東京女子医大元理事長を逮捕 報酬1億円を不当支払いか
東京女子医科大学(東京・新宿)が発注した施設の建設工事を巡り、建築士の男性に不当な報酬を支払い1億円を超える損害を同大に与えたとして、警視庁捜査2課は13日、同大元理事長の岩本絹子容疑者(78)=東京都江戸川区=を背任の疑いで逮捕した。同課は資金の一部が元理事長に渡った可能性があるとみて調べる。
東京女子医大を巡っては不透明な資金支出など様々なガバナンスの問題が指摘されており、一連の混乱は元トップの刑事事件に発展した。
岩本元理事長の逮捕容疑は2018年7月〜20年2月にかけて、大学が発注した新校舎の建設工事を巡り、東京都内にある建築会社社長の60代男性に対して建築アドバイザー業務報酬名目で21回にわたり大学に報酬を振り込ませ、計約1億1700万円の損害を与えた疑いがある。同課は元理事長の認否を明らかにしていない。
同大の第三者委員会が24年8月に公表した報告書によると、建築会社社長の男性は1級建築士の資格を持つ。16年4月に非常勤嘱託職員として大学に雇用された。
男性には16〜19年に計約2千万円の給与、18年7月〜22年2月には給与と別に計約3億円のアドバイザー報酬が支払われた。支払いは形式的に理事会などの承認を得ていたが、金額の根拠や業務内容について具体的な説明や議論がないまま決定したという。
同課は男性のアドバイザー業務に実態がなかったとみており、男性のほか、大学の元職員の50代女性も報酬の支払いに関わったとみて任意で調べる。
東京女子医大は13日、岩本元理事長の逮捕を受けて「全てのステークホルダーの皆様に深くおわび申し上げる。捜査に全面的に協力し、大学全体で原因究明と再発防止に全力を尽くしていく」とのコメントを出した。
岩本元理事長は1973年に東京女子医大を卒業。東京都江戸川区内に産婦人科クリニックを開業し院長を務めた。2014年には同大副理事長に就き、19年に理事長に就任した。
東京女子医大を巡っては同課が24年3月、同窓会組織で一般社団法人の「至誠会」から勤務実態のない元職員に不正に給与が支出された疑いがあるとして、一般社団法人法違反(特別背任)容疑で大学や岩本元理事長宅を関係先として家宅捜索した。
家宅捜索を受け同大は24年4月、第三者委員会を設置した。同年8月に公表された報告書は、岩本元理事長に権限が集中する「1強体制」でガバナンスが機能不全だったと指摘した。岩本元理事長は同月、理事長職や理事など大学の全役職を解任された。
東京女子医大のホームページによると、同大は前身の東京女医学校が1900年に創立された。「女性のみに医学教育を行う国内で唯一の教育機関」をうたい、2024年5月時点で約千人の学生が在籍している。
岩本元理事長、権限集中し学内混乱 「側近を厚遇」批判も
東京女子医科大学元理事長の岩本絹子容疑者は大学法人の副理事長に就任した2014年以来、医療事故などで悪化した法人の経営再建を担った。コストや人件費の削減を進め、3年連続で赤字だった決算を17年度に黒字化させた。
次第に権限が集中するようになり、学内では混乱も生じた。新型コロナウイルスの感染が広がった20年、一般患者の受診控えなどによる経営悪化のため夏のボーナスを支給しないと教職員向けに通知。数百人の看護師が退職を希望するトラブルが起きた。
14年度に4362人いた職員は23年度に3327人に減少。人材不足の影響で23年度の病床稼働率は約5割に低下した。経営環境が再び厳しくなる一方、24年3月に警視庁の捜査が入り、岩本元理事長が自身に近い職員らを厚遇していた疑いが浮上した。
女子医大の第三者委員会は24年8月の調査報告書で「(岩本元理事長が)高度医療の担い手となる教職員に人件費を支払うことを渋っておきながら、側近らに過大とも思われる報酬を支払っている」と批判した。
私立大学に対しては教育環境の向上などを目的として、国から私学助成金が交付される。東京女子医大は23年度に約20億円の助成金を受けた。公費が投入される教育・医療機関として経営には高い透明性が求められる。
捜査幹部は「自身や周辺を利することに権限を悪用した疑いがある」とみる。警視庁は岩本元理事長が大学運営トップを担った5年間の資金の流れを解明する方針だ。