基調的な物価上昇率は再び低下傾向に
総務省は8月23日、7月分全国消費者物価を発表した。コアCPI(除く生鮮食品)の前年同月比は、電気・ガス料金引き上げの影響から3か月連続で上昇したが、上昇率は概ね事前予想通りだった。
7月のコアCPIは前年同月比+2.7%と前月の同+2.6%を上回った。上昇は3か月連続となる。7月は電気・ガス料金の補助金削減が、物価を押し上げた。電気・ガス料金はCPIの前年比を6月と比べて0.35%ポイント押し上げた。
それでもコアCPIの前年比上昇率が6月と比べて0.1%ポイントしか高まらなかったのは、生鮮食品を除く食料品、宿泊料、通信費(携帯電話)が、CPIの前年比上昇率をそれぞれ0.1%ポイント程度押し下げたことによる。
昨年には一時2桁近い前年比上昇率を示していた生鮮食品を除く食料品価格も、7月には同+2.6%まで低下し、CPIの上昇率を主導する役割を既に終えている。
基調的な物価動向を示す「食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合」の前年比上昇率は6月には一時的に上振れたが、7月には再び低下傾向に復し、+1.6%となった。日本銀行の2%の物価目標からどんどん遠ざかっている状況だ(図表1)。
図表1 基調的な消費者物価上昇率の推移(全国消費者物価)
9月に実質賃金上昇率がプラス基調に転じる可能性
電気・ガス料金の値上げは、今回の7月で一巡した。このため、コアCPIの前年比上昇率は9月には低下し、さらに政府が電気・ガス料金の補助金制度を3か月間復活させることから、9月のコアCPIの前年比上昇率は大きく下振れることが予想される。9月のコアCPIは前年比で2%程度、10月、11月のコアCPIは1%台まで一時的に低下しよう。
その結果、9月以降、実質賃金は、安定的に前年比で上昇するプラス基調に転じることが見込まれる。
日本銀行が注目するサービス価格も下振れ
日本銀行は、特にサービス価格の動きに注目している。賃金上昇分がサービス価格に転嫁され、賃金上昇を伴う物価上昇につながること(第2の力)が、2%の物価目標達成の条件、と考えているためだ。
しかし、実際にはサービス価格の上昇率は高まっていない。7月のサービス価格は前年同月比+1.4%と前月の+1.7%を大きく下回り、前月の上振れが一時的だったことを示した。サービス価格の上昇率は、前年比で1%程度に向かって低下傾向を辿っている状況だ。
また、日本銀行が前日に発表した6月企業サービス価格は、前月比横ばいとなり、3・4月の上振れが一時的だったことを改めて裏付けた。
2%の物価目標達成は見えてこない
全国消費者物価にみるコアCPIは、7月に前年比+2.7%でピークを打ち、10月、11月には1%台に低下することが見込まれる。電気・ガス料金の補助金が終了することで、12月には再び2%台に戻るだろうが、その後は緩やかな低下傾向を辿り、2026年には1%を下回る水準まで低下すると予想する(図表2)。
基調的な物価動向を示す「食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合」の前年比上昇率も明確な低下傾向を辿っていることから、日本銀行が期待する賃金と物価の好循環、2%の物価目標達成は依然として難しい。
ただし、物価安定の状態が2%をかなり下回るとしても、現在の0%近傍の政策金利は低すぎることから、2%の物価目標達成如何に関わらず、日本銀行は、しばらく追加利上げを進めることになるだろう。
日本銀行は7月末の決定会合で追加利上げを決めたが、その直後に急速な円高、株安が進んだことから、次の追加利上げにはやや慎重にならざるを得ないのではないか。また、基調的な物価上昇率が高まらないことも、早期の追加利上げには慎重な要因となる。日本銀行の次の追加利上げの時期は2025年1月、と現時点では見ておきたい。
図表2 コアCPI(全国消費者物価)の予測値
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