あせも、かゆみ… 汗の肌トラブル防ぐ5つのコツ
夏は、大量にかいた汗を放置した結果、あせも(汗の通り道が詰まることによって水ぶくれや皮疹ができる)や、かゆみ、肌荒れなどのトラブルに悩む人が増える。がまんできずについついかきむしって悪化させてしまうこともあるだろう。こうした事態に陥る前に知っておきたい汗対策を、大阪大学医学部皮膚科学教室准教授・室田浩之さんに聞いた。
余分な汗を放置すると肌トラブルにつながる
――前回「『汗かき下手』は肌トラブルのもと 汗の意外な役割」で、汗には多くのメリットがあり、「汗をかくこと」と「かいたあとの汗」は区別して考えるほうがよいという話をしていただきました。
そうでしたね。かいた瞬間の汗は「体温調節」のほか、皮膚表面で「保湿」「抗菌」などのメリットを発揮しますが、そのメリットは時間とともに損なわれます。余分な汗は残らず蒸発してしまうのが理想ですが、衣類の性質によっては蒸発しにくいものもあるし、夏場の高温多湿環境で汗の気化を期待しても難しいときもある。そうした結果、余分な汗が蒸発せず長時間放置されると、汗の出口が詰まってあせもができたり、皮膚表面のほこりなどと混じって刺激になり、かゆみなどの肌トラブルにつながりやすくなる、という話をしました。
あせも・肌トラブルの予防と対策
――ではそうした肌トラブルが起きないための対策として、具体的にはどのようなことに気をつけたらよいでしょうか?
「余分な汗を長時間皮膚に残さない」ことが大切ですから、基本的には、たくさん汗をかいたあとは洗い流す、濡れた衣類は着替えるなどの対策が必要です。ただし、すぐにシャワーが使えるような環境にはないことも多いですから、普段外出しているときなどは、次に挙げる(1)(2)のようなことを心がけてください。また、入浴時や入浴後に気をつける点については(3)(4)を、衣類の選び方については(5)を参考にしてください。
【普段気をつけること】
(1)手洗いは腕まで
汗はシワになっている場所にたまりやすいので、手を洗うときに同時に手首、肘から腕あたりまで水で洗い流す習慣をつけるとよいでしょう。
(2)おしぼり、濡れタオルで吸い取る
おしぼりや濡らしたハンドタオルで肌を押さえるように汗を吸い取ります。乾いたタオルだと摩擦を生じる恐れがありますし、ある程度水分を皮膚に与えるほうが気化熱を生じやすいと考えられます。市販の汗拭きシートを利用してもよいですが、皮膚に炎症がある場合は、香料やパウダーなどが刺激になることもあるので注意しましょう。
【入浴時、入浴後などに気をつけること】
(3)入浴・シャワーの温度は38~40℃のぬるめ
入浴でもシャワーでも、特に皮膚に炎症があるなど過敏になっているときは、38~40℃とぬるめにしましょう。この温度領域が壊れたバリアを回復するのに最適といわれています。
また、汗と直接関係があるか分かりませんが、皮膚が過敏なときや、ストレスで疲れているときなどは、お風呂上がりなどで皮膚が温まるとかゆくなる人が多いようです。そうした場合は、一般的には冷やすとかゆみが止まりやすいです。
(4)夏でも保湿ケアを
保湿ケアも重要です。しっかりと泡立てて汗や汚れを洗い流したあとは、夏でも保湿するほうがよいでしょう。アトピー性皮膚炎の患者さん9例にセラミド[注1]ケア成分入りクリームとプラセボ(有効成分を含まない偽薬のこと)を左右の肘の内側に塗り分けてもらい、発汗量の変化を見る実験をしたところ、セラミドケア成分入りクリームを塗ったほうが発汗量が多いという結果でした[注2]。特に汗が出にくい人は、汗の出口が詰まったり、ドライスキン気味になっていますから、保湿ケアをするほうが汗が出やすくなると考えられます。
【衣類選びで気をつけること】
(5)通気性の良い速乾性の衣類を
背中などに汗をかき、蒸れてかゆくなる人も多いようです。あせもは蒸れて汗がたまる場所にできやすく、汗の出口が閉塞してあせもができたところは、その後しばらく汗がかけなくなります(「『汗かき下手』は肌トラブルのもと 汗の意外な役割」参照)。ですから背中一面の広い範囲にあせもができてしまうと、全身の体温調節にも影響を及ぼし、熱中症のリスクも高くなります。
[注1]セラミドとは皮膚の角層の水分保有に関わる成分で、外部刺激から肌を守るバリア機能を助ける働きがある。
[注2]進藤翔子、室田浩之ほか 発汗学 2015;22(2):91-92.
