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プーチン大統領、ロシア全土に警戒体制 国内の反発封じ

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ロシアのプーチン大統領が19日、9月末に一方的な「併合」を宣言したウクライナ東・南部4州に戒厳令を敷くと表明した。注目されるのは同時に発令したロシア全土で警戒体制を強める大統領令だ。プーチン氏は4州の戦況悪化だけでなく、ウクライナの後方かく乱工作と内政不安にも危機感を募らせ、事実上の戦時体制移行を迫られた。

「きょうの議題に移る前に、きわめて重要な問題に触れたい」。プーチン氏は19日、政権幹部を招集した安全保障会議の冒頭、いつにも増して厳しい表情を見せた。本来の議題は移民問題だったが、苦戦するウクライナ軍事侵攻を巡り、急きょ戒厳令とロシア全土への警戒体制導入の発表に切り替えたもようだ。

戒厳令は軍に権限を集中し、外出禁止令や通信の規制、民間施設などの接収を可能にする非常手段だ。9月中旬までにウクライナ軍によりハリコフ州を奪還され、10月19日には南部ヘルソン州で同軍の攻勢が本格化した。9月21日に発令した一部予備役を招集する部分動員令に続いて、戦時体制の強化を迫られた。

苦境が深まるなか、「併合」前に4州の占領地に敷いていた戒厳令を復活させたのは自然といえる。むしろ、ロシア全国に発令した警戒体制が、プーチン氏が抱く危機感の強さを示す。

今回の警戒体制は3段階ある。まず、ウクライナと隣接するロシア南部の各州に「中レベル対応」と呼ぶかなり強い警戒体制を敷いた。さらに南部連邦管区と首都モスクワを含む中央連邦管区に「高度準備体制」を、全国のその他の地域には「基本準備体制」をそれぞれ導入した。

「中レベル対応」では、地域防衛のために経済や行政組織を動員し、軍部隊の物資補給など全面的支援を各地域に強制する。「準備体制」では「高度」と「基本」で程度の差はあるが、交通機関など重要な施設の安全確保や社会秩序維持への警備、取り締まりの強化が求められる。

プーチン氏は全土の警戒体制で2つのリスクを抑え込もうとしている。一つは10月8日にクリミア半島とロシア南部を結ぶ「クリミア大橋」で起きた爆破事件のような、ウクライナによるとされる後方かく乱工作、もう一つは部分動員令をきっかけに広がったプーチン政権への国民の反発だ。

ウクライナは東・南部での軍事攻勢だけでなく、ロシア国内で破壊工作をしているのではないかとプーチン政権は警戒している。8月には民族主義的思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘ダリア氏がモスクワ郊外で自動車爆弾の爆発により死亡する事件があり、ロシア当局は「ウクライナの特殊機関の工作」と主張している。

プーチン氏は「内なる敵」にもおびえる。部分動員令の発令直後から、政権に抗議する街頭デモが広がり、2000人以上が拘束された。軍への招集を逃れるため国外に脱出する人も後を絶たない。プーチン氏は10月14日、国民のさらなる反発を恐れ、「動員は約2週間で終わる」と約束せざるをえなかった。

国民の「プーチン離れ」は広がりつつあり、独立系調査機関レバダセンターが部分動員令の直後の9月下旬に実施した世論調査によると、プーチン氏の支持率は83%から77%に急落した。実際はもっと深刻とみられる。警戒体制に盛り込んだ社会秩序の維持強化には、さらなる内政の締め付けで反政権の動きを封じ込める思惑が透ける。

戦時体制の構築により、プーチン政権が反対論を押し切って、過激な手段に訴える恐れもある。ロシア軍を支える南部チェチェン共和国のカディロフ首長は1日、ウクライナ東部リマンからのロシア軍撤退を受け、「低出力の核兵器」を使うべきだと指摘した。

カディロフ氏らロシアの保守強硬派には、プーチン氏のやり方を「生ぬるい」とみなす人が少なくない。保守系の政治家や思想家、治安組織や軍幹部ら保守強硬派は政権を支える中核であり、苦境に立たされたプーチン氏が彼らの主張を無視できず、いずれ小型核の使用や総動員令など危険な賭けに出る可能性は否定できない。

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