中国、生産コスト急騰も転嫁に遅れ 5月卸売物価9%上昇
【上海=川手伊織】中国で生産コストが高騰するなか、最終製品への価格転嫁が遅れている。5月の卸売物価指数は前年同月比9.0%上昇したが、消費者物価指数(CPI)の伸びは1.3%にとどまった。生活品の値上がりが庶民の不満を高めると懸念する政府が価格統制を強めているのが一因で、企業の採算悪化につながっている。
中国国家統計局が9日発表した卸売物価指数の上昇率はリーマン・ショックが起きた2008年9月以来、12年8カ月ぶりの大きさとなった。21年1月にプラスに転じた後、4カ月で8.7ポイントも拡大した。原燃料価格が上昇しているためだ。
卸売物価指数のうち、資源や加工品など生産財は12%上がり、過去最高の伸び率に並んだ。資源高が石油や石炭、非鉄金属の加工品にも広がりつつある。20年春に新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で国際商品市況が大きく悪化した反動もある。
中国の気候変動対応も物価押し上げ要因だ。習近平(シー・ジンピン)国家主席は「30年までに二酸化炭素(CO2)排出量をピークアウトさせ、60年より早く実質ゼロにする」という努力目標を掲げた。指導部の大方針をうけ、河北省唐山市の地元政府は地場の鉄鋼メーカーに減産を指導した。鉄鋼業は供給制約も重なり4割上がった。
対照的に、消費者に近い最終製品の値上がり幅は小さい。CPIは3カ月連続で伸びたが、主因はガソリンなど自動車燃料で21%上昇した。主要国の中央銀行が物価の趨勢を分析するうえで重視する「食料とエネルギーを除くコア指数」は0.9%どまりで、新型コロナ後の低空飛行から抜け出せていない。
小売りの現場まで価格転嫁が進まない一つの要因に、中国政府による価格統制がある。
「不法な値上げの手掛かりをしらみつぶしに調べる」。中国国家発展改革委員会(発改委)は9日、資源高への対応をめぐり、価格モニターの担当者らを集めた会議を開いた。前日8日にも各省や直轄市の政府関係者を集めたビデオ形式の会議で「物価上昇に対応し、庶民の生活を守る仕組みを構築する」よう要求した。
5月23日には鉄鉱石や鋼材など資源会社を集めて「過剰な投機が価格上昇を助長した」と強調した。国際商品市況の高騰に合わせた価格のつり上げをやめるよう直接指導した。
当局による価格統制は小売価格の上昇を抑える効果はあるが、副作用も大きい。中小企業などがコスト高と価格抑制の板挟みとなり、採算を悪化させている。
国家統計局によると、中小零細企業が多い民間製造業は4月時点で21.7%が赤字だった。前年同月より5ポイント近く改善したが、新型コロナ前の19年4月を2.6ポイント上回った。
国際経済研究所の伊藤信悟氏は「新型コロナで企業に構造変化を問う圧力は高まったが、中国社会が対応するには一定の時間がかかる」と語る。
中国は就業者の8割が中小零細企業で働く。収益の回復がもたつけば、雇用に響きかねない。都市部の新規雇用は1~4月時点で新型コロナ前の水準に戻っていない。中長期的にみれば、価格統制など政府が市場に介入するツケは大きく、経済正常化の足かせになっている。
国務院(政府)常務会議は5月、中小零細企業に雇用安定助成金を支給する方針を示した。財政で雇用の下支えを狙うが、中小零細企業の収益力が高まらない限り、力強い雇用や消費の拡大は見込みにくい。
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