あせもができる前に、湿った状態を放置して蒸らさないように、ときどき風を通すことを心がけてください。汗の蒸発を促しやすい、つまり吸湿性が良く湿ったあとでも乾きやすい素材の衣類を選ぶことも大切です。最近は新素材を使った高機能な下着なども多く市販されていますから、そういったものを利用するのもよいと思います。
日本人は吸湿性の良い綿を好む傾向があるようです。綿ももちろんよいのですが、皮膚表面に汗を残さないという意味では、「肌に密着したポリエステル」を選ぶほうが綿よりも水分を素早く吸収・放散するため汗の蒸発で奪われる気化熱がより多く、体温調節に貢献しているという報告もあります[注3]。アスリートのユニホームも最近は密着したポリエステルに変わってきていますね。
汗はかいたほうがいい!かかないとドライスキンに!?
――先生はアトピー性皮膚炎で汗をかけない人に対しても、できるだけ汗をかくことを目標に指導されるということでした(「『汗かき下手』は肌トラブルのもと 汗の意外な役割」参照)。一般の人も上記のような対策をしながら、どんどん汗をかいていくほうがよいのですね。
そうですね。これはあくまでも推測ですが、本来なら、汗をかけるはずの年代であっても、空調環境下で過ごすことが多く汗をかく機会が少なくなると、汗をかけなくなって肌もドライな方向に進むのではないかと思います。汗を毛嫌いせず、定期的に運動するなど、きちんと汗をかくような習慣を持つことが重要です。
私たちは生まれつき200万~500万個の汗腺を全身に持っています。汗腺の数自体は生涯変わることはないのですが、生まれてきたときはほとんど汗を出せず、成長の過程で、体を動かす、泣く、温度環境にさらされるといったことによって徐々に汗腺が発達して汗がかけるようになっていきます。3歳くらいまでのこの発達の過程で、汗を出す「能動汗腺」と汗を出さない「不能汗腺」の割合が決まってくるといわれています。
そして汗がかけるようになってくると、子ども時代はどんどん汗が出て12歳ごろがピークで、成人の2倍くらい汗をかきます。40代を超えると徐々に発汗能力が失われていき、高齢者はかなり発汗量が減ります。発汗能力は最初は足から失われていき、スネの乾燥を自覚する人が増えてきます。次は背中、体幹、頭は最後まで発汗能力が残ります。
汗はいろいろな意味でライフスタイルの影響を受けています。汗腺は筋肉の膜に囲まれているので、足腰の筋肉と同じで動かなくなると衰えるのだろうと考えられます。しかし、筋肉がトレーニングで発達するように、いったん能動化した汗腺は運動などでしっかり汗をかいて使うべき機能を使うようにすればまた汗がかけるようになります。汗をかきやすい季節だからこそ、上手にかいて上手にケアするなど、うまく汗と付き合ってほしいと思います。
[注3]平田耕造ほか 「被服による皮膚圧迫が体温調節反応に及ぼす影響」 デサントスポーツ科学 2003;24:3-14.
大阪大学医学部皮膚科学教室准教授。1995年長崎大学医学部卒業、2002年長崎大学大学院修了。国立療養所川棚病院(現長崎川棚医療センター)、長崎大学医学部附属病院(現長崎大学病院)などを経て、2004年大阪大学大学院医学系研究科皮膚科学教室助手となり、アトピー性皮膚炎専門外来などを担当してきた。日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版の作成委員と分担執筆を担当。
(ライター 塚越小枝子)
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