大きな変化が起きている。長年、企業システムの中核を担ってきたのはMySQLだが、この数年でPostgreSQLがトップの座に躍進、またAI時代の到来により、そのポジションをさらに強固なものにしているのだ。スタックオーバーフローが実施した開発者調査(2024年版)によると、PostgreSQLは2年連続でデータベースのトップに君臨、その利用率は51.9%に上る。これに対し、MySQLは39.4%にとどまり、両者の差は広がる一方となっている。
この数字の意味するところは大きい。わずか6年前の2018年、MySQLの利用率は59%を占めていたが、PostgreSQLは33%にすぎなかった。この劇的な逆転は、PostgreSQLの技術的優位性と時代のニーズが合致した結果といえる。
そもそもPostgreSQLとは、どのようなデータベースなのか。1986年、カリフォルニア大学バークレー校のマイケル・ストーンブレーカー氏率いる研究プロジェクトから誕生したPostgreSQLは、当初は研究や学術目的で利用される比較的ニッチなデータベースだった。
しかし、その柔軟性、拡張性、そしてACID(原子性、一貫性、分離性、永続性)原則への厳格な準拠により、次第に企業ユーザーの注目を集めることになる。アマゾンウェブサービス(AWS)、グーグル、マイクロソフトといったクラウド大手も、独自のDBMS製品を持ちながらPostgreSQLを採用。その拡張性、ネイティブSQL対応、強力なクエリエンジンが評価された。
PostgreSQLの開発は、PostgreSQL Global Development Groupというコミュニティが担っている。38年の開発期間で600人以上のコントリビューターが参加、5万件以上のコミットが行われた。2022年単年でも1万件のコミットを記録するなど、活発な開発活動が続いている。
注目すべきは、その開発サイクルだ。主要なアップデートは毎年9月頃にリリースされ、新機能の追加、パフォーマンスの改善、セキュリティ強化、バグ修正などが実施される。四半期ごとのマイナーバージョンアップでは、バグや脆弱性の修正が焦点となる。最新の主要バージョンは、2024年9月にリリースされたPostgreSQL 17だ。
AI時代のデータベース、PostgreSQLの役割
AI時代の到来により、データベースに求められる要件は大きく変化している。生成AIの基盤を支えるデータベースには、従来のリレーショナルデータベースとしての機能に加え、より高度な検索機能が必要とされている。特に、キーワード検索、全文検索、そしてAIワークロード向けのベクトル検索という3つの検索機能が重要となる。キーワード検索は、製品名や顧客情報といった構造化データを検索する最も基本的な機能。全文検索は、文書内の単語やフレーズを検索し、文書の取得や内容分析、情報検索などのタスクを可能にする。
そして、AI時代に特に重要となるのが、ベクトル検索だ。これは高次元データの類似性に基づく検索を可能にし、レコメンデーションエンジン、画像・動画検索、自然言語処理といったアプリケーションに不可欠な機能となっている。
PostgreSQLは、このAI時代の要件に応えるべく進化を続けている。注目すべきは、pgvectorというエクステンションの存在だ。このオープンソースの拡張機能により、ベクトルの保存と類似性検索を直接データベース内で実行できるようになった。ベクトル埋め込みはネイティブのデータ型として保存され、コサイン類似度やユークリッド距離などのベクトル距離メトリクスに基づく最近傍探索が可能となっている。
さらに、クラウドベンダーによるPostgreSQLの拡張も進んでいる。たとえば、グーグルのAlloyDBは、ScaNN(Scalable Approximate Nearest Neighbors)という高効率な近似最近傍検索アルゴリズムを実装。大規模なデータセットにおける類似ベクトルの検索を、高い精度を維持しながら高速化している。
このようなPostgreSQLの進化は、データベースがAIワークロードを効率的に処理する上で極めて重要な意味を持つ。そして、このような進化は、PostgreSQLのデータ型のサポートにも表れている。もともとPostgreSQLは豊富なネイティブデータ型で知られていたが、最近の追加や拡張により、より複雑なワークロードにも対応できるようになった。
PostgreSQLは、このような革新を通じて、AI時代のデータベースとしての地位を確立しつつある。伝統的な関係データベースの堅牢性を維持しながら、新しい時代の要件にも柔軟に対応する、その姿勢が高い評価につながっている。 【次ページ】PostgreSQL 17のAI開発を加速した「とある機能」とは
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