先日、湘南海岸で久しぶりにイボニシを拾いました。
イボニシとは、全国各地の海岸の波打ち際に生息する小型の巻貝で、特徴的なでこぼこの殻をもつのが特徴です。
大きくても殻長4㎝程度までの小型の貝ですが、獰猛な肉食貝で二枚貝を襲って食べるため、カキの養殖業者には嫌われているようです。
拾いました、という表現にしたのは、イボニシを「採った」というのはいささか仰々しすぎるかな、という思いがあったから。
実際のところ、砂浜でなければどこにでもいる巻貝であるイボニシ、本気で採ればものの5分で両手にいっぱい「拾う」ことが可能です。
それくらい身近な存在なのですが、これを食べる地域となるとかなり限られてくるようです。
特に好むのは伊勢湾岸を中心とした中京地区で、名古屋の柳橋中央市場では1500円/kgとそこそこの価格で売られているのを見かけました。
他には徳島、大分などで食用にする文化があるようですが、いずれも有名なものとは言えなさそうです。
その理由として、この貝が持つ独特の「辛すっぱみ」があげられます。
上記のとおり二枚貝を襲って食べる性質があるイボニシですが、捕食の際に鰓下腺というところから神経毒と酸を分泌して餌を衰弱させます。
この毒と酸の味が人間の舌にも強い刺激として感じられ、敬遠されるのでしょう。
ですが、海岸線の長いニッポンには、この刺激を佳味として珍重する地域がありました。
そしてそれは意外にも首都圏からご近所のあの街。
ニシ汁(逗子ver.)を作って食べてみた
三浦半島西岸、鎌倉と葉山に挟まれ、披露山など数々の超高級住宅街で知られる逗子。
しかし、もともとは風よけの山に囲まれたポケットビーチのある天然の良港で、小坪など漁師町の趣もしっかりと残されています。
ここでは昔から、イボニシを使った「ニシ汁」という料理が食べられてきたといいます。
出典となるのは、釣魚料理図鑑2 もっと食べたい!追求編 (西潟正人著、エンターブレイン)。
かつてウェブサイト「釣り曜日」で連載されていた「西潟市場」というコンテンツを書籍化したものですが、このページで紹介されているのを見て以来、ずっと試してみたいと思っていたレシピです。
ニシ汁自体は他の地域にも存在し、とくに愛知県篠島のものは某番組でTOKIOの長瀬君が食べたこともあってよく知られているようですが、逗子のものはそれらとは一線を画すレシピとなっています。
さっそく作っていきましょう。
イボニシはよく洗って表面の砂や汚れを落とします。
これを金づちやペンチで
荒く砕きます。
非常に移動能力の高いイボニシは脚の筋肉が発達しており、殻を砕くとグリンと動いてビビりますが、動くくらいが砕き方の目安。
潰しすぎないように気をつけましょう。
ボウルにフィットするザルを乗せ、そこに砕いたイボニシを入れてミネラルウォーターを注ぎます。
ぐるぐるとかき混ぜ、5分ほど放置します。
その間に味噌を焼き、
ごまをすって味噌と練り合わせておきます。
イボニシエキス(と毒)が出た水を、
沈殿物に注意しながら先ほどの味噌に注ぎ、味噌を溶いていきます。
これで完成。
作っている最中に紫がかってきますが、これは有効成分がうまく析出できたということなのでOKです。(酸化すると紫に変色する)
ご飯を炊き、少量を茶碗に盛ってニシ汁をバシャっとぶっかけて食べるのが流儀とのこと。
いただきマース
……(・~・)
うん、初めちょっと磯臭さと生臭さがあるけど、不思議な清涼感のある風味があって、旨味もそれなりにあって……美味s
Σ(◎*◎;)うわっ辛いの来た!
ホースラディッシュと一味唐辛子を混ぜたような、純粋な刺激としての辛みだ!
しかもこれ、舌の上よりも喉に来るぞ……たまたまできてた口内炎も直撃だ!
最初はピリピリ、やがてヒリヒリしてくる刺激は、デスソースを爪楊枝の先に付けて下に乗せたときの「あっこれ食べものじゃないやつだ」という危機感を呼び覚まします。
このヤバさと、清涼感・旨味が絶妙なバランスとなって味覚に襲い掛かってきて、よくわからんままにご飯を貪っていき、やがて汁がなくなったところで我に返ります。
なんだったんだ、今の体験は……?
味:★★★☆☆
価格:★★★☆☆
美味いというより「面白い」という表現が近いです。
あなたの近くの海にもイボニシがいるはずなので(道東・道北のぞく)ぜひ採って「ニシ汁」を作ってみてください。
面白いよ、マジで。
コメント
島根県ではこの貝をタバコ貝と呼び、ニナやホベを取る時に混ざると怒られておりました。ニナの煮付けを食べる際にたまに口にして、辛さに驚いた小さな頃の思い出が・・・。タバコの葉を口にしたような刺激なのでしょうかね?
たまたまできてた口内炎も直撃だ!
((((’□’;))))アワワワ
ニシ貝って食べられる地域が限られてるのですね。
私は伊勢志摩出身なので、ふつうにオヤツ用に獲ってました。
確かに苦かったので、晩酌してるじいちゃんに押し付けたような気がします。