反日デモ最大級 中国、民意演出で日本に圧力
【北京=中沢克二】警察の通行規制に従いつつ真新しい駐中国日本大使館正面の菊の御紋の方向に生卵とペットボトルを投げる数千人のデモ隊――。15日、中国政府が容認した大規模デモは、尖閣諸島の国有化に一丸となって反対する中国国民の姿を演出。日本領海への中国船侵入と合わせて日本に圧力をかける狙いがある。ただネット社会ではデモを統制できなくなる恐れもあり、共産党大会を前に内政、外交とも火種を抱えた形だ。
「デモの人たちはこっちに並べ」。日本大使館前の大通りでは大量の私服警官の指示に従って若者、カップルが横断幕を掲げて列をなす。在外公館保護などを規定したウィーン条約を無視した投石を警察が容認する異常な光景だ。
8月19日に中国各地で反日デモが発生。同27日には北京で丹羽宇一郎駐中国大使(当時)の公用車が襲われて国旗を奪われた。だが、首都で大きなデモは起きなかった。15日の北京のデモは2005年、10年に続く数万人規模の大規模な活動となった。
今回、なぜ当局はデモを容認したのか。胡錦濤国家主席ら最高指導部が日本の尖閣国有化は「不法で無効」と宣言。日本の動きを、いかにも「中国13億人の国民が皆、反対している」(中国の外交専門家)と強弁するための演出といえる。
中国が要求する国有化の撤回はもはや困難だ。中国側もそれを感じつつ、日本に何らかの譲歩を求める。とはいえ主権、領土を巡る究極の落としどころはない。せいぜい、中国側が1970年代から一方的に提起してきた「将来の世代に問題を先送りする棚上げ論」に再び戻るため、面目が立つ方法を日本が共に考えることぐらいだろう。
解決が難しいからこそ、現在の中国指導部は内政上の批判を受けないよう強い態度を取り、デモも容認している。
北京の米国大使館に群衆が生卵を投げる――。99年5月に見た光景だ。ユーゴスラビアの中国大使館を米軍機が誤爆し3人が死亡。大学生中心の数万人規模のデモ隊が米大使館を囲んだ。当時は北京の大学の学生組織と当局が組んで計画的にバスで学生を大使館街に投入。統制が難しくなると当時、国家副主席だった胡錦濤氏がテレビ演説で「愛国的な行動を支持するが、過激な行動は自制すべきだ」と冷静な対応を呼びかけ、デモはピタリと止まった。
今回のデモは今のところ、組織的に学生を投入する様子はない。北京大学などは学生にデモに参加しないよう求めており、大学名を明示した横断幕はない。ネット上の呼びかけに応じた20代後半~30代の若者の参加が多いのが特徴だ。
99年に数百万人にすぎなかったネット人口は今や5億人以上。政府の統制は利きにくい。15日朝には激高したデモ隊と武装警察が衝突し、一時不穏な空気が流れた。今後コントロール不能になった場合、2週間ぶりに復活した「病み上がり」ともいわれる習近平国家副主席が99年の胡氏のように国民に冷静さを呼びかける役回りを演じるかもしれない